第15話 レオス・ヴィダールと悪魔召喚
剣術大会が終わってから、俺が何に勤しんでいたかというと、剣、ではない。
魔法だ。
剣術大会があるように、魔法の大会も行われる。
時期はずれるが同じ年に行われる為、両方に出場するのは珍しい部類だ。
それだけ旅費も馬鹿にならないし、なにより両方を鍛えることは大変だからだ。
剣がダメなら魔法があるじゃない。
剣術の鍛錬は欠かしていない。
でもそれ以上に闇魔法への理解を深めるために、様々な魔法を構築していった。
例えばウォール系、目の前に壁のように魔力を顕現させる魔法。
他の属性では、物理魔法共に防ぐことが出来るが、闇魔法は物理攻撃を無効化出来ない。
幸い魔法大会は魔法以外の一切を禁じるというルールがあるので問題にはならない。
またダークウォールは魔法は弾けるが、人間などの生物は通ることが出来る。
ただし粘着物に引っ張られるように体の動きが制限される。
補助が得意なだけあって、嫌らしい使い方が出来る魔法が多い。
ダークミストは相手の視界を塞げるし、ダーク系で対象に魔法をかけて身体能、魔法防御力、物理防御力を上げることも可能だ。
これ剣術と組み合わせたら結構強いんじゃないかと思ってる。
実戦仕込みの剣術に、相手を弱らせ隙を作る、所謂魔法剣士のような戦い方。
この国ではそういったものを見かけないので、目指してみるのもいいかもしれない。
問題はそれを披露する場がないってこと。
魔法大会も魔法だけだし、学園のカリキュラムに期待しよう。
「はい、休憩はおしまいですよ。まだまだ魔力量の成長の為には枯渇するまで行わないと、最大量は増えませんよ」
「は~い……」
今は基礎魔力を底上げするために必死に訓練している。
別に枯渇するまでやらなくても魔力量っていうのは使うだけ筋肉のようについていくのだが、より強くなるためには枯渇する程使用しろというのは理に適っている。
だがこれが辛い。
ひたすら身体の魔力を循環させながら魔法を放つ。
魔力が枯渇したらマナポーションを飲ませてまた同じことの繰り返し。
しかしそのおかげで俺の魔力量はメキメキと増えている。
毎日カモールとの特訓を重ねているうちに、魔法大会の開催が迫ってきた。
場所は前と同じ闘技場、今回は少し早めに到着して街を散策した。
荒くれものが多いが、カモールが護衛についているし、俺自身も強い自負がある。
それに表通りにはそんなごろつきがウロウロしているわけでもない。
俺は目についた本屋に入り、魔法書をいくつか探してみる。
そこに一つ、何やら引き寄せられる黒い本があった。
それは無造作に押し込められたようにそこに存在し、闇属性だからだろうか、禍々しいオーラを放っていた。
「店主、この本は売り物か?」
値札も付いていないその本を取り出し、ひらひらと店の主人に見せる。
「あれ? そんなのは目録に……ないなあ。誰かがいたずらでいれたのかもしれません。こちらで処分しておきますよ」
「いえ、ちょっと興味があるのでこれは俺が貰っておくよ。値段は、少し色を付けておいてくれ、カモール」
「かしこまりました」
そう言っていくつかの魔法書と、その本の値段分上乗せして購入する。
宿に帰ってから読んでみるか。
俺は未知なる魔法書に胸が踊っていた。
++++
「これ……悪魔召喚の本じゃねえか」
俺は宿に帰り、他の魔法書を置いてから黒い本を取り出しその内容を見ていた。
内容は悪魔と天使の成り立ちから始まり、道徳の本かなと思ったが、そこから具体的に悪魔を呼び出す方法が羅列されていた。
媒体となるのは己の血と魔石。
魔石とは魔物と呼ばれる野生の獣が魔力によって変質したものが体内に持つものだ。
人間が持つ魔力回路の役割を担うそれは、魔物にとっての肝であり急所でもある。
そこに細かく書かれた魔法陣を描くことで、悪魔が召喚出来るということだ。
えっ? こんな簡単に出来ていいのか?
それならもっとこの世の中に溢れていそうなものだが。
その疑問はすぐに解決する。
下の一文に、闇属性の者に限るとある。
他の属性を持つものが召喚を行うと失敗する。
なお召喚は生涯を通じて同じ相手としか行えないものとする。
また強い意志と守るものがないものには悪魔は応じないとも書かれていた。
悪魔のくせに難癖が多いな。
特に守るものってなんだよ、そういうのは天使とかの役割だろ。
悪魔はもっと娯楽的というか歓楽的というか、自由なものだろ。
まるで守護者のような役割を持つ悪魔に疑問符が付いた。
しかしこれでピースが揃ってしまった。
レオスが悪魔召喚を覚える。
何故か魔法陣が頭からこびりついて離れない。
なにかの強制力だろうか、俺に悪魔召喚をさせようと囁いてくる。
今はいらない!
これからもだ!
待っているのは破滅、そんなものの為に俺は鍛えていたんじゃない。
俺は黒い本をバックの奥に押し込み、他の魔法書を読みふける。
魔法大会はすぐそこだが、今後の魔法に活かせるものがないか探していく。
そうしている間に夜は過ぎ、俺は眠りについた。
明日は魔法大会、今度こそ優勝してみせる!
魔法大会当日、俺はトーナメントの振り分けを見て安堵していた。
優勝候補であり、このアニメのヒロイン、エレオノーラ・ドルッセンと別のブロックに入ったからだ。
彼女の聖魔法は強力だ。
その火力は全属性の中でトップと言っても差し支えない。
何らかの対抗手段を考えなければ、普通に負けてしまう。
今回は剣術大会と違い、観客席には魔法障壁が張られ、選手には一定のダメージを受けると壊れる腕輪が装着されている。
防御膜というものが張られ、衝撃も吸収する優れモノだ。
魔道具という便利な代物だ。
いいね、今度俺も作ってみようかな。
そして大会が始まる。
俺は初戦である彼女の試合をじっと見る。
「ホーリアロー!」
その一撃は早く、そして強力だった。
「ア、アースウォール!」
相手の選手が咄嗟に出した土の壁を容易く貫くと、そのまま相手へと直撃した。
パリンと相手の装着した腕輪が割れ、勝敗は決した。
「なんの参考にもならねえ……」
「強いねあの子、まあ見ててよ、私が相手の情報を引き出してあげるから」
隣にいるレインが任せなさいと言わんばかりに胸を叩いて言い放つ。
そう、この大会にはレインも参加している。
普段は魔法の練習に熱を入れていないのに、俺が参加すると聞いて無理矢理参加してきた。
魔法戦ならレインと戦っても負ける気はしない。
そんな彼女がエレオノーラから得られるものなどあるのだろうか。
「まあまあ、楽しみにしててよ」
そう言ってレインは自分の試合の為に控室へと向かっていった。
1回戦の第2試合が終わり、レインの試合が始まった。
観客が騒めく。
それはそうだ。
彼女の手には魔法の補助になる杖が持たれていないからだ。
魔法使いにとって杖は単なる装飾品ではない。
先端に魔力の込められた魔石を付けることでその威力を増幅させる。
これは剣術大会で剣を放棄したに等しい行為だ。
「君、杖は?」
審判がレインに確認を取る。
「いえ、これで大丈夫です」
彼女は勝算が無ければあんなことはしない。
俺はレインを信じて、その戦況を見ることにした。
試合が始める。
「ウィンドボール!」
相手の魔法が炸裂する。
それに対応してレインが詠唱する。
「ファイアーボール」
しかし相手の魔法は杖によって増幅されている。
ぶつかり合う魔法は、相手の魔法が競り勝ち彼女へと向かっていく。
俺は思わず叫ぶ。
「レイン!」
魔法によって土煙があがり、付近が見えない。
食らったか。
そう思っていると舞い上がる白煙から飛び出してくる人影がある。
レインだ。
魔法が直撃していたなら腕輪は割れるかヒビが入っているはず。
しかしそんな様子は見受けられない。
魔法戦は基本的に遠距離でお互いの魔法を打ちあうのが常識だ。
その常識をぶち破る様に相手との距離を縮める。
「ウィンドウォール!」
慌てた相手の選手が目の前に風の壁を展開する。
それは悪手だ。
視界を狭めた相手はレインの姿は見えない。
その壁を当たり前のように避けて、相手に肉薄する。
そうか、そういうことか。
無手による身軽さを利用して、相手との距離を詰め、近距離で魔法をぶち当てる。
身体能力の高いレインにだから出来る芸当だ。
俺がそう感心していると、バキッという骨が肉体に当たる音が聞こえた。
何殴ってんじゃあああああ。
ルール聞いてなかったのか?
なんでもありじゃないんだよ、魔法限定って言っただろうが。
「魔法以外での攻撃、レイン・オブリールの反則負けとする」
審判の無慈悲な宣告によって彼女の1回戦負けが決まった。
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