第54話 レオス・ヴィダールとプロポーズ
俺がクロセルを撃破すると同時に、白い空間は音もなく消え去っていった。クロセルを倒したら魔力が元に戻るかな、なんて淡い期待を抱いたがやはり戻ってこなかった。
「まあしょうがないか、あぶく銭みたいなものだったんだ。それに随分と調子に乗っていた気もする。戒めだ、これは」
そんなことより元の空間に戻ってきたのだ。
俺は部屋の隅にいるレインに駆け寄る。未だ目を覚まさないがすうすうと寝息を立てている。図太いというか、緊張感がないというか。
ペシペシとレインの頬を叩く。
「おい、起きろ。寝てていい場面じゃないぞ」
「んん~、誰? 私は……あ! 痛!」
思いっきり体を起こしたレインに俺の頭と彼女の頭がぶつかりあい、鈍い音を立てる。痛い。俺はオデコのあたりを手で抑えながらレインを見つめる。
「……レオス?」
「ああ、俺だよ」
「……ぐすっ……レオズゥゥゥ」
レインが目に涙を潤ませながら俺の胸に飛び込んでくる。領地に帰る途中でいきなり襲われたこと、御者の人が殺されてしまったこと、拘束されて眠らされたこと。気付いたら目の前に俺がいて安心してしまったこと。
泣きながら説明をするレインを俺は優しく頭をなでながら頷いてあげた。この前もベリトとの戦いがあったばかりなのに、また命の危険に晒されるなんてそりゃ怖いよな。俺がもっと傍にいられればよかったのに。
俺が今後の策を考えていると、部屋のドアが開く音が聞こえた。そこには気絶したケリモッサを引きづって登場するアインの姿があった。
「レオス! また無茶をしたのか」
開口一番俺の心配をする。いやお前こそどうしてここに来てるんだよ、手紙は……机の上におきっぱだった。あれを見られたか、ならまあしょうがない。でも一人で来てないと危なかったかもしれないんだぞ。
それはそれとして何故無茶をしたと分かるのか。ああ、そういえばムルムルと合体したままだったな。
「な、ムルムル。俺がいれば勝てただろ」
「うん、そうなのです……」
「なんだ元気がないな」
そう言うとムルムルはポンと俺との合体を解除し、頭の上に擬態した。
「少し、眠るのです」
そう言ってムルムルは目を閉じた。
「レオス、何があったんだ?」
「悪魔教ってやつが俺の魔力を使って悪魔を召喚したんだ。そいつを倒してやったんだよ。ちなみに契約者はそいつな、お前が首根っこ掴んでるやつ」
俺は自分の魔力は以前と同じくらいに吸われたことを伝える。それを聞いたアインは複雑な表情をしていた。
「元から運良く手に入った魔力だったんだ、力に溺れていた部分もあったし、皆にも謝らないといけないな」
「……僕は、レオスが遠くに行ってしまったようで怖くて、悔しかった。今も魔力が無くなったって聞いてホッとしている自分がいる。自分が浅ましくて仕方がないよ。こんな僕でもまた君の隣にいてもいいかな」
「何言ってるんだよ、俺だって立場が逆ならそう思っていたさ。謝られることなんかないよ。こちらこそごめんな」
「……レオスは最近なんかどこか寂しそうだった。私との会話もどこか上の空だったし」
俺はそんなに分かりやすく変わっていたのか……。俺の近くで見ていた二人が言うのだ、きっと間違いはないのだろう。だめだな、こんなままじゃ俺は最強にはなれない。借り物の力で最強に至る道はないのだ。
俺たちはその場を後にした。首謀者であるケリモッサは国へと引き渡された。これで悪魔教の脅威が伝わるといいのだが。
「それじゃあ、俺は寮に戻るわ、レインはどうする? というか今日はちょっと話があるから寮に泊まってくれ」
「う、うん。分かった」
「僕も泊まろうかな」
「好きにしろ」
「扱いがひどいよ」
いいんだよ、今日は大事なことをレインに伝えなければならない。俺が今日感じたこと、これからのこと、それらのことを考えて出した結論だ。
3人で寮に向かっていると、ドルッセン姉弟と遭遇した。
「レインさん! 無事だったのですわね!」
「よかったよー、僕たちも探索に協力してたんだ」
「そうか2人ともありがとうな」
俺はいい仲間たちを持ったなと思った。なおさら今までの自分が恥ずかしくなってくる。俺は二人にも今までのことを謝罪をする。
「そんなこと、気にしていませんわよ。それにもう前みたいにはならないんでしょう?」
「ま、僕は関係なかったし」
ホントに頭が上がらないな。俺はせめてものお礼の意味を込めてある提案をした。
「エレオノーラたちももう帰るだろ? ちょうどいいからアインを引き取ってくれないか? 寮に来るって言うけどどうせならお前たちのところのほうがいいだろ?」
「そそそそそ、そんなこと。確かに、アイン様是非我が家に招待されて頂けませんか?」
「うーん、そうだね。特に寮に行く理由もないし、よろしくお願いするよ」
エレオノーラが小さくガッツポーズをするのを俺は見逃さなかった。いい機会だろ、少しはアタックして気を引いておけ。
「それじゃあ俺たちは帰るわ、またな」
「2人とも気を付けるんだよ、まだ傷も癒えていないし」
大丈夫だ、と3人と別れる。俺はレインと2人で寮に帰っていく。
「それじゃあ私は部屋に――」
「待って、ちょっとこっち来て話をしない?」
俺は自室へと向かうレインを呼び止め、自分の部屋に誘った。いよいよだ。少し緊張してきた。
俺は散らかっている部屋を少し掃除してレインを部屋へと招き入れる。自分は椅子に座り、レインにはベットに腰かけてもらった。俺は言葉を紡ぐ。
「何から言ったらいいかな、初めは友達みたいな感じだった。一緒に遊んで、訓練して、周りには同じ年の子もいなかったし。口約束の婚約者だったけどそんなのあまり気にしていなかった。でも段々と成長していくレインを見て、意識せざるを得なくなっていった。レインは魅力的な女性になったし、俺が横にいてもいいかなって思った。それに最近は調子に乗っていた部分もあった」
レインは黙って俺の言葉を聞いてくれる。
「そんな時、俺が側にいないせいでレインが誘拐されたと聞いて激しく後悔した。仮初の強さに酔っていて大事なものがなんなのか見失っていた。本当に俺が必要としているものは何なのか、それがようやく分かったんだ」
俺は一息入れて、決意を込めて言う。
「だからレイン、結婚しよう。これからは俺がずっと守るから。側にいて俺と一緒に歩んで欲しい」
言ってしまった。俺は顔をあげレインを見続ける。対するレインは顔を伏せてその表情は見えない。やっぱり急だったか? 誘拐から解放されたその日にプロポーズとか早まったかも。俺は混乱していた。そんな俺の様子を見たのか、レインから笑い声が漏れる。
「あはは、何変な顔してるの」
「しょうがないだろ、結構恥ずかしいんだぞ」
「うん、ありがとう」
沈黙が部屋の中に広がる。これはどうなんだ。成功なのか? 失敗なのか?
「ちょっとレオス、目をつぶって」
「え、なんで」
「いいから!」
俺はレインの言う通り、目をつぶった。これはまさか……キスの流れか?
俺の思惑を他所に時間だけが過ぎていった。しばらくして、レインがギシリとベットから立ち上がる音がする。そして俺の前に来ているのを感じる。そしてその瞬間、俺は何かに包まれた。
「私は、ずっとレオスを見てきたし、なんでそんなに強さを求めるのかも分かってない。でも横で見るレオスはいつもかっこよくて、素敵で、私の憧れでもあった。横に並んでいたい、そう思ってもレオスはどんどん先に行ってしまって寂しかった。同時に私が婚約者でいいのかなって思うこともあった。レオスならもっといい娘がいるんじゃないかって」
俺は温かく柔らかいレインに包まれその話を聞き続ける。
「それに、私は足を引っ張ってばかりだった。学校に悪魔が出た時も、今回みたいに誘拐もされた。そんな私でいいの?」
震える声でレインが呟く。
「良いに決まってるだろ! それになんだ、俺の横に立てるほど強い女なんて、一応エレオノーラくらいしかいねえよ! むしろレインしか俺の横には立てない! だから、好きだ! レイン、一緒にいよう!」」
「っ――うん、私も好き!」
ぎゅうとレインが力を込めて俺に抱き着いてくる。俺もそっとレインの腰に手を当て抱き合う。心が通じ合った2人は胸がポカポカしていたと思う。
その日、俺たちはお互いを求めあった。
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