第22話 エレオノーラ・ドルッセンはいつでも最高ですわ!

 わたくしが10歳になり、幾日が過ぎたころ剣術大会が実施されることになりましたの。

 弟のリボーンはもちろん参加しますわ。 


 正直剣術には興味はありませんでしたの。

 ただ弟が参加するのに、他のことにうつつを抜かすほど非情ではないのですわ。

 まあああみえて、リボーンは剣術に関しては相当なものと自信を持っていますの。

 同性代相手にそう簡単に負けるとは思いませんし、わたくしの弟として恥ずかしくない成績を残して貰いたいものですわ。


 ああ、でもここでも笑顔絶やしませんわ。

 いつどこで誰がわたくしを見ているかわかりませんの。

 常に完璧な淑女たれ。

 わたくしの家訓ですわ。


 開会式が始まって、出場する選手たちが闘技場の中に並んでいますの。

 ふーんと思いながらざっと目を通していましたの。

 そこに、目を奪われるほどわたくしのタイプの男の子がいましたの!


「お父様、あの黒髪でオレンジ色の目をした少年は誰ですの?」


「彼か? 彼はアイン・ツヴァイン。辺境伯の息子だ。普段はこちらに出ることはないから知らなかったか?」


「え、ええ。珍しくて」


 確かに黒髪は珍しいですわ。

 でもそれ以上にあの幼さの中に宿る男らしさ、武骨な体、醸し出す雰囲気。

 すべてがわたくしの心にビビっときましたの。


 彼ですわ。

 彼をわたくしの横に置くことでよりわたくしの人生はバラ色に染まっていきますわよ~。


 第一試合はアイン様の試合でしたわ。

 彼はたったの一撃で相手を倒してしまいました。

 剣術をたいして嗜んでいないわたくしでも分かるほど、彼の能力は突出しておりましたの。


「彼こそがわたくしの隣にふさわしい男ですわ~」


「また何かいってるよ……」


 リボーンがまた小言を言ってるようですが気にはしませんわ~。


「あら、いたのですか? 試合の準備はしなくてもよろしくなくて?」


「トーナメント表見た? まだ先だからここに戻ってきたんだよ。それにどうせ俺の相手になるのはアインくらいなものだよ。まあ勝てるか分からないけど」


「アイン様が貴方に負けるなんてありませんことよ」


「そこは嘘でも肉親を応援してくれよ」


 そんなこと言われても、わたくしの優先順位はアイン様>リボーンですもの。


 そんな弟が2回戦で攻撃を食らっていましたの。

 あれだけ余裕ぶっていたのに、少し無様でしたの。

 でも楽しそうに剣を振るう姿は抑圧された何かを振り払うようでしたの。

 ……少し扱いを優しくしてあげてあげますわ。

 彼にも溜まったものがあったのでしょう、笑いあげる弟に若干引いてしまいましたもの。


 試合自体は勝利して準決勝にへと駒を進めましたの。

 アイン様は当然勝利して決勝へ、あとはリボーンが対戦相手になるだけ。

 そう思っていましたの。


 わたくしはなんてものを見せられたのでしょう。

 対戦相手の女の子がリボーンの股間を強打したのです。

 わたくしも知識としては知っていますが、男性の股間は急所だと。

 泡を吹いて倒れるリボーンが少し情けなく可笑しかったのは秘密ですの。


 担架で運ばれていく弟を見送り、決勝戦を待ちますわ。

 少しの休憩時間をおいて、両者が出てきましたの。

 先程リボーンを倒した女の子、レイン・オブリールとか言いましたか。

 聞いたこともありませんわね、王都には顔を出さない田舎貴族でしょう。


 そしてアイン様の立ち振る舞い。

 様になっていますわ~。


 決勝戦はアイン様の圧勝でしたわ~。

 相手の子も善戦はしましたけど、やはりアイン様は頭一つどころか体一つ分くらい抜けていますわ。


 閉会式が終わり、アイン様がなにやら対戦相手の女の子に近寄っていますわ。

 もしかしてああいう子がタイプなのでは!?

 どうしましょう、わたくしの聖女象からかけ離れていますわ。


 そこから何度か声を交わした後、会場に響き渡る様に大きな声が聞こえましたの。



「ふん、足元をすくわれないことだな、何故なら最強になるのは俺だからだ!」



 誰でしょう。アイン様を指差して大声で叫ぶ少年は。

 ああ、リボーンに負けた少年ですか。

 よくもアイン様の前でそんなことを口に出来たことで。

 多分何年かかっても彼に勝つことなんて出来はしないのに。


 そんなことより観客席に戻ってきたアイン様にご挨拶を。


「お初目にかかります。エレオノーラ・ドルッセンと申します」


「ああ、アイン・ツヴァインです」


「素晴らしい剣技でした、毎日鍛錬を行っているのですか?」


「まあ、そうだな。あとは害獣の退治とかもしている」


「まあ、素晴らしいですわ。辺境伯はきっと平和なのですわね」


 そういうわたくしの言葉にアイン様は少し暗い表情になりながら答えましたの。


「俺の出来る事なんてたかが知れてるさ。それより今日はいい剣士に会えたよ、君の弟のリボーン君も強かったね」


「ええ、不肖の弟ですが、あれでも剣術には自信を持っていましたの。対戦が出来なくて残念でしたわ」


 何回かアイン様とお話をして、その場は別れましたの。

 あまりわたくしに興味を持たれなかったようで残念でしたの。

 この美貌を持ってしてもうまくいかないこともあるのですね。


「そういえば、今度魔法大会があるのはご存じですか? わたくしも出場するので是非見にきてくださいまし」


「……ああ、時間が合えば見に行くよ」


 そこは見に行くと即答するところですわよ!

 行けたら行くは来ない人の常套文句ですのよ!



 そして魔法大会当日になりましたの。

 観客席を見渡してもアイン様の姿は見当たりませんの。

 来いっていっただろアイツ!

 ……ごほん、来やがれてと言ったのにですわ~。


 大会自体は順調に進みましたわ~。

 日頃から鍛え上げているわたくしの聖魔法に対抗できる相手はいないようでしたわ~。

 あっという間に決勝でしたわ~。


 決勝の相手は、どこかで、ああ、あのアイン様に『俺が最強になる』と言っていた少年ですわ~。

 剣魔両刀とは珍しいですわね。

 まあ完膚なきまでに叩き落としてあげますわ。


 剣術のアイン様、魔法のわたくし、お似合いだと思いませんこと?


 試合が始まりましたの。

 まず手始めにホーリーアローをぶちこんでやりますの。


 あら避けましたの、ちょこざいな。

 次は当てますわよと狙いを定めると相手の詠唱が聞こえてきますの。


「ダークミスト」


 なんですの! 周りが見えませんの! それは相手も同じでは?

 でも何の策もなくこんなことするとは思えませんの。

 ここは力技でなんとかしなくては。


「ホォオオリイイイ!」


 攻防一体の私の放出魔法、全方位を守りながらも攻撃が出来る優れものですわ。

 でもそうですの、闇魔法ですの。

 他の試合をキチンとみていなかったわたくしの落ち度ですわ。


 単純な火力でわたくしが負けることはありませんが、搦め手のある闇魔法では何があるかわかりませんわ。

 案の定、わたくしの影から何かを召喚してきましたの。

 それをホーリーウィップを使い払いのけますの。


 次はなにかしら?

 そう思っていると体が重くなりましたの。

 相手の阻害魔法でしょう。

 しゃらくさいですわ。


「ホォオオリイイイ!」


 ホーリーは使い勝手のいい魔法ですわ。

 相手の魔法を無力化も出来ますの。


「これで終わりですの?」


「まだまだあるさ」


「そう、ならこれ、耐えて見せてくれるわよね」


 私は今ある最大級の魔法で迎え撃ちますわ。


「ジャッジメント!」


 これで跡形もなく、いや死んでしまっては困りますの。

 腕輪が壊れて、わたくしの勝利……、はまだでしたわ。


 ボロボロになりながらも相手はまだこちらを向いていますわ。

 その手には短刀のような闇の塊。

 あれがもう限界なのでしょう。


 わたくしはまだまだ潤沢にある魔力を使い、完膚なきまでに倒して見せますの。


「舞え! ホーリーダンス!」


 これで決まるでしょう。

 そう思っていましたの。

 それなのにいくら時間が経っても相手が倒れることがありませんの。


 わたくしは恐怖しましたの。

 笑いながらわたくしの魔法を躱し続けるあの男が。


 そしてついに、相手がこちらを向いて迫ってきますの。

 こないでこないでこないで!


 私は自分の周囲にホーリーウォールを生成し身を守りましたの。

 しゃがんで躱そうとした私の頭上にあの男が向かってきますの。


 終わった……。

 そう思ったところに、舞っていたホーリーダンスの刃が相手に直撃しましたの。

 相手の腕輪が割れ、わたくしの勝利が決まりましたの。

 正直勝った気がしませんでしたの。



 閉会式が終わり、わたくしが相手の少年、レオスに労いの言葉をかけてあげたのですが、どうやら不服なようで少しいらっしましたの。

 わたくしがわざわざ来てあげたのですのよ、もっと嬉しそうにしなさいですわ。


「先日の剣術大会でもそうでしたけど、何故そんなに最強に拘るのです? 貴方は十分にお強いですわ、これ以上何を求めるというのかしら」


 わたくしは単純に疑問に思ったことを聞きましたの。

 その問いに彼は答えられなかったようでしたわ。


「その答えが出るといいですわね」


 そう言い残してわたくしはその場を去りましたの。

 わたくしは強さを求めていませんもの。

 わたくしは聖女と呼ばれる存在になって皆から敬られることですわ。

 最高の環境で、最高な人々に囲まれて、最高に幸せな人生を送ることですわ~。

 その為にもアイン様にはもっと接触しなくては。


 さっそく何通もお手紙を出しましたわ~。

 一回も彼が来ることはありませんでしたわ~。

 しょうがないからこちらから出向いてもほとんど剣術の訓練に当てられていて碌に会話も出来ませんでしたわ~。


 クソっ!

 ……ごほん、クソですわ。

 でも15歳になれば王立学園に強制的に来るはずですわ。

 待っていてくださいまし、必ず射止めて見せますわ~。

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