第25話 T市へ突入
キャンディスさんが運転する黒のSUVはT市に向かって、快適なドライブを続けている。霧がないって素晴らしい。
H市を出て、隣の市に入ってから南へ折れる。多摩丘陵のアップダウンのある道路を進むとT市だ。
既にT市の上には、霧のドームが出来ていた。
弛んでいた気持ちが、一気に引き締まる。俺は奥歯をグッかんだ。
運転席のキャンディスさんが、チョコレートバーをかじりながら俺に質問する。
「そろそろT市に入りますよ。愛ちゃんに連絡した?」
「あっ、はい。今します」
俺はスマホを操作して、愛にメッセージを送る。
『知り合いの車で、そっちに向かってる。もう、T市に入る』
『えっ!? 本当!?』
『T市は危ない状況だから出た方が良い。支度して、着替えも準備して』
『わかった。さっきドアをノックされた。ドアノブもガチャガチャされた。怖い』
ヒヤリとした。ドアをノック……。俺の部屋でも同じことが起った。霧の帝国の先行偵察部隊は、異世界から来た。だからインターホンの存在を知らない。それでドアをノックする。
俺は眉間にシワを寄せ、急いでスマホを操作する。
『ドアを開けちゃダメ!』
『わかった。待ってる』
すぐにキャンディスさんに報告しなくては。俺はスマホから目を離し、キャンディスさんに愛とやり取りしたメッセージの内容を伝えた。
「不味いわね……」
「ええ。キャンディスさんだけ引き返しても良いですよ」
「冗談! ここまで来て、それはないでしょ! T市に入ります!」
警察の展開が間に合っていないのだろう。T市に入る道に検問はなかった。俺たちの乗る黒いSUVは、霧の中へ突入した。
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