第40話 オルノ・ヴィダールは陞爵する.
「この度貴殿を男爵から子爵へと任命する」
王都からきた使者を迎え入れ、その用件を聞いた時、私はひっくり返りそうだった。
陞爵? なんで?
私はただ普通に領地を統治していて……むしろ搾り取ろうとすらしているのに。
「今回の陞爵は不毛の地であった領地の開拓、難民を受け入れることによって生じる領民の増加、それによって引き起こされるはずの治安の悪化は見受けられずここ数年の貴殿の活躍ぶりが評価されたものである」
そう言われてもあまりピンとこない。
私は用意された用紙に判を押していたに過ぎない。
開拓は勝手に領民が行ってくれるし、何よりレオスが手伝いに出ていることが大きい。
私にはそのような行動力はなく、かといって財政を預かれるような頭もない。
すべて周りの人間がいてこそのことなのだ。
「よかったですね父さん」
「あ、ああ」
まあ少し給金も増えるし、地位が上がったと思えば悪くないか。
「続いて、地続きであるファゴット領を貴殿に与えるとする。ウェンド領として同様に発展されたし」
ええ!? ファゴット領は王家直轄の領地だ。
だけど魔物や難民、野盗が住まう荒れた土地、治める代官もおらず手つかずになっていたところだ。
つまるところ今回の陞爵は厄介な土地の押し付け、ここ数年の成果を見込んでのことだろうが私には荷が重すぎる。
どうしてこうなった。
「ええと、身に余る光栄なのですが、辞退することは」
「これは王命である!」
「はい……」
どうする。どうしたらいいんだああああ!
私は王都から来た使者を見送り、自室へと戻った。
執務室に入るとレオスがソファに座る。
「また開拓ですね。今回は前回よりも大変になると思いますが頑張りましょう」
「レオス、悪いが手伝って貰えないか?」
「当然です。ちょうど学園も休校ですし、魔物も野盗もいい訓練になります」
我が息子ながらなんと頼もしいことか。
しかし危険なことはあまりやってほしくない。
「危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」
「大丈夫ですよ、いざとなればこれもいますし」
そう言ってレオスは頭を指差す。
これも不安の種だ。
レオスが悪魔を召喚したと聞いた時は何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
しかしその悪魔のおかげでレオスの命が助かったというのもまた事実。
信用は出来ないが有用であることは認めなくてはならない。
「慢心だけはするなよ」
人は簡単に死ぬ。
だから本当はレオスをこの館から出すのも嫌だ。
しかしそれではダメだ。
私がいなくなった時、頼れるのは己の力のみなのだから。
多少の危険は飲み込まなければならない。
それに我が息子は強いしな!
一体誰に似たのだろうか。
私は特に秀でたところはなかったし、今は亡き妻も武芸に秀でていたわけでもない。
先祖に優秀なものでもいたかな?
そんなことを考えるとレオスがソファから降り立ち上がる。
「それでは、カモールとの鍛錬に行ってきます。開拓の手筈が整ったら向かいましょう」
「分かった。ああレオス、お前に縁談の話が来ているが全部断っていいんだな?」
耳聡いものは私の子爵への陞爵をすでに知っていたのか、レオスの今後を考えたのかいくつかの縁談の誘いが舞い込んでいる。
「ええ、そうしてください。俺にはレインだけで充分ですよ」
レイン・オブリール。
一応婚約者ではあるのだが、書面で正式に約束しているわけではない。
あくまで口約束だった。
今回私が子爵になったことで多少両家のパワーバランスが傾いたがまあ気にするほどのことでもないだろう。
レオスもレインのことを気に入っているようだし、私に似たのか愛人を持つ気もなさそうだ。
まあまだ15歳の子供だ。これから心変わりもするかもしれん。
その時の選択肢は多いほうが良いのだがなあ。
私も愛人には反対だからこの縁談はすべて捨て置いておこう。
私がそう思案しているうちにレオスは執務室から出ていってしまった。
しかし未開の地の開拓か……まずは調査団を派遣してどのような土地か調べるところからか。
ええい、分からん時はこれだ。
「リンダ! リンダを呼べ!」
私がそう呼ぶと、すぐに扉が開く。
「お呼びですが旦那様」
「おお、早いな」
「お呼びになると思っていましたので扉の前で待機しておりました」
「王より領地を賜った。隣接するファゴット領だ。急ぎ調査団を向かわせろ」
「かしこまりました」
ふう、後はリンダに丸投げしておけばいい。
うちには優秀な臣下がいる。
そいつらに任せて私はゆっくりさせてもらおう。
必要な書類に判を押すだけ。
平和な日常が私の癒しなのだ。
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