第58話 突入――死屍累々
カウントダウンと同時に、アルファチームの一人が倉庫の扉を開けてフラッシュバンを倉庫内に投げ入れた。すぐに扉を閉める。
扉の向こうから無機質な乾いた破裂音。
――パンッ!
「ゴー! ゴー! ゴー!」
アルファチームリーダーの指示が飛び、アルファチームの先頭に立つ兵士が銃を構え倉庫内に入る。銃撃音が倉庫の中から聞こえてきた。
次々とアルファチームが倉庫内に突入し、キャンディスさんが動いた。キャンディスさんは、拳銃を下に向け腰を落とした姿勢で、スルスルと倉庫内に入って行く。俺、犬獣人のモーリー、ダークエルフのミアさん、ドワーフのガルフが続く。
倉庫の中は霧が薄い。
俺はゴーグルを上にずらし肉眼で状況を確認する。銃撃音が続き、敵エルフが倒されている。
今回の作戦はフラッシュバンでエルフを混乱させ、魔法障壁を展開する前に銃撃で倒す。上手くいっているようだ。
ブラボーチームも左手の大きな窓から進入し、ロメオチームも右側の扉から侵入している。
「グア!」
「アア!」
エルフの断末魔が続く。
アルファ、ブラボー、ロメオの各チームは、手近なエルフを次々に倒している。最初に突入したアルファチームの兵士が銃の弾を撃ち尽くし、腰から拳銃を取り出し連続して発砲する。
俺たちジュリエットチームは、アルファチームの後ろで撃ち漏らしをカバーする体勢を整えているが、出番はなさそそうだ。
一分と掛からず倉庫内のエルフは倒れた。倉庫内にいたエルフは十人。倉庫の床には血だまりが出来てエルフの死体が折り重なる。血の臭いが凄い。
俺は『凄惨な光景だ』と考えながらも、意識をしっかり保てていた。俺の住む町で好き勝手やったエルフに同情を寄せる気にはならないのだ。エルフ――霧の帝国にとって、俺たちは魔石の原料、家畜に過ぎない。姿形は人と似ていても、中身は全く違うのだ。
アルファチームのリーダーが無線を使う。
「撃ち方止め! 撃ち方止め!」
銃撃が止まった。だが、アルファ、ブラボー、ロメオの各チームは銃を下ろさない。
一人だけ生き残ったエルフがいるのだ。フラッシュバンを喰らいながら、魔法障壁を展開し銃撃を防ぎ生き残った。
アルファ、ブラボー、ロメオ。各チームの兵士は油断なく銃を生き残ったエルフに向けている。弾倉を交換する音が倉庫に響く。
キャンディスさんも生き残ったエルフに銃を向けていつでも発砲出来るように緊張感をみなぎらせている。
俺はダークエルフのミアさんに、生き残ったエルフについて聞く。
「ミアさん。あのエルフは?」
「指揮官だ。服装から間違いない」
生き残ったエルフは、美しい男性だ。透き通るような白い肌。絹糸のような金色の長い髪。ゆったりしたローブを着て、頭には銀のカチューシャをつけていた。
しかし銃弾が当たったようで、生き残ったエルフは左腕から血を流している。
俺はミアさんの言葉を無線で伝える。
「こちらユウマ。生き残ったエルフは、指揮官です。レジスタンスのミアさんが確認しました」
アルファチームリーダーが返事をした。
「了解した。情報感謝する。動いたら撃て!」
アルファチームリーダーは、まったく油断していない。各チームの兵士も油断なく銃を構えている。
エルフの右手が動いた。ダークエルフのミアさんが叫ぶ。
「粉をまくつもりだ! 魔石にされるぞ!」
犬獣人のモーリーが矢を放つ。同時に各チームの兵士が発砲した。凄まじい銃撃音。一カ所に銃弾が集中する。
だが、エルフは魔法障壁を展開し銃撃を防いだ。魔法障壁を展開したせいで、エルフの右手は動かない。意識が魔法にいっているので、体を動かせないのだ。
「撃ち方止め! 撃ち方止め!」
アルファチームリーダーが射撃停止を命じた。
エルフは動いていない。魔法障壁は張ったままだ。魔法障壁を解除すれば、こちらが銃撃を加えると理解している。
一見すると、俺たちの方が有利だが、そうとも言い切れない。銃弾にも限りがあるからだ。
俺たちはにらみ合いになった。誰も動かない。兵士たちの荒い息だけが聞こえる。
耳元のレシーバーからCIAのオーウェン長官の声が聞こえてきた。
「こちらCIAのオーウェンだ。CIAより要請! 生き残ったエルフに降伏勧告を行い捕虜にしたい」
俺たちが身につけたボディカメラの映像は、横田基地の作戦本部に送信されている。横田基地には、CIAのオーウェン長官や米軍のお歴々、日本の高坂議員もいる。
さらに横田基地から米国のホワイトハウスに映像を転送しているので、大統領や米政府要人もこの倉庫の様子を見ているはずだ。
なるほど……。生き残りのエルフから生きた情報を引き出したいと……。
オーウェン長官の狙いはわかるが、倉庫内は殺気立っている。アルファチームリーダーはCIAオーウェン長官の提案に返事をしない。
アルファチーム兵士の一人が吐き捨てる。
「交渉……? そんなことが出来る相手なのかよ! こいつら俺たちを同じ人間とは思ってないだろう!」
まさにその通りといった様子で、各チームの兵士たちがうなずく。CIAのキャンディスさんも渋い顔だ。
俺はミアさんに小声で問う。
「ミアさん。あの生き残ったエルフに降伏を促すようですが?」
「バカな! やつらは降伏などしない! 自分たちは選ばれた優等生物と考えているのだ! ブタに降伏する人間はいないだろう?」
「そういうことですよね」
俺は無線でミアさんの言葉をオーウェン長官に伝える。
「――とミアさんが言っています」
「ありがとう。ユウマ。ダメ元で試して欲しいんだ。それに現場は手詰まりだろう?」
手詰まり。CIAのオーウェン長官が言う通りだ。銃撃は魔法障壁で防がれている。
オーウェン長官は、言葉を続ける。
「アルファチームリーダー。どうだ? やるだけやらせてくれないか?」
「……」
「大統領の許可も出た」
「良いでしょう……。ですが、危ないと思ったら撃ちますよ?」
「結構だ。要請の受け入れ感謝する。キャンディス! 頼んだ!」
キャンディスさんが、銃を構えたまま一歩前へ出た。
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