第21話 エレオノーラ・ドルッセンですわ
物心ついた時から確信したことがありますの。
(わたくし、もしかしなくても最高なのでは?)
わたくしの世話をしてくれる多くの人たち、おいしい食事に綺麗な服、生活していく上で何一つ困ったことなどありませんでしたわ。
弟のリボーンがいたのでちょっと邪魔でしたわね。
わたくしに一心に注がれるであろう愛が逸れてしまったことが唯一の難点かもしれませんわね。
あとまだ小さいですけど、わたくし、美しくありませんこと?
子供心に鏡を覗いてみても。
(これがわたくし!? なんて綺麗なのかしら)
と自画自賛してしまうところですわ。
でも一つ気付いたこともありますの。
弟のリボーンを見ていて思ったのですが、この環境が永遠ではないということが。
貴族として跡を継ぐため、厳しい鍛錬、勉学、マナー等を弟は受けている。
わたくしも淑女としてのマナーを教わってはいますが、それほど大変ではありませんの。
……このままでいいのかしら。確かにこの方が楽で楽しい生活が送れるかもしれませんわ。
でも突然何かが起きて、周りの環境が変わってしまった時、頼れるのは自分だけ。
今まで甘やかしてくれた人たちもいつ心変わりしてしまうかも分からない。
それではダメですわ。
わたくしは怠惰に現状に甘えることをよしとしませんことよ。
危機感を覚えた私はお父様に直談判しましたの。
「わたくしにも教育を増やして貰いたいですの!」
急に部屋に来て、いきなり訳の分からないことをいうわたくしの事を訝しむような目で見るお父様の顔が少し面白かったのは秘密ですわ。
「それはリボーンと同じことを教えるということか?」
「そこまでは……ただ、このままではいけないと思ったのですわ。ドルッセン家の人間として恥ずかしくない人に成長したいと思ったのですわ」
「そうか……」
お父様は少し考えながら、わたくしに返事をしてくれましたの。
「少し早いが、家庭教師を読んで本格的に勉強してもらおう。後はマナーが完璧になればお茶会を増やし、他家との交流も増やしていこう」
「畏まりましたわ」
お父様のからの言質を取り、わたくしはその日から弟ほどではないにしろ、厳しめの日課を過ごすことになりますの。
「エレオノーラ様が自ら勉強を増やしたいと申し出たとか」
「まだ小さいのに立派ねぇ」
「俺らが子供のころなんて遊んでばっかだったのにな」
「お前と一緒にするんじゃないよ」
使用人たちの賞賛の声が聞こえてきますの~。
ああ、なんて気持ちいいのですわ~。
この瞬間の為に苦労すると言っても過言ではないですわ~。
ある日の授業で魔力を属性を調べることになりましたの。
剣術はまだ早いということで、自衛手段としても使える魔法の習得の為ですわ。
まずは体内にある魔力を感じるところから。
これが中々難しいですの。
体内を循環している血液と同じように、体を巡っている魔力を感じる事。
心臓を中心にぽかぽかと暖かいものを感じるものもいれば、血液と同じように流れているように感じるものもいて、一概には言えないということ。
一応、貴族には魔力に対する強い耐性を持っているので、強制的に起こすことも可能らしいのですけど、幼いわたくしには体に負担が大きいのでゆっくりと起こすことするらしいですの。
数週間が経ってからようやく魔力の存在を掴むことが出来ましたの。
筋がいいと先生は褒めて下さりましたわ。
当然ですわ! わたくしは最高ですもの。
更に驚いたことに、わたくしの属性が聖属性ということが判明しましたの。
高貴なわたくしに相応しい属性だと思いませんこと?
教わったことによると、聖属性は屈指の攻撃力を誇り、自己治癒能力に長け、接触して魔力を相手に送り込むことで、相手の回復を促進させる効果があるということ。
歴代の聖女と呼ばれる、高貴な女性方の多くが持っている属性ということですわ。
これは、わたくしに聖女になれという神からの思し召しではなくて?
きっとそうですわ、天からの贈り物にちがいありませんわ。
ここからは更に淑女らしく過ごさねばなりませんわね。
市井への評判も重要ですし、貴族間との交流も必要になりますわ。
まずは教会の炊き出しに参加しますわ。
わたくしの美貌と献身に感謝しなさいですわ~。
汚い、汚かったですわ……。
スラムの子供や老人、一体いつ体を洗ったのか分からない人たち。
不衛生極まりないですわ。
でもわたくしもこの家に生まれていなければ同じような境遇に落ちていたかもしれませんわ。
己の幸福を身に感じて、これからも続けていかなければなりませんわね。
もちろん貴族たちへのアピールも忘れてはいませんわ。
お茶会を何度も開き、剣術の訓練がしたいというリボーンを連れて様々な同性代の貴族たちを招いていましたの。
リボーンも外面だけはいいので、受け答えも真面目ですし、なによりわたくし程ではないにしろ眉目秀麗ですし、いいアクセサリーとして使えますの。
「そういえばエレオノーラ様は最近教会で行われる炊き出しに参加しているとか」
「そうですわ、やはり貴族たるもの平民の暮らしぶりを直に見るというのは重要な事ですわ」
「さすが、まるで聖女様のようですね」
そうでしょうそうでしょう、そうやってどんどん広めてくださいまし~。
わたくしの聖女計画はまだ始まったばかりですのよ~。
「姉さんが聖女ってなんの冗談だよ」
ぼそりとリボーンが囁く。
「あら?わたくしほどじ相応しい存在はいませんことよ」
周りに聞こえないようにリボーンへと返事をしますわ。
何をいうのでしょうか、わたくし以外に誰がいるというのですか?
そうやって日々を過ごしていく中で、魔法の鍛錬は楽しかったですわ。
やればやるだけ成果が出て、聞くところによるとわたくしの魔力量はとても多いとのこと。
わたくしのように目立ってしまう存在には自衛の手段が必要となってきますの。
もちろん護衛はつきますけど、万が一わたくし一人になったときに戦えないと困りますの。
わたくしは何も出来ないか弱い女の子では満足しませんもの。
剣術はちょっと、性に合わなかったので何かと理由をつけたり、リボーンを使ったりしてあまり訓練しませんでしたけど。
まあそれを補って有り余る魔法の才があったのは僥倖でしたわ~。
そして10歳になったころに、リボーンが参加する剣術大会の観覧にいくことになりましたの。
そこで運命の人に出会うことになりますの。
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