第3話 ドアを叩く音
SNSに動画を投稿して一時間経つと、反応が出てきた。かなり拡散されているが、動画が本物だと信じてくれない。AIで作ったフェイク動画じゃないかとコメントがついている。
『フェイク動画じゃありません! 危険ですから外出を控えて下さい!』
俺はSNSにコメントを返したが、嘘つき呼ばわりされた。悲しいことに信じてもらえない。
警察はダメ! SNSもダメ! どうすれば良い!
俺はマンションの部屋の中をウロウロと歩き回った。
「わっ! 凄い霧!」
「ホントだ!」
窓の外から子供の声が聞こえた。俺は窓を開けベランダに出てみる。
霧はマンション三階の高さまで来ていた。俺の部屋は四階なので、まだ大丈夫だが、霧がもっと上に来たらと思うと何やら不気味だ。
声のする方を見ると、向かいのマンションの四階から子供二人と母親が、ベランダから外を見ていた。
この辺りはマンションが多い。ベランダに出て外を見ている人が沢山いる。
よし……!
俺は大きな声でベランダに出ている人に呼びかけた。
「みなさん! 霧の中に不審者がいます! コンビニの店員さんが襲われました! 外へ出ないで下さい!」
エルフが変な粉をかけて店員が消えたと言っても信じてもらえそうにない。俺は『不審者がいる』と叫んで、何度も注意を呼びかけた。
すると向かいの母親が俺に聞き返してきた。
「それ、本当ですか!?」
「本当です! そこのコンビニがあるでしょ? 店員さんが襲われたんです!」
「怖いですね……」
「ええ。不審者です。霧が晴れるまで外に出ない方が良いですよ」
「気をつけます。ありがとうございます」
親子は、ベランダから部屋の中へ戻って行った。
俺の言葉が通じたのか、離れたマンションのベランダからも人がいなくなった。中には、部屋に入る時に親指を立てて、『グッジョブ!』をしてくれる人がいた。ちょっと嬉しかった。
コンビニで何が起ったのか、俺にもよくわからない。だが、アレはヤバイ。
これで少しは被害が減るだろう。安心した俺は、ベッドに倒れ込み眠気に任せて目をつぶった。
ドン! ドン! ドン!
誰かがドアを強く叩く音で、俺はベッドから飛び起きた。なぜインターホンを鳴らさない?
怪しさを感じて、俺はそっと玄関へ向かった。ベッドルームからキッチンを通り廊下へ。
ドアを叩く音は、ずっと続いている。廊下から見える玄関のドアが不気味に思え躊躇する。恐る恐るドアののぞき穴から外を見た。
「っ――!」
俺は悲鳴を上げそうになったが、必死に耐えた。ドアを叩いていたのは、コンビニにいた兵士風の男だった。絶対にドアを開けてはいけない!
俺は音を立てないように、声を出さないように、口を手で塞ぎながら、そっとベッドルームに戻った。
スマホを手に取りSNSに投稿する。
『霧が出ているH市です。怪しい男がドアをノックしています。絶対に開けないで下さい! 注意喚起! 拡散ご協力お願いします!』
しばらくすると、俺が投稿した記事が、次々に拡散されていく。
『五階住人です。ウチにも来ました。インターホン押さないでドア連打! 絶対開けない!』
同じマンションの住人と思われる人が、コメントをつけてくれた。どうやら俺の住む四階から上に行ったらしい。
俺は戸締まりを確認し、部屋でジッと息を殺して過ごすしかなかった。
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