三章
第39話 レオス・ヴィダールは懐かしむ
俺が学園に入学して、対抗戦で優勝して、エリアルによって召喚された悪魔ベリトと戦い、ムルムルを召喚してベリトを倒したりと激動の半年を過ごして、今俺は自分の領地でのんびりとしている。
のんびりと言っても別にサボっているわけではない。
いつも通り鍛錬は続けているし、カモールという練習相手がいるので困りはしない。
今日も剣術の訓練を行っている。
「しかしレオス様、見違えるように強くなりましたな。元々もう私に出来る事がないと思っていましたが、更に上に行かれたように感じます。
「そう? まあ本当の死線を潜ったせいかな。あと単純にこれのおかげかも」
そう言って俺は自分の頭を指差す。
融合しているわけではなく、寄生? 擬態? している状態なのだが、頭の処理速度が上がっているように思う。
俺は相手の動きがゆっくり見えたり、先が読めたりするようになった。
先が読めるのは別に未来予知とかじゃなくて、相手のちょっとした動き出しを感じ取ってその先を予測する。
アインが兵士との訓練でしていたことの真似事のような感じだ。
アインはこれを素でやれるのだから恐ろしい。
融合は出来ないとはいえ、ムルムルが俺の体の一部になっていることの恩恵はまだまだありそうだ。
把握出来ていないだけで俺はより強くなったことだろう。
問題は頭に目を付けた怪しいやつになっているってことくらいか。
「ムルムル、ちょっと離れていいよ」
「むー眠いのです」
「いいから」
「仕方ないのです」
俺は眠そうなムルムルを無理矢理起こし、頭から分離してもらう。
出てくるのはティディベアの人形程度の大きさで、くるくるのくせ毛を付けた子供のような悪魔。
悪魔と分かるのはお尻についたハートマークの尻尾と、もこもことした毛で体中を覆っているからだ。
「もっと威厳のある姿にはなれないのか?」
「他の姿ですか? なれなくはないけど余分なぱわあは使いたくないのです」
「燃費が一番いい姿ってことか」
俺は一人納得してムルムルの傍を離れる。
そしてカモールと向き合い訓練を再開する。
しかしこのまま訓練をしても俺が勝つだけであまり意味がない。
何かいい手段はないものか。
俺がうんうんと唸っているといいことを思いついた。
俺はダークソードを作ったときの要領で手首と足首に魔力を纏わせる。
そしてそれを実体化させ、皮膚から離れないようにぴったりと装着させる。
名付けて「簡易リストウェイト」だ。
魔力を実体化させるのにも相当な魔力を使用するが、それを更に重しにすることで身体に負荷をかけようというものだ。
さらに体を循環している魔力の出力を下げ、魔力の制限を行う。
これは実際に魔力が切れそうになったことを想定する戦いにも使えそうだ。
「随分おかしなものをお作りになられましたな」
「これでいい負荷がかかるよ。それに魔力切れの時に頼りになるのはやっぱり肉体だからね」
最近は何かと魔力循環に頼ってきた面が大きい。
決して鍛えてないとは言わないが、自分より一回り大きいアインを見ているともっと筋肉を付けなければと思う。
「では、参りますぞ」
「うん、よろしく」
その日の訓練は激しいものになった。
思った以上に魔力がない状態で戦うというのは厳しいと感じられた。
カモールは全力で戦ってくれているので、普通に負けてしまった。
これが魔力を持たないものと魔力を持つもの差か……。
つくづく魔力というものを持って生まれることが出来てよかったと思う。
……でも平民に転生してたらそれはそれで平和に生きることも出来ただろうな。
「もううごけないかも」
体を酷使しすぎて魔力なしでは立ち上がれないようになって、俺はカモールに伝える。
そういえば体が動かなくなるまで訓練したのは最初の頃以来だな。
あの頃は魔力も筋肉もどっちも動かなくなるまで繰り返したもんだ。
そう思えば、今の疲労も懐かしく思える。
それに魔力さえ使えばまだまだ動けるしな。
「よっと」
手首と足首につけていた簡易リストウェイトを外し、魔力循環によって体を起き上がらさせる。
「それじゃあこっからは第二ラウンドといこうか」
「魔法戦ですか? 少しは私を労わってもらいたいものですな」
「まだまだ老け込むような年じゃないだろ?」
全くレオス様は、と小さな声で文句を言うカモールを相手に訓練を再開する。
風の魔法を使うカモールと純粋な魔法のみで戦う。
搦め手は敢えて使わない。
込める魔力を増やして攻撃的な魔法を中心に使っていく。
そして魔力もすっからかんになるまで訓練は続いた。
「あ」
そう言って俺が前に倒れるのと同時にカモールが膝をついた。
魔力筋力共に切れた俺。
そして恐らくカモールは魔力切れだ。
そうなると必然的にここから帰るにはカモールの肉体に頼るしかなくなるわけだ。
「レオス様、肩をお貸ししますので、どうにか歩いて帰ってください」
「うん……ごめん、久しぶりに動けないなんてことになったからすっかり忘れてたよ。誰かの補助もないのに動けなくなると大変だって」
「いえ、私が止めるべきでした。まさかそこまで魔力量が増えているとは思わず、訓練を続けてしまいました」
俺はやっちまったなぁと思いながらカモールに肩を貸してもらう。
ずるずると体を引きずりながら領館へと戻る。
その姿を見たメイド長のリンダが急いで駆け寄ってきてくれて俺をお姫様抱っこしてくれる。
ああ、最初の頃こんなことあったなあ。
でも15歳にもなってこれは恥ずかしい。
その日はされるがままにお風呂から着替えまで手伝って貰い眠りについた。
もうこんなことはないようにしよう。
そんな翌日、王都からの使者が我が領地へと参上した。
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