第32話 レオス・ヴィダールとベリト

「我が名はベリト。召喚により参上仕った。さて召喚者よ、何を望む?」


「全部だ! 全部めちゃくちゃにしてしまえ!」


 何をいきなり言い出すんだ。

 エリアルはとちくるってるし、目の前の存在もそんな生易しいものじゃない。

 こいつはなんて言った?


 ?もしかしなくても悪魔召喚か?

 俺は自慢じゃないが悪魔の名前なんて詳しくないし、こいつが悪魔かどうかすら分からない。

 ただ目の前のこいつは存在しているだけで汗が止まらなくなるほどのプレッシャーが掛かっているということだ。


「ふむ、して対価は?」


 ベリトと名乗った怪物がエリアルに質問する。


「た、対価!? だから魔法陣から魔石を使って召喚してやっただろうが! それで十分だろ!」


「いけません、いけませんなあああ。説明書を最後までよく読まないと。……おやあ、しかも貴方風属性ではないですか、これはまた、はあ、これは失敗ですね。せめて少しでも顕現出来るように貴方の命を貰い受けましょう」


「は!? 何をいって―――」


 一瞬だった。

 問答をしていたはずのベリトはエリアルの側に瞬く間に移動してその心臓を貫く。

 そしてゆっくり味わうかのようにその大きな口を開けて臓物を飲み込んだ。


「うーん、いまいちですな、やはり淀んだものの臓物はまずい。ここには新鮮なものがたくさん……。おや、ここにもおいしそうなものがいるではないですか」


 ぎろりとやせこけた目をこちらに向けてくる。

 皆の装備を見る。

 剣はある。杖もある。

 戦えないことはない、問題は戦いになるかだ。


「ブラックホール!」


 俺は初手から全開で飛ばしていく。

 ベリトと名乗った化け物の前にバスケットボール大の闇の球体を出現させ、周囲のものを吸いつくす。


「おお、これはまた珍妙な、おやあ、貴方闇ですね。ああどうせなら貴方に召喚されたかった」


 ベリトが無駄口を叩いている間にもゴリゴリと周りは削れていく。

 学園の人ごめんなさい、寮ぶっこわれますこれ!

 

 寮の一部と共にベリトが闇の中に吸い込まれていく。

 これは吸収と粉砕を同時に行う魔法だ。

 吸い込まれればただでは済まない。


「まあ一興ですかな」


 ベリトはそう言い残し、ブラックホールの中に消えていった。


「っぱぁ! はあはあ、なんだったんだ今の」


「分からない、ベリトという魔物は聞いたこともない」


「それよりエリアル先輩が」


「……もうだめですわ~」


「どっちにしろ飲み込まれてしまったしね」


 そうだブラックホール。

 解除しないと、したら出てくるかも。

 どうしたらいいのかなこれ。

 一生使えないままでもまあいいか、あんな化け物どうしようもないし。


「随分とおしゃべりですね」


 ―――俺たちが話しているところに聞こえる、消えたはずのものの声。


「ばかな、まだ解除もしていないのに」


 そこには虚空を切り裂いて周りをキョロキョロと見定める目が存在した。

 そしてその空間を割くと、よっこいしょと膝を折って地面へと着地した。


「ふむ、思ったよりも単純な構造でしたね。しかし中々の圧力、堪えましたな」


 何で無傷!? いやそれよりもブラックホールから勝手に脱出しただと?

 これは俺のせいか? 概念がしっかりとしていないから適当な空間になっていたのだろうか。

 それでどうにかなっていたのだから今攻めてもしょうがない。


「大人しくその中で暮らしてくれててよかったんだけど?」


「それはそれは、さびしいではないですか。それにこの不完全な召喚では長時間の顕現が許されていないのでね」


 いい言葉を聞けた。

 顕現は出来ない。

 つまり時間さえ立てばこいつは消える。


「それはあとどれくらいかな?」


「さあ? 1日かもしれないし半日化かも、一時間かもしれません」


 まあ馬鹿正直に答えるわけないよな。

 とにかくこいつの足止めだ。


 俺たちが臨戦態勢に入ろうとしたとき、寮の異音を聞きつけた先生たちがやってきた。


「なんだこれは……」

「エリアル君は!?」

「寮が崩れるぞ、急いで退避だ」


 俺のブラックホールの影響で傾き始めた寮の建物が少しずつ傾き始めていた。

 このままでは校舎まで影響が出てしまう。


 俺はもう一度ブラックホールで寮全体を吸い込もうとした。


「ふむ、少し面倒ですな」


 そういうとベリトは少し練るような動作をして、手をかざす。

 まさか……


「確か、こう」


 やめろ。


「ブラックホール」


 瞬間、目の前にあった建物は闇に包まれ、その闇の中に消えていった。

 まずいまずい。

 なんだこいつ、俺の魔法を模倣した?

 そういうレベルじゃない。

 ああそんなことも出来るんだレベルで思い付きでやっていやがる。


「ほら、これでみんな無事ですね、よかったよかった」


 全く笑っていないのに笑顔なベリトが怖かった。


「君達は下がりなさい!」

「後は私たちが!」


 先生たちが前に出てベリトと対峙する。


「うーん、私大人ってすきじゃないんですよね、やはり子供、熟れかけの果実、それを潰すのが楽しいのであって。なので貴方たちはいりません」


 そうベリトが言うと、先生たちの首が跳ねられる。

 行き場を失った体がその場に倒れ、俺たちを守ろうとしたその顔は何が起こったのか分からない顔をしていた。


「おええええええええええええ」


 レインが吐き出す。

 俺だってそうした気分だ。


「きゃあああああああああああああ」


 エレオノーラが叫ぶ。

 俺だって叫びたい気分だ。


「今度は見えた、防げる、防げる」


 剣を構えて前を見据えるアイン。

 アイツはまだ諦めていない。


「僕は戦えない人を連れて避難するよ」


 そうだリボーン、こういう時こそ冷静にな。


「おや、もうお帰りになられるので? 困りますなあ、最後まで楽しませてくれないと」


「ふざけんなああああ!!!」


 アインが全力で駆け出しベリトへと斬りかかる。

 俺もその後を追うように走り出していた。

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