第18話 レオス・ヴィダールは思春期
魔法大会が終わり夕日に誓ってから数年、相も変わらずレオスは鍛錬を続けていた。
レインも一緒だ。
しかし最近困ったことがある。
レインがその場に寝そべり無防備にその肌を晒す。
「疲れた~、私ちょっと休憩~」
レインは第二次性徴期へと突入し、その体が女らしさを伴い始めていた。
その健康的な体は女性らしさもあり、俺の頭を少し揺さぶってくる。
スキンシップも今まで通りなので、少し膨らんだ胸が当たるとドギマギする。
もう子供じゃないんだからと少し拒んだこともあったが、レインがすごく寂しそうな顔をするのでそれ以来拒むことはやめた。
「休憩終わり! それじゃあレオス、次は私と打ちあおう」
「いいよ、やろうか」
カモールとの模擬戦を切り上げ、レインとの試合の準備をする。
今は夏で皆薄着だ。
カモールは執事としてワイシャツだけど、俺とレインは麻で出来た半袖の服と短パンを着ている。
俺は体を切り替える意味も込めて入念にストレッチを開始する。
それを見てレインも同じように体を曲げる。
ふとレインの方を見ると、前かがみになった服の隙間から何か見えそうになる。
俺は急いで反対方向を向いて呼吸を整える。
いかんいかん、俺ばかりそういう目で見ていては。
レインに他意はないんだ、俺が少しマセているだけだ。
前世を含めればとっくに成人している精神年齢だが、元々の性格か、年齢にひっぱられているのか、そういうものを見ると顔が熱く、赤くなってしまう。
「よしっ、私は準備いいよ。レオスは?」
「あ、ああ。俺もいいよ」
「それじゃあやろう!」
俺とレインは一定の距離を取って剣を正面に構える。
……胸もだけどお尻もしっかり出るようになったよなあ。
将来はすごいプロポーションになるに違いない。
「何を考えているのかな!」
ぼけーっとレインの体を見て、思考がピンク色に染まっている間にレインが攻撃を仕掛けていた。
横薙ぎに払われた剣は俺の脇腹に直撃し、一本を取られてしまった。
「ごほっ、痛い……」
「珍しいね、レオスがあんなに無防備になるなんて」
そういって仰向けに倒れている俺を覗き込む、レインの顔をまじまじと見る。
まだ幼さは残るものの、くっきりとした目鼻筋、後ろで縛っている髪がするりと肩から前に流れて美しかった。
そして相変わらず隙が多いというか隙間が多いというか、目のやり場に困る格好だなとも思う。
今度もう少しぴっちりしたものに変えてもらおうかな?
いやそれはそれで体のラインが強調されて悩ましいかもしれない。
というか下着つけてくれよ、下着。
ブラってこの世界にもあったよな?
今度リンダにそれとなく聞いてみよう。
「ほら寝てないで、次やろう次」
「はいはい、ちょっと待って」
「はーやーくー」
先程君が打ち込んだ腹がまだ痛いんですけど?
その後もチラチラとする何かを気にしながらレインとの試合を行い続けた。
「ひゃうっ」
剣先が胸をかすめる。
レインがその場に蹲ってしまう。
「大丈夫か!」
「うん、ちょっとびっくりしただけ。胸が邪魔だなあ」
「そうだね……」
レインにも大きくなっているという自覚はあるらしい。
先端とか擦れて痛くないのかな?
俺の心配を他所にレインは試合を続行する。
しばらくして試合は終わった。
休憩中の俺にカモールが近づいてくる。
「レオス様も、そういうお年頃ですか」
「な、なんのことかな~」
カモールにはもろバレしているようだ。
幸い当のレインは気付いていないようなので良しとしよう。
家に帰り、リンダに下着について相談する。
「リンダ、ブラジャーってあるよな」
「ええ、ありますけど、どうかしましたが?」
「いや、最近レインがつけていなくて、目のやり場に困るというか、それとなく付けるように誘導出来ないかなって」
レインの両親は放任主義というか、あまりレインにあれこれ言わない。
でも下着のことくらい口に出してくれてもいいんだけどな!
「そうですね、それとなくあちらのご両親に伝えてみましょう。お年頃ですものね」
カモールもそうだがリンダも俺を見てニヤニヤとしている。
俺もそんな年ごろなんだよ! 分かれ。
幸いその話はうまく伝わり、数日もしないうちにブラジャーをつけたレインがその場にくるようになった。
いやいいんだけど、やはり少しさびしいというか、それでもやはり目が行ってしまうのは男の性だろう。
俺は自分のことを否定せず受け入れることにした。
更に数年立って、レインの領地、クルセント領に一緒にいくことになった。
毎回来てもらうのもの気が引けるし、なによりこういった交流は婚約者兼幼馴染として普通のことだろう。
クルセント領は温泉が主な観光地として栄えていて、いたるところにかけ流しの温泉が流れている。
当然その領主であるクレセント領の領館も例外ではない。
いつも通り、レインとの訓練を終えて、俺は先に温泉に浸かる。
ここではメイドさんがいちいち洗いにきたりすることはなく、自分で体を洗い風呂へと入ることが出来る。
「癒されるぅ~」
さすが観光地にもなるとその温泉は格別だ。
別に普段の風呂に不満があるわけでもないか、やはり日本人としては温泉という魅力には抗えないということか。
そうして一人で温泉を満喫していると、勢いよく扉を開ける音が聞こえる。
誰だ?
俺が振り向くと、バスタオルを一枚来ただけのレインがその場に立っていた。
もう少し、恥じらいを持て!
というか男子のいる風呂場に乱入するな。
「レイン! まだ俺入ってるんだけど?」
「? それがどうしたの?」
あまりに自然な受け答えに俺は虚を突かれた。
もう14歳にもなってそれなりの教育を受けたはずだが、その姿に恥じらいはない。
「婚前前の女性が素肌を晒すものではないよ」
「レオスだからいいじゃん」
「よく……ないんじゃないか?」
いまいち確認が取れないまま、レインは体を洗い俺の横へと入ってくる。
「気持ちいい~、運動した後は温泉に限るね」
「そ、そうだな」
この数年で、レインの体はさらに女らしくなっていた。
子供が少し大人びていた数年前とは違い、もう立派なレディの体になっている。
バスタオルをつけたまま、風呂に入るのは邪道ということで、湯気に隠れながらすっぽんぽんで入ってくる。
それをまじまじと見るわけにもいかず、俺は非常に気まずい思いをしていた。
「レオスにさ、相談があるんだけどいいかな」
「ん? 何。聞くだけなら出来るけど、どうかした?」
「最近、胸が邪魔なんだよね」
「剣を振り回すときか? 確かに邪魔そうだな」
ブラジャーを付けているとはいえ、一般的なブラだ。
スポーツブラとは違い、固定されているとはいえず、ぶるんぶるんとゆっさゆっさと揺れている。
その煩悩に打ち勝つように一心不乱に戦いに集中している俺を誰か褒めて欲しい。
「何かいい解決方法ないかな?」
「そうだな……。少し面倒だけど、体に流れる魔力循環で胸部の部分を固定したらどうかな? 鎧の役割も果たすし、なにより固定化されて振り回されることもなくなるだろう。消費魔力も多くないだろうし、現実的なのはそれくらいかなあ。あとはスポーツブラが開発されれば……」
「スポーツブラ?」
「いや、それは何でもない」
運動している女性には常に付きまとう問題だ。
伸縮性のある素材があるか分からないが、あるならこの世界にも広めてみるのもいいかもしれない。
「魔力の固定か、うーん、こうかな? あ、上手く出来た。ほら見て!」
そう言ってその場に立ち上がるレイン。
確かにその胸は上下左右に動いても体の動きに左右されずに固定されている。
しかしその姿は全裸だ。
俺は思わず見とれ、そして赤面する。
レインもその俺の顔を見て、自分の状況を把握したのか、プルプルと震えバスタオルで全身を隠す。
「レオスのエッチ!」
バシーンと顔面に平手打ちをくらい、レインはその場から逃げるように去っていく。
「理不尽だ……」
俺はそう呟くしかなかった。
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