第13話 一時の別れ

 戦闘が終り、俺はレジスタンスの三人と合流した。目の前には、エルフの死体が四つ……。力が抜けダラリとした死体に、俺は不気味さを感じた。


 ダークエルフのミアさんが、ナイフについた赤い血を拭いながら俺に話しかけてきた。

「ユウマ。絵は?」

「ああ。動画を撮れた」

「では、ドーガを君の同族に見せてくれ。エルフとの戦い方を、なるたけ多くの人に知って欲しい」

「わかった。すぐに拡散するように動画をアップするよ。ところで……、この死体はどうするんだ?」

「どうとは?」

 ダークエルフのミアさんは、ナイフを腰に差しながら首をひねった。

 公園に死体を転がしておくのは、どう考えても不味いと思うが、俺の懸念は伝わっていないようだ。恐らく文化の違いなのだろう。

 俺は丁寧な口調で説明を始めた。

「この国では、公園に死体が転がるなんてことはないんだ。このままでは大騒ぎになって不味い」

「そうなのか? では、ユウマの国の礼儀にのっとって葬ってはどうだ?」

「礼儀?」

「世界によって死者の葬り方は異なる。土に埋める。火や魔法で焼く。川や海に流す。ワザと獣に食わせる世界もあったな」


 どうも議論がズレてしまっている。

「いや。葬送の仕方を話しているのではないんだ。俺たちの国では、もう何十年も戦争がない。犯罪も少ない。とても平和な国なんだ。そしてこの辺りは、家族が平和に暮らしている住宅街だ。死体があったらみんなビックリする。警察……えーと……衛兵が大騒ぎする」

「なるほど。ここに死体があっては、不味いのだな? ユウマが困るのだな?」

「そうだ!」

「では、我々が持って帰ろう」

 持って帰る……? ああ、自分たちの世界に持ち帰るということだろう。


 俺はダークエルフのミアさんが言うことを理解して、ホッとした。公園にエルフの死体が転がっているのは、どう考えても不味いと思う。

「では、ゲートを開いて我々は一時帰還する。ユウマ相談があるんだが……」

「何だ?」

「私たちは、組織、レジスタンスにこの世界のことを報告する。そして、また、戻ってくる。安全にゲートを開く場所が欲しいのだ。次に来る時は、君の部屋にゲートを開いても良いだろうか?」

 なるほど。ゲートを開いて移動したら、敵のまっただ中ではシャレにならない。

「ああ、構わない。歓迎する!」

「そうか、では、またな」

 ダークエルフのミアさんが何か呪文を唱えると、空間に円形の影が出現した。これが、異世界と日本をつなぐゲートだ。ドワーフのガルフが、ポイポイとゲートの中に死体を四つ放り込む。


 ガルフが右手を差し出す。俺は差し出されたガルフの右手を握った。太くてゴツゴツとした手が力強く俺の右手を握ってくる。

「食いモノが旨かったぞ。また、何か食わせてくれ」

「わかった! 酒は?」

「最高だ! この世界の酒を飲むのが楽しみだ。また来るぞ!」

「待ってる!」

 ガルフがゲートの中に飛び込み消えた。


 犬獣人モーリーがバイバイと可愛く手を振りゲートに飛び込み、最後にダークエルフのミアさんがチラリとこちらを見て片手を上げゲートに入る。

 俺も手を上げミアさんを見送る。ミアさんの姿がゲートに吸い込まれると、シュッとゲートは消えた。


 俺は寂しさと心細さを感じながら、薄くなった霧の中を自宅のあるマンションへ向かって歩きだした。

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