第二章 邂逅
第4話 機動隊
「朝か……」
外が明るくなって来た。時計を見ると午前六時だ。
昨夜はベッドで布団にくるまり、ひたすら恐怖に耐えていた。いつの間にか寝てしまったらしい。
それにしても腹が減った。昨日から何も食べていない。コーヒーや紅茶も切らしていて、水道の水しか飲んでいないのだ。
そっと窓を開けてベランダに出てみる。東京といえども、十一月の朝は寒い。手をこすり合わせながら、ベランダから外の様子を見てみた。
「霧が……薄くなっている!」
間違いない! 昨日はベランダから下を見ても、真っ白で濃厚な霧しか見えなかった。だが、今朝は下のフロアのベランダが薄らと見える。
これなら外へ出られる! 昨日のエルフたちがいても、早めに見つけて逃げれば何とかなる!
それに、この部屋に籠城していても食料がない。最悪の場合、餓死してしまう。俺は目立たないグレーのコートを羽織り、あの謎の粉対策でマスクをして、慎重に外へ出た。
マンション内は問題なかった。人がいる気配はなかったが、エレベーターは密室で逃げ場がなくて怖い。階段を使って一階まで降りた。
マンションのロビーから、顔をのぞかせて通りを見る。通りは霧でよく見えない。昨日よりはマシだが、それでも見通しは悪い。
耳を澄ます。人の気配は感じない。
日曜の朝六時、さらに謎の霧のせいで外出自粛要請が政府から出ているのだ。外をうろついている人は、いないだろう。人の気配を感じたら、エルフだと思ってダッシュで逃げよう。マンハントの犠牲になるのは真っ平だ。
問題はどこへ買い出しに行くかだ。近くのコンビニか、離れた所にあるコンビニか。
迷ったが近くのコンビニに決めた。近くのコンビニは、昨日エルフが謎の行動をして、店員さんが消えたコンビニだ。正直、行くのは怖い。
だが、離れたコンビニは移動時間がかかる。移動時間がかかれば、あのエルフたちに遭遇する確率が上がる。こっちも危険だ。どっちも危険なら移動時間が短い方がマシだろうと判断した。
ゆっくり慎重に電柱に隠れながら、コンビニへ進む。霧は昨日よりも確実に薄くなっている。
コンビニの明かりが見えた。俺は昨日と同じように店の外から、店内の様子をうかがう。店員さんはいない。エルフたちもいない。
しばらく外から店内を見ていたが、特に危険はなさそうだ。俺はコンビニに突入した。手早く食料調達をして部屋に帰るのだ。
まず食料だ。お弁当、おにぎり、サンドイッチ、パン、カップ麺を適当にカゴに放り込む。続いて、チョコやポテチなどの菓子、コーヒー、紅茶、コーラなどをカゴに入れた。カゴ二つ山盛りの食料だ。
「あっ……」
消えた店員さんと大学生の服が、そのまま床に残されていた。かわいそうに……。二人は、わけの分からないまま、消されてしまったのだ。
俺は上を向き、涙を堪えてから、食料調達を再開した。
問題がある。店員さんがいないので、会計が出来ない。俺はレジにあったメモ書きにメッセージを残した。
『非常事態なので、食料品を持ち帰ります。後ほど精算させてください』
日付、時間、名前をメモに記入する。
そして、レジ横に防犯カメラに向かって、メモ書きを指さして頭を下げた。両手でカゴを持って部屋へ逃げ帰ろうとした。
だが、コンビニから出てマンションへ戻ろうとすると、マンションの前に人影が見えた。
(エルフじゃないか!?)
薄くなったとはいえ霧が出ているので、確証はない。だが、シルエットが何となく俺たちとは違う印象を受ける。
俺は足音を忍ばせて、マンションとは逆方向へ早足で移動した。俺の後ろから固い足音が聞こえる。革製の靴がアスファルトを叩く音だ。それも一人じゃない。複数人だ。日曜の朝早く、革靴を履いた人が複数人歩いていることはない。きっとあのエルフたちだ!
振り返っても霧のため姿は見えない。ということは、連中からも俺は見えていないだろう。何とか逃げ切ろう!
俺は足を速め、大通りに出た。左、左、左で、グルッと大回りすればマンションへ戻れる。俺は大通りを左折した。
すると後ろから車のエンジン音が聞こえてきた。ヘッドライトから大型の車だとわかる。霧が出ているからだろう、かなりゆっくり運転している。
後ろから来た車は、大通りに停車した。機動隊のバス型の車両だ。中から機動隊員さんが降りてきた。ヘルメットに盾を装備している。
(やった! 警察が動いてくれたんだ!)
通報した甲斐があった! 俺は喜びとホッとした気持ちで立ち止まった。だが、すぐに違う不安が頭をよぎった。
(俺の格好は不味いよな……)
俺は両手にコンビニのカゴを持って、カゴには食べ物が満載だ。そしてレシートはない。メモ書きを残してきたとはいえ、警察に泥棒とみなされるかもしれない。
どうしようかと思ったところ、すぐ先にビルの入り口があった。入り口の影に身を隠せそうだ。
俺はビルの入り口の影に入るとカゴを二つ床に置き、身を隠した。そっとのぞいて様子をうかがう。
機動隊は二十人くらいいる。みんな体格が良いから頼もしい。
あのエルフたちは五人いた。機動隊員が二十人いたら制圧出来るんじゃないか? 期待できるぞ!
(あっ!)
また、あのキラキラした粉だ! 俺は口を手でふさぎ、声を出すのを耐えた。
一人の機動隊員さんが、キラキラした粉をもろにかぶった。そして一瞬で、制服だけ残して機動隊員さんが消えた。
あのエルフだ! 次々に機動隊員さんが消えていく。
(逃げ……逃げなきゃ!)
俺は食料が詰まったカゴを置いたまま逃げ出した。
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