第8話 レジスタンス
ダークエルフのミアさんは、淡々と俺に説明を続ける。時々激情が瞳に現れるが、口調によどみはない。強い意志で感情を抑えているのだろう。
エルフたち霧の帝国は、皇帝を頂点とした封建制の国で貴族がいる。
俺が見たエルフは貴族であろうとのことだ。恐らくは先遣偵察部隊で、リーダーのエルフが貴族、兵士が平民だろうと。貴族エルフの寿命は二百年を超える。兵士は平民のエルフで、平民の寿命は百年ほど。
「エルフの皇帝と皇族が、もっとも品質の良い魔石を用いて寿命を延ばし、若さを維持する。次に貴族。そして平民が魔石を得る」
「じゃあ、エルフの平民も魔石で寿命を延ばしているのか?」
「そうだ。それに魔石を使って若さを維持している」
俺はダークエルフのミアさんが提供してくれた情報を咀嚼する。天井を見上げ考えながら、ミアさんに問いを発した。
「エルフの国……霧の帝国全体が魔石になる人間を求めているということか……。えっと……、霧の帝国の人口は?」
「わからない。だが、何千年にもわたって沢山の世界が、霧の帝国に侵略された。そして住民は魔石にされ絶滅したのだよ。少ないということはないだろう」
俺はダークエルフのミアさんが発した言葉に背筋が寒くなった。コンビニで見たあの光景――人間が一瞬で消える光景が、世界中で繰り返されるのか……。
ミアさんは、俺の表情をジッと観察した後、俺に質問をした、
「この世界に人はどれくらい住んでいるのだ?」
俺はスマホを取り出して検索をする。
「八十億人だ」
「凄いな……。ヤツらにとって絶好の狩り場だろう」
胸糞が悪い。俺は盛大に顔をしかめた。ミアさんが、また俺の顔をジッと見ている。何なんだ?
俺はミアさんの行動を不快に感じながらも、もっと情報が欲しいと思った。ミアさんとの会話を続ける。
「魔石に人間を変える粉だが、マスクだとか、口元を布で覆うことで防げないのか?」
「無駄だ。体の周囲に粉が舞うだけで魔石になってしまう。全身を布で覆っていてもだ」
「どういう原理なんだよ……」
「原理は分からない。ある種の魔法ではないかと我々は考えている」
「魔法ね……」
なるほど、魔法か……。わからなくもない話だ。とにかく地球の物理法則や科学で物事を判断しない方が良さそうだ。誤った判断は命取りになりかねない。
「防ぐ方法はないのか?」
「一応薬はある。一度服用すれば魔石化するのを防げる」
ミアさんの言い振りからすると、予防薬やワクチンのような薬だろう。
「その薬を分けてもらうことは可能か?」
「いや。この薬は貴重な薬なのだ。我々の仲間にだけ配布されている。この世界の住人八十億人分などとても用意できない」
「それは……。そうなのか……。残念だな……」
「大変申し訳ない。我々も心苦しい」
三人は、そろってうなずく。
俺は改めて三人を見た。ダークエルフ、犬獣人、ドワーフ、種族がバラバラだ。人種ではない。種族がバラバラなのだ。彼らは同じ世界から来たのだろうか?
「君たちは……何なんだ? 見たところ三人は種族が違う。同じ世界の出身なのか? 三人は、仲間なんだよな?」
「我々はレジスタンス。霧の帝国に抵抗する組織だ」
「レジスタンス?」
「ああ。霧の帝国に侵略された世界から逃げ延びた人々で結成された組織だ。組織の安全のために、詳しいことは話せない」
俺はゴクリとツバを飲んだ。『組織の安全のため』。それは……、つまり俺が霧の帝国に捕まっても情報を漏れないようにするため。そもそも情報を知らなければ、漏らしようがないということだろう。
彼らの危機感の高さに、俺は今日何度目かの身震いをする。
「オイ! 見ろ!」
ドワーフのガルフが、TVを指さした。TVでは、俺がコンビニで撮影した動画が流れていた。
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