第17話 レオス・ヴィダールは心に誓う
「げほっ……腕輪は……壊れていない」
俺は自分のダメージが許容量を超えていないことを確認する。
ダークウォールは砕け、ダークローブもボロボロだ。
だが俺はまだ戦える。
もう消えゆく蝋燭ほどしかない魔力を最終手段として、俺は魔力を練り上げ短刀のようなものを作り出す。
「いい加減しつこいですわよ、そんな小さなものでどうにかなるとでも?」
「さあ? 意外とどうにかなるかもよ」
「いいですわ、現実というものをお見せしましょう」
そう言って彼女はその頭上に、無数の光の刃を構築する。
一本一本が俺のボロボロな腕輪を壊すには十分な火力だろう。
「舞え! ホーリーダンス!」
彼女が展開していた光の刃を俺に向かって放つ。
魔力はもう出し切った。
後は己の肉体で処理するのみ。
「いいぜ! こいよ!」
闇の刃は使えない。
これは彼女に食らわせられる正真正銘最後の切り札だ。
ならこの刃をよけるにはどうすればいい。
俺は目を閉じ、極限まで集中する。
「諦めましたの!」
彼女の声が遠くに聞こえる。
自分に迫りくる光の刃の息遣いが聞こえる。
俺は目の前に来たであろう刃を寸でのところで避けた、はずだ。
そこから更に繰り出される無軌道に変化する刃をよけ続ける。
体力の続く限り、俺の体が壊れるまで、全て避けきってみせる。
「な、なんですの……」
一発の被弾も許されない中、俺は口角を上げる。
俺はこの状況を楽しんでいた。
剣では負けた、その上魔法でまで負けたら俺に何が残る?
最強とはそんな簡単なものではないことは分かっている。
自分の才能のなさは嫌でも理解した。
それでも決めたのだ、俺は最強になると。
ならこれくらいの試練はちょうどいい。
++++
どれだけの時間が経っただろうか。
俺に迫りくる刃の数は減らない。
彼女もまた異次元の魔力量を誇っている。
弾切れは期待できないか……。
なら残された道はただ一つ。
俺は決死の覚悟で彼女への道を一直線に駆け抜ける。
それに対応するように迫りくる刃の勢いが増す。
直線的に、しかし柔軟に避ける。
少しずつ彼女との距離が縮まってくる。
あと少し、あと少しなんだ。
限界を迎えプルプルと震える足を叩き、気合を入れなおす。
閉じた目を開き眼前にエレオノーラを見据える。
その表情は恐怖の色に染まってた。
「なんで、なんでそこまで来ますの!? いい加減倒れて下さいまし!」
叫ぶ彼女が周りを囲うように壁を生成する。
俺はそれを壊せない。
いや正確にはぶん殴れば壊せないことはないかもしれないが、それはルール違反になる。
必然、やれることは一つ。
壁を追い越すように空中へと駆け出し、彼女の頭上目掛けて闇の短刀を繰り出す。
グサっ!
俺の短刀が手から消える。
攻撃を食らったのは俺の腹部だった。
パリンと腕輪が割れ、俺の敗北が決定する。
「最初から、剣を模して戦っておけばよかった……」
光の刃に弾かれながら俺は自分の頭の悪さを呪った。
だが結局打ちあえば消滅するような剣では、結果は同じだろう。
こうして思考を巡らせてみても打開策が見当たらない。
俺はその場に転がり落ちた。
現時点では勝てないのだろう。
剣術と同じだ。
俺の前に立ちはだかるのは主人公たち。
俺は自分が所詮序盤のやられ役だということをいやというほど思い知らされた。
「これ以上、どうしろってんだ……」
少し前に宣言した最強になるという言葉。
それがすでにぐらついている。
自分の意思の弱さに涙が出てくる。
俺は弱い、弱い弱い弱い!!
くそっ! なんで強くなれない。
努力か? 努力が足りないんだな。
もっとか、これ以上、努力して、俺は、勝てるのか?
その問いに答えてくれるものは誰もいなかった。
失意のまま、表彰式と閉会式を終え、闘技場を去ろうとすると声をかけられる。
エレオノーラだ。
「あなた、中々の腕前でしたわ。まあわたくしと比べられては少々気の毒ですけど」
「……言いたいことはそれだけですか?」
俺は少し苛立ったように答える。
「な、なんですの。健闘を称えようと思っただけですわ」
「そうですか、ありがとうごさいます」
「もっと嬉しそうな顔をしなさいまし」
俺はへへへと笑って見せた。
彼女はそれを見て溜息をついて呆れた顔をする。
「先日の剣術大会でもそうでしたけど、何故そんなに最強に拘るのです? 貴方は十分にお強いですわ、これ以上何を求めるというのかしら」
「俺はただ、ただ最強に……」
そう言われて俺は答えられなかった。
最強になる。
それは俺がここに転生してから決めていたことだ。
それは理不尽な運命に抗うため。
それが原点だったはずだ。
でももう十分に強いじゃないかと言われ、俺は何を目指して最強になろうとしているか分からなくなった。
「その答えが出るといいですわね」
そう言い残し去るエレオノーラ。
俺はその姿を見ながらぐるぐると考えていた。
「レオス~、また考え事?」
観客席へと戻ってきた俺にレインが話しかける。
「なあ、レインは何で強くなりたいんだ?」
「私? 別に強くなりたいとは思ってないよ。ただレオスと訓練するのが楽しいし、剣で戦うのも楽しい。楽しいからやってる」
「楽しい、か」
初めはただの義務だった。
呪われた可能性を消し去るために。
辛い思いもたくさんした。
今の俺なら自分の身くらい守れるかもしれない。
でもそれだけか?
俺が強さを求める理由はそんなちっぽけなものなのか?
最強とは最も強い者だ。
何を持って最強とするのか、
王になって世界の覇権を握る?
そんな器じゃない。
なら俺は自分の手の範囲を守れるくらい強くなろう。
親、使用人、領民、そしてレイン。
悪魔教がこの世には存在している。
その魔の手から皆を守れるくらいに強く。
それが俺の目指す最強。
剣で勝てなくてもいい。
魔法で負けてもいい。
最後に守り切り、生き残った者が最強なのだ。
「心は折れない、決して諦めない心があればそれでいい」
俺は自分の目標を明確に定めた。
「俺は強くなるぞ、レイン」
「うん、知ってる」
夕日が沈み始め、オレンジ色に染まってきた空に向かい心に刻む。
俺は俺の最強を諦めない。
誰に何と言われようとも、どんなに辛くても俺は絶対になるのだ。
そう夕日に誓った。
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