第21話 葛藤
彼女からのメッセージに俺は妙に居心地が悪い気分になった。チラリとキャンディスさんの方を見る。
「私のことは気にしないで構いませんよ」
「あっ……はい……」
どうしよう……。彼女とは、もう三ヶ月会っていないし、連絡すらとっていない。お互い仕事が忙しい。大学生から社会人になり会う時間が減ってしまったのだ。
大学生の時は、大学に行けば彼女がいて、大した用事がなくてもちょこちょこ会ってお茶をしたり、食事をしたり、気軽な付き合いが出来た。
社会人になると、お互い仕事が忙しく会う時間を作るのも大変だった。それどころか、仕事で疲れてしまい連絡をとるのも面倒になった。
会っても話といえば、仕事の愚痴。取引先がどうの、上司がどうのと、お互いトゲトゲしくてケンカになることあった。
自然とお互い避けるようになり、連絡もせず三ヶ月が過ぎていた。
もう、元カノといった方が良いかも……。
「返信しないんですか?」
「えっ!? あっ……いやっ……」
キャンディスさんの何気ない質問に、俺は追い詰められた気分になった。
キャンディスさんのスマートフォンが鳴る。
「ちょっと失礼しますね。大使館からです……。あっ! T市でも霧が発生しているそうです」
「T市?」
彼女のマンションはT市だ。今日は平日だが、仕事じゃないのか?
それにH市と違う地点で霧が発生した……ということは、T市にも霧の帝国の先行偵察部隊が現れるかもしれない!
俺はスマートフォンで彼女にメッセージを返した。
『今、家? 家から出ない方が良い。誰か来てもドアを開けないで!』
俺は彼女を切り捨てるような真似は出来なかった。大学時代から付き合って楽しい思い出が沢山ある。最近は距離が出来てしまったけれど、長く付き合っているから愛着のような気持ちもある。放っておくことは出来なかった。
彼女から返事がすぐに返ってきた。
『家にいる。具合が悪くて会社は休んだ。霧って毒はないの?』
『霧に毒はない。吸っても大丈夫。霧で治安が悪くなるから、鍵をかけて部屋から出ないで』
『わかった』
彼女が部屋から出なければ、とりあえず安心だ。俺はふうと息を吐いた。
「ユウマ。大丈夫ですか?」
「あっ! はい! その……知り合いがT市に住んでいて、霧が出たからどうすれば良いかと質問されました」
「それは心配ですね。大使館でも情報を集めています。何かわかったら教えますよ」
「頼みます」
俺はなぜだか浮気をしているような罪悪感を覚えながら、キャンディスさんとの会話を終えた。
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