第2話 レオス・ヴィダールの謝罪
ロイヤルヒーロー。
子供の頃見たアニメで主人公とヒロインが学園で生活送りながら、キャッキャウフフする。
当然悪も存在して、それを撃退したり、学園行事を楽しんだり、ダンジョンに潜ったり、恋があったりと定番をしゃぶりつくしたアニメだ。
当時は小学生だったし、登場人物に共感も出来なかったし、内容もあんまり覚えていないけど何故かレオス・ヴィダールのことはよく覚えている。
主人公に逆恨みをして、学園内で悪魔を召喚して無茶苦茶にする。
それを主人公に倒され、学園を追放され隠居生活を送ることになる。
さらに悪魔教という教団に目を付けられ、攫われた上に魔改造されてまた主人公の前に立ちはだかる。そしてそこで完全に散るというほんとうにだたの悪役だ。
なんでだろうか、子供心に醜さと悲惨さが刺さったのだろうか。
何をしても失敗する、挙句悪の手に利用され倒される。
そんな可愛そうな存在だと思ったのだろう。
「しかし、実際転生してみるとちょっとワクワクするな」
こういった悪役転生ものは通勤時間に見ていたウェブ小説とかで人気だった。
怠惰だったり、自分の才能に驕っていたり、なにかと理由をつけては努力せずやられ役になる悪役。
なら努力しちゃえば解決するじゃん!
ってな感じで最強へと成り上がる。
そんでハーレムかヒロインと結ばれたりするんだ。
俺は知っている。
完結まで読んでないから実はそんなことないかもしれないけど、転生したらやることといったら努力だ。
「俺の眠っている才能が芽吹くときが来た! ついに世界が俺中心に回るのだ!」
俺は誰もいない部屋で一人叫ぶ。
しかしまずはけじめが必要だろう。
俺は呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぶ。
コンコンというノックと共にリンダが入ってくる。
「レオス様、何か御用でしょうか」
「リンダさん、使用人を大広間に集めてもらっていいですか? 伝えたいことがあるので」
「っ、かしこまりました。少々時間を取らせていただきます」
「はい、急がなくてもいいですよ」
そう言うとリンダは部屋から急いで出ていった。
俺は手持ち無沙汰になったので筋トレを行うことにした。
確か魔法が使えるはずだけど、全く知識がないのでとりあえず出来る事からということで腕立て伏せをする。
「い、一回もできねぇ……」
床に手を付け、足を伸ばして腕立て伏せの姿勢をとる。
それだけで腕はプルプルと震える。
そして腕を曲げて下げるところで無様に崩れ落ちる。
ま、まあ腕は足とかと違って鍛えないとこんなもんだろ。
腹筋、は昨日上体を起こせなかった時点でないな。
あとできることは……スクワットくらいか。
俺は足を両肩の幅くらいに広げて、腰を落としてスクワットを開始した。
「思ってた通り、きつい! でも俺は諦めない! 強くなるんだ」
俺が一生懸命スクワットをしていると、ドアがノックされリンダに声を掛けられる。
「レオス様、準備が整いました。よろしいでしょうか?」
「分かりました。今行きます」
俺はかいた汗をぬぐって、全身を見る。
結構な汗をかいたのでさすがにこれではと思い、適当な服へと着替える。
なんというか、センス悪いな。
ビロビロとウェーブが掛かった服が多い。
もっとこう普通でいいんだけど、こればかりは今後改善するしかなさそうだ。
新しい服に着替えて大広間へとリンダに手を引かれて向かう。
俺が落ちたであろう階段の下に広がる空間に、大勢のメイドと一人の執事が立っていた。
俺はもう一度落ちないよう、しっかりとリンダの手を掴んで階段を下りる。
そして集合してる使用人の前に立ち、今までの謝罪を行う。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます。今まで俺は我が儘放題で皆さんにひどいこともたくさんしたと思います。それについては本当に申し訳ありません。これからは心を入れ替えて皆さんと接したいと思います。許してくれとはいいません。ただこれからは皆さんが安心して働けるようにしていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします」
俺の謝罪に使用人達が騒めく。
当然だろう、今まで好き勝手やってたやつが急にこんなことを言ったって誰が信用できるものだろうか。
俺ならしないね。
頭打ったんじゃないの? 実際に打ったわけだけど。
ざわざわとしているところに一人の執事が前に出てきた。
俺はリンダに耳打ちする。
「彼は?」
「彼は執事のカモールです。レオス様の教育係でもあります」
あー耳が痛い。
多分一番迷惑かけていたのだろうな。
「レオス様、急な謝罪に皆困惑していると思います。今後の動向は見守るとして、その敬語はやめて頂いてよろしいですか? 目上の者が目下の者に使う言葉使いとしては不適切です」
「あー、そういうことですか、いやそうか。分かった。気を付けるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ謝罪ついでと言ったら変だけど、俺に剣術を教えてくれない? あと痩せたいから体も鍛えたい、魔法も覚えたい。色々急だけどお願いできる?」
執事のカモールが俺を驚愕の表情で固まる。
まあそうだよね、リンダもそうだったけど、急に人が変わったみたいなことしてるし。
実際人変わってるしな。
転生前の記憶全然思い出せないし。
「レオス様がおっしゃるのであれば、今すぐにでも始められます。元々私が教育係ですので」
「そうだね、今まで悪かったね。これからよろしくお願いするよ」
あ、カモールが涙をこらえてる。
例え今日だけの言葉であっても彼にとってはこれほど嬉しいことはないのだろう。
大丈夫だ。俺がこれからたっぷり鍛えさせてもらうからな。
でも今日からはちょっときついかもなあ。
さっきのスクワットだけで俺の足はプルプルしている。
リンダがいなかったら階段落ちてたかもしれない。
折角やる気になってくれたカモールには悪いけど、明日からに、いやここで逃げてどうする。
明日やる? それは逃げだ。
今日やれるなら今日する。
俺は絶対に怠けないぞ!
「それじゃあ動きやすい服、リンダ、ある?」
「そうですね……、レオス様の部屋にはないと思いますが、いくつか倉庫に眠っているものがあると思いますので、それをお持ち致します」
「よろしく頼むよ」
そう言って俺は階段の手すりをしっかり握って階段を上がって自室へと戻った。
その後簡素な服をリンダが届けてくれてそれに着替えてカモールが待つ屋敷の外へと向かった。
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