第八章 破壊
第50話 偵察
H市に住む在日アメリカ人は無事に脱出した。続いてT市に住む在日アメリカ人の脱出作戦も行われ成功した。
だが、あくまでもアメリカ人を脱出させただけで、日本人は霧の中に残っている。
さらに悪いことにH市では住民同士で食料の奪い合いが発生し怪我人が出ているらしい。なぜ『らしい』なのかというと、H市内は霧がかかっているので、警察や消防が機能していない。H市民がSNSや動画サイトにアップする情報から伝わってくるのだ。
こんな状況になっても日本政府は無策でH市とT市を機動隊で包囲して、出入りを禁じているだけなのだ。さすがに与党野党双方から岸辺総理の対応に批判が上がっているが、岸辺総理は頑として方針を変更しない。俺は政府の無策に怒りを感じた。
となると解決策は一つ。霧の発生装置を破壊することだ。
俺たちは、霧の発生装置を破壊すべく、H市の偵察に赴くことになった。
CIAが衛星写真と市街地情報を照合して、霧の発生装置がありそうな建物を絞り込んでくれた。
場所は俺が住むマンションの近所だった。灯台下暗しというか……。
「霧の帝国の先行偵察部隊が現れたのだから、この近辺であることは予想していた」
と、ダークエルフのミアさん。
ごもっともです。
俺、キャンディスさん、ダークエルフのミアさん、ドワーフのガルフ、犬獣人のモーリーの五人で探索中だ。
既に候補となっているマンションや店舗を探索したが、霧の発生装置は見つからなかった。残るは、目の前にある工場だ。
俺はひそひそ声でキャンディスさんに話しかけた。
「ここかな……?」
「だと思う。工場の中なら人目につきづらいでしょ? 絶好のロケーションね」
「ミアさん、どうですか?」
「怪しいと思う。この工場の地図を見せてくれ」
キャンディスさんが、スマホを取り出して操作するとスマホ画面に工場の大まかな地図が表示された。
ミアさん、ガルフ、モーリーがスマホをのぞき込む。キャンディスさんは、画面をスクロールしたり、立体に切り替えたりして、三人に見せる。
一通り見終わったところで、ダークエルフのミアさんがキャンディスさんの持つスマホを指さした。
「よし……。頭に入った……。近い建物から見ていこう。モーリー先行を!」
「了解だよ~!」
犬獣人のモーリーが先頭に立って工場の敷地内を進む。霧が掛かっているので、視界が悪い。耳と鼻が良い犬獣人のモーリーは、非常に心強い。
まずガードマンが待機する守衛所からだ。守衛所に人はいない。扉は閉まっていたが窓が開いていたので中に入る。犬獣人のモーリーと俺が先行して中を確認しハンドサインを送る。
『クリア!』
次の場所に向かおうとしたところ、キャンディスさんが待ったをかけた。
「鍵をお借りしましょう」
守衛所には鍵が保管されていた。
ありがたい。他の場所ではキャンディスさんがCIA仕込みのピッキングで鍵を開けていたが、時間を取られていたのだ。
事務所……、倉庫……、食堂……。入り口から近い順に確認して行く。鍵があるおかげで、かなりスピードがアップしている。
食堂から工場に向かおうとしたところで、モーリーがハンドサインを出した。
『止まれ!』
俺たちは無言で地面に膝をつき気配を消す。リーダーのミアさんが俺とキャンディスさんに指示を出す。
『ゴーグルを付けろ』
ゴーグルはCIAから支給されたサーモグラフィー機能が付いた特殊なゴーグルだ。二つ貸し出されていて、俺とキャンディスさんが持っている。ただ、このゴーグルを付けると視界が制限されるので、通常の行動には適していない。モーリーが敵の気配を察知したことで、ゴーグルの出番が初めて訪れたのだ。
俺とキャンディスさんは、ゴーグルを装着してサーモグラフィーモードにする。見え方が変わって、サーモグラフィー――つまり温度の高いところはオレンジ色で表示されるようになった。
(ビンゴ!)
前方にオレンジ色の人型の影が二つ映し出された。人型がいるのは、工場の入り口だ。恐らく霧の帝国の見張りだろう。
キャンディスさんがハンドサインで全員に伝え、ミアさんが答える。
『前方に二人』
『了解。モーリーは単独で偵察。残りは後退』
『了解!』
俺たちは食堂まで後退し、モーリーが単独で偵察に出た。モーリーは身軽な犬獣人で足音を消したりするのはお手の物だ。
俺たち四人は、万一に備えてジッと待った。
十五分経過して、モーリーが戻ってきた。ハンドサイン。
『ここだ!』
ついに霧の発生装置を発見した。ダークエルフのミアさんが指示を出す。
『撤収する』
俺たちは、そっと気配を消して工場から撤収した。
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