第57話 突入カウントダウン
俺たちは工場に侵入した。
先行は米軍特殊部隊シールズのアルファチーム。続いて、俺たちジュリエットチーム、CIAのロメオチーム、米軍特殊部隊シールズのブラボーチームが入った。
アルファチームは、無駄のない動きでヌルヌルと食堂を抜けていく。俺はアルファチームの後ろをついて進みながら小声で犬獣人のモーリーに敵の有無を確認する。
「モーリー。敵は?」
「大丈夫だよ。匂いも音もしないよ。前の方にいるよ」
どうやら敵のエルフは拠点に使っている倉庫から出て来ていないようだ。偵察の時と同じ状況……。問題ない。
食堂から外へ出て、エルフの連中が拠点にしている倉庫へ向かう。建物の外へ出ると、霧が凄く視界が一気に悪くなった。
俺は米軍から支給されたゴーグルをつける。ゴーグルを付けると、サーモグラフィー機能のおかげで、前を進むアルファチームがサーモグラフィーで見えた。
アルファチームの先頭が右手をグーにして上へ向けた。『止まれ!』のハンドサインだ。俺たちジュリエットチームの先頭を進むキャンディスさんが、同じハンドサインを出す。俺たちは停止し、座って待機する。
ここまで横田基地で行った突入訓練通り……。
前方のアルファチームが動いたのが、ゴーグル越しのサーモグラフィーで分かった。
アルファチームの二人が動いている。サーモグラフィーでもスルスルと滑らかに動いているのがわかる。
(さすがだな!)
突入訓練の時も凄い動きだと思ったが、本番でも同じように動いているのが凄い。
これから二人が倉庫の入り口の見張り二人を始末する。
離れた位置に二つの熱源がある。あの二つの熱源がエルフの見張りだろう。二つの熱源に、アルファチームの二人が近づく。アルファチームの二人が見張りの口元を抑え、素早くナイフを突き刺すのがサーモグラフィーの動きでわかった。熱源が二つ。ゆっくりと地に横たわる。
――カチ! カチ! カチ!
耳につけた無線のレシーバーが、アルファチームの合図を伝える。
続いてアルファチームリーダーの声が聞こえた。
「見張りを排除。各チーム突入位置につけ!」
静かだが力のこもった声。
アルファチームは、倉庫の正面入り口。ブラボーチームは、倉庫の左手の窓からラダーを使って突入。ロメオチームは、倉庫の右手入り口。俺たちジュリエットチームは、正面入り口からアルファチームの後につく。
俺は正面入り口近くの壁に沿って座り、ジッと突入合図を待った。鼓動が早い。手にジットリと汗をかいている。ズボンで汗を軽くぬぐう。呼吸をコントロールすることを意識して、静かにゆっくり息を吸い、静かにゆっくり息を吐く。
俺は少しずつ落ち着きを取り戻し、俺の前で座って待機しているキャンディスさんの後ろ姿を観察する余裕が出てきた。
(お尻が大きいんだよな……)
緊張感のかけらもない想いが込み上げてきて、『何を考えているのだ!』と思わず笑いそうになる。必死で堪え肩を震わせていると、モーリーが後ろから顔をのぞき込んできた。
(なになに?)
(うるさいな! 何でもないよ!)
俺はモーリーと表情だけで会話し、モーリーの顔を手で押しやる。キャンディスさんが振り向き、俺とモーリーをにらむ。俺とモーリーは、じゃれ合うのを止めた。
――カチ! カチ! カチ!
――カチ! カチ! カチ!
耳につけた無線のレシーバーが、ブラボーチームとロメオチームからの合図を伝える。配置についたのだ。
アルファチームリーダーのヒソヒソ声がレシーバーに響く。
「突入準備完了。これから突入する。カウントダウンはファイブから。オーケー?」
――カチ! カチ!
――カチ! カチ!
ブラボーチームとロメオチームから、了解を意味するクリック音がレシーバーに返ってきた。
俺の前に座るキャンディスさんが、同じように無線をクリックする。
――カチ! カチ!
アルファチームリーダーの静かな声がレシーバーにやけに大きく響く。
「カウントダウン。ファイブ……フォー……スリー……」
俺はふっと息を吐き。突入の合図を待つ。
「ツー……ワン……。ゴゥ!」
突入だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます