第45話 脱出作戦

 脱出作戦の打ち合わせを終えると俺たちは横田基地内にある宿泊施設に泊まった。レジスタンスの三人がピザを大喜びで平らげていた。サイズは当然アメリカンサイズ。俺は霧が出てから心労の連続のはずなのだが、二キロ太った。


 ――翌日。早朝から脱出作戦が開始された。朝五時に横田基地内の格納庫に集合し乗車。車列を組んでH市に向かう。車両はパッ見では米軍とはわからない普通の車両だ。

 先頭の一号車が俺とキャンディスさんが乗るいつもの黒いSUVだ。俺が地元民であり、キャンディスさんが何度もH市で行動していることから一号車に選ばれた。

 二号車。米軍特殊部隊シールズ隊員が四人乗った黒いSUVが続く。

 三号車と四号車は白いマイクロバスが二台。このマイクロバスにH市から避難するアメリカ人を乗せる。

 五号車。CIAの戦闘要員が運転する白いバン。白いバンにはレジスタンスの三人が同乗している。

 六号車、七号車。黒いSUVが二台。シールズの隊員が四人ずつ乗る。

 つまり俺とキャンディスさんの一号車が先導車両。

 三、四号車が避難するアメリカ人用車両。

 二号車、五、六、七号車は、戦闘要員の車両だ。二号車に隊長が乗っている。


 車列は横田基地を出発し、国道を走りH市に入る。H市の入り口では、検問のところに青ナンバーの高級車が止まっていた。高級車のそばに立つ立派なスーツを着た人たちが俺たちの車列に手を振り、検問の警察官はフリーパスで俺たちの車列を通した。

 何でも大使館の偉い人が検問所に来ているそうだ。アメリカ政府と日本政府の間で話が付いているが、現地でのトラブル回避のために派遣されたらしい。


 H市に入る。車列は霧の中をゆっくりと走る。

 運転をするキャンディスさんが、俺に指示する。

「そろそろ到着よ。連絡お願い」

「了解!」

 俺は助手席で大きなトランシーバーを手に取り、後続車両に向けて無線を飛ばす。

「こちら一号車のユウマ。間もなくポイントワンに到着します。各車両確認願います。オーバー」

 これからH市内を順番に回っていく。最初はポイントワン、H市の南側にあるマンションで、ここにはアメリカ人の四人家族が住んでいる。

 俺が無線連絡をすると、次々に返事が来る。

『二号車了解』

『三号車了解』

『四号車了解』

『五号車……こら! モーリー君! イタズラしないでくれ! 了解!』

 どうも五号車で犬獣人のモーリーが何かやらかしたらしい。俺はふふっと笑う。

『六号車了解』

『七号車了解』

『本部了解。各車両に伝達。今のところSNSに霧の帝国兵士が出現したとの情報はない。だが、ポイントワンの安全は必ず確認されたし。オーバー』

 俺は本部から伝達された良い情報に、ちょっとだけホッとする。

「着いたわ!」

 俺はすぐに無線で連絡をする。

「こちら一号車。ポイントワンに到着。オーバー」

『二号車了解。行動開始! ゴー!』

 すぐに後方の車両からシールズの隊員が降りてくる。まずシールズの隊員が周囲の安全を確認する。一チームがマンションの中へと入って、マンション内の安全の確認を行う。万一、霧の帝国兵士を発見した場合は、無線で連絡が入り、撤退が交戦か隊長が判断する。交戦する場合は、レジスタンスの三人と俺とキャンディスさんも攻撃に参加する。

 俺は頭の中で段取りを復習しながら、無線連絡を待つ。

 ちょっと問題だなと思うのは、シールズの隊員はみんな頭からすっぽりと白い防護服を着込んでガスマスク姿なのだ。霧を吸い込まないように、つまり魔石にならないための予防措置だ。

 そしてレジスタンスの三人は革鎧などで武装している。おまけに、ダークエルフ、ドワーフ、犬獣人。つまり普通の格好をしているのは、俺とキャンディスさんだけだ。必然的に俺とキャンディスさんが、H市に住むアメリカ人を迎えに行くことになる。

 無線が鳴る。

『ポイントワン! クリア! オーバー!』

「一号車了解。エスコートを開始する。オーバー」


 俺は無線に了解と返し、キャンディスさんと二人でアメリカ人家族を迎えに行く。場所はマンションの八階。部屋へ着くと、アメリカ人の若い夫婦は、ホッとした顔をして俺たちを歓迎してくれた。

 キャンディスさんが、若い夫婦を急かす。

「急いで下さい。他の方も迎えに行くので」

 家族は四人。奥さんが赤ん坊を抱っこし、旦那さんが小さな女の子の手を引く。俺は家族のトランクを四つ抱えマンションの廊下を歩く。身体強化を使えば、この程度はどうってことない。ガラガラひくよりも早い。

 俺が軽々とトランク四つを持ち上げたのを見て、旦那さんが驚き目を見張る。

「あの……重くないのですか?」

「鍛えてますから大丈夫です。それよりお子様の手を離さないで。下の階は霧が出ているので、迷子になったらアウトです」

「気をつけましょう」

 まだ、朝の六時だから小さな女の子は眠そうだ。歩きながらウトウトしているので、旦那さんが女の子を抱き上げた。旦那さんに抱っこされ女の子は幸せそうに目を閉じた。

(ああ、迎えに来て良かったな)

 俺はじんわりと胸が温かくなった。この幸せな家族が魔石にならず、安全な場所へ脱出出来る。そう思うと、この作戦に参加して良かったと心から思えるのだ。


 家族をマイクロバスに乗せて、ポイントワン終了だ。俺は無線を手にする。

「こちら一号車。ポイントワンでエスコート完了! オーバー!」

『こちら二号車。了解した。全員車に乗れ。ポイントツーへ向かう』

 二号車の隊長から指示が飛んだ。

 俺とキャンディスさんも黒いSUVに乗り込み、次の回収地点へ向かった。

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