第33話 レオス・ヴィダールとベリト②
「はああああああああああああああ」
アインがベリトに斬りかかる。
それを片手で、何の苦も無く受け止める。
「ぐっ!」
そのまま遠くに放り出されるアイン。
「ダークウォール!」
アインが放り出された方向に壁を出し、その衝撃を緩める。
「残った先生たちは生徒たちの避難を! そこで蹲っている女子もお願いします! 間違いなければこいつらは子供が好物、絶対にここから逃してはいけません。」
俺は早口になりながらも希望的観測を込めて情報を伝える。
俺の予想ではこいつはここから動かない、俺たちがいれば、だ。
「ふむふむ、中々頭の回転が早いようで、そうですねえ。貴方たちのようなおいしい果実を前にして他に手を出すような真似はしませんね」
自分に向かってくる俺たちとの遊びを、他の子供たちを狩ることより優先したらしい。
悪魔らしくて助かるよ!
問題は俺たちがどれだけもつかってことと、こいつがいつまでいるかってことだよ!
「アイン! さっさと起きろ!」
「人使いが荒いぞ!」
「必死なんだよ! 分かれ」
「それで作戦は?」
「お前が攻撃して俺が補助。簡単だろ?」
「分かりやすいな!」
俺はアインと目を合わせる。
こいつの目に絶望は映っていない。
大丈夫、俺たちならやれる。
やってみせる。
「ご相談はそれで終わりですか?」
「ああ、待たせて悪かったな。いくぞアイン!」
「おう」
「ダークバインド」
「グラビティ」
俺は鉄板の二重詠唱を発動する。
ベリトは俺の攻撃を一度受ける節がある。
今回も無防備にその攻撃を受け止める。
「ほうほう、纏わりつく闇に、これは……重力?」
重力の概念が分かる!? 悪魔ってのはどこまで博識なんだ。
いやまあ前世じゃ常識だったけどさ。
「随分と余裕だな!」
アインの横薙ぎの剣が相手の腹に入る。
剣先はぐさりとささり、致命傷を与えたかのように見えた。
「っ! アイン下がれ!」
俺は悪寒がしてアインに咄嗟に指示を出す。
その声を聞いて素直にアインが後退する。
その空間に鋭い爪を持った腕が振り払われていた。
「この環境でそこまで動けるのかよ……」
俺はグラビティもダークバインドも解除していない。
それだけの制限を受けながらもこいつはこれだけ動くことが出来るのだ。
しかし攻撃は通った。
いかに化け物でも攻撃が通るのなら、勝ち目はある。
案の定傷つけた傷口はジュクジュクと回復していき、元通りになった。
「すまん、あんまり補助出来ないかもしれない。ないよりましだと思って動いてくれ」
「充分だ」
一呼吸を置いてもう一度ベリトに向かい合う。
「いくぞ!」
「ブラックホール」
俺は今度はベリトの下にブラックホールを展開する。
ダークバインドとグラビティとの合わせ技で、これ以上の拘束は無理だ。
さすがにこれは効いたのか、相手の動きがより緩慢になる。
それでも鋭い爪での猛攻は止まない。
それを掻い潜ってベリトの表皮に傷を付けづ付けていく。
俺も補助魔法の威力をより高めていく。
より強く、より粘っこく。
「ダークミスト」
あまりの緊張感に忘れていた。
相手の視界を奪ってしまえばいいのだ。
「これは、よろしくない」
ベリトがふーと息を吐くと、ダークミストが霧散していく。
「折角の舞台なのに目をふさぐとは無粋ですね」
「見えないからこそ感じることもあるかもよ」
「それは新境地ですな」
冗談なのか本気なのか分からない会話をベリトと繰り返す。
その間もアインは必死に攻撃を続けている。
それでもベリトに疲弊した色はない。
そもそもこの拘束に意味があるのかすら疑問に思えてきた。
「……そろそろいいでしょうかね」
ベリトがそういうと俺のダークバインドがちぎり取られる。
グラビティの状況かに置いてやつは立ち上がり、アインを見据える。
「アイン! 逃げろ!」
ベリトの横薙ぎに払われる右手、それを受けて吹き飛ばされるアイン。
俺の声は虚しく響いた。
どうするどうするどうする!
逃げる? アインを置いて?
逃げてどうする? 誰に助けを求める?
誰もいやしない、こいつを止められるやつなんて他に誰も。
「なんて……顔してやがる……」
「アイン!」
「ほう、まだ息があるとは感心です。これでおいしく食べることが出来そうです」
何を言ってるんだこいつは。
考えろ考えろ考えろ。
こいつを止める手段は、ある。
あるじゃないか。
悪魔には悪魔をぶつければいい
俺は脳内にこびりついた召喚陣をその場に書き出す。
ベリトはゆっくりとアインに近づいている。
急げ急げ、でも慌てずに確実に間違いなく。
正確に、そして素早く。
まだ間に合う。
間に合わせて見せる。
俺が原作の通りの男なら必ず召喚出来る。
失敗なんかしない。
俺には守るべきものがたくさんある。
そして誰にも負けない最強になりたいという意思がある。
だから俺の呼びかけに答えろ!
「こいよこらあああああああああああああ」
俺は剣についている魔石を剥ぎ取り、召喚陣の中へと放り込む。
「出でよ! 我とそのすべてを守る悪魔よ、召喚の理にて顕現せよ!」
俺の呼びかけに反応したのか、魔石に反応したのか召喚陣が光りだす。
「何かこい! なんでもいい! この状況を好転させる何かを!」
ぱあああああああああ。
光が一層輝きを増し、ベリトも足を止めてこちらを見ている。
まばゆい光が消え去り、小さな影が召喚陣の上に存在する。
そんな俺の願いの元に現れたのは、小さな子供の悪魔だった。
尻尾にはプリティなハートマークの子供の悪魔。
「我が名はムルムル、召喚されてきてやったぞ!」
どうやら俺の命運はここで尽きたようだ。
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