第8話 レオス・ヴィダールの剣術大会
レインが剣術大会の開催を知らせてくれてから、魔法の練習よりも剣の練習に励む時間が増えた。
領地の開拓は順調に進んでおり、空いた時間を練習に充てられるようになったのはありがたい。
それでも週に何回かは様子を見に行っている。
「はっ!」
カモールの鋭い突きが俺の顔面に向かってくる。
それを剣の腹で受け流し、そのまま攻撃に転じようとする。
そこにカモールの長い足が俺の腹部に入り、後ろへと吹き飛ばされる。
「攻撃に転じるときが一番の隙、何度もそう教えたはずですよ」
「そうは言ってもさあ、実際やるとなると難しいよ」
実戦さながらにやるのには訳がある。
剣術大会のルールがなんでもありだからだ。
もちろん、剣だけで戦う! っていう子もいるだろうけど、俺はそんな余裕はないので体術を組み込んだ実戦式で挑もうと思っている。
「じゃあ次はレイン様、お願いします」
「うん!」
横で観戦していたレインとバトンタッチする。
正直俺との模擬戦では物足りなくなってきたのだろう。
カモールとの戦いに熱が入る。
彼女の強さはその膂力にある。
全身に淀みなく流れる魔力もそうだが、筋力もかなりある。
この前腕相撲をしたら簡単に負けてしまった。
悔しかった。
ま、まあまだ成長期だし、女の子の方が成長は早いっていうから、今は負けといてあげただけだ!
さらに言えば、その吸収力。
一度目にした剣術を何回も操るうちに自分のものへと昇華していく。
あれ? この子の方がよっぽどチート持ちなんじゃんないかな?
でも木っ端貴族のレオスの活躍というかやられ様くらいしかよく覚えていないから本編に出ていたかも怪しい。
俺に感化されて眠れる才能を呼び起こしたとかないよな。
レインとカモールとの戦いは打って変わってカモールが防御に回る形となった。
というかレインは余り防御が好きではない。
攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに苛烈に攻めてくる。
今も目一杯力を入れた剣を横薙ぎで振るう。
それをバックステップで避けるカモール。
レインも攻撃の反動を利用してそのまま回転すると頭上目掛けて半回転しながら飛び上がり、剣を振り下ろす。
カモールはそれも綺麗に受け流し、次もどうぞと言わんばかりに佇んでいる。
俺なら初手の横薙ぎで防御して体のバランスを崩し、次の攻撃で致命傷を食らっているだろう。
予測していればバックステップは……無理かな、衝撃を抑えるように反対側に飛びながら受ける。それなら体勢は崩れない。
うーん。どちらも俺とはレベルが違うなあ、最悪レインに当たるまで勝ち進みたいと思っていたけど、これはちと難しいかな。
しかし折角同年代との力の差を確認できる機会だ。
俺は二人の戦いを見ながら、俺ならこうできる、と想像して観戦を続けた。
そんな日々はあっという間に流れ、10歳を迎えるころに剣術大会の開催日が決定した。
確か原作では主人公が優勝していたはず、圧勝するにも関わらず「いい試合だったね」とかなんとか言ってた気がする。
多分善人なんだろうな、根本的に。
主人公だし、いいやつなんだろうな。
レインと一緒に開催地となる都市に向かう。
コロッセオのようなものが併設されている少し野蛮な都市だ。
貴族様をそんなところにやってもいいものかと思わなくもないが、その為か警備は厳重でめったなことは起こらないようになっているようだ。
途中スラムのようなところを通ったが、目につくがりがりの子供たちを見て、少し陰鬱な気分になった。
うちの領地にこればまだまだ受け入れられるぞ!
そう言ってあげたいくらいだった。
「なんか嫌な感じがするね、私初めてかもこういうところ」
「俺もだよ、皆が皆幸せに暮らせてるわけじゃないんだよね」
貴族として生まれ、転生した俺は豊かな生活を送らせてもらっている。
もしそれとは全然別な、例えばここにいるスラムの少年たちに転生していたら俺はどうしていただろうか。
ここが原作アニメの世界だとも分からず、その日暮らしで満足に食にも付けない。
生きてこれたかすら分からない。
貴族に生まれてよかったと思う反面、どうにかしないとと思った。
闘技場に着いてから参加用紙にサインをしてトーナメントの発表を待つ。
誰か知っているキャラはいないかなとキョロキョロしていると、主人公が高い来賓の席に座っているのが見えた。
アイン・ツヴァイン。
辺境伯の息子であり、ロイヤルヒーローでの主人公だ。
黒い髪で橙色をした目に、女の子とも男の子とも取れる中性的な顔をしている。
あれで剣の腕は一流だから恐れ入る。
国の境を守るものとして、俺よりも幼いころから過酷な訓練と実践を行っているのだろう。
その顔は俺と比べて引き締まり、傷もある。
多分その手は俺のまだ柔らかい手と比べて、剣を握って出来た硬い皮膚に覆われてることだろう。
そして少し離れたところに座る女の子、この子も登場人物だ。
ヒロインのエレオノーラ・ドルッセン。
金髪碧眼、東洋風な顔つき、幼いながらも大人びたその顔に、腰まである長い髪、公爵家の娘にあたる。
アニメだと、キャーキャーいいながら主人公とイチャイチャしていたはずだけど、やることは結構えぐぐて、聖魔法を最高火力でぶっとばす、めちゃつよ魔法使いだった。
主人公が苦戦している相手に、「下がって」とかいうと、「セイントセイバー」と言って光の光線を放ち敵を一掃する。
やりすぎちゃったー、と取り繕って周りもしょうがないなあなんて甘やかしていたけど、あれ完全に計算づくだよな。
アニメの脚本がどうだったかは知らないが、余り近寄りたくない存在だ。
原作通りなら、決勝戦はヒロインの双子の弟、リボーン・ドルッセンが相手になるはず。
そこでヒロインと主人公は出会い、交流を深めていくといった感じだ。
俺がそんなことを考えながら観客席から見守っているとトーナメント表が発表された。
左端にはアインの名前、右端には俺の名前がある。
まああり得ないけど、決勝までアインと当たることはない。
そもそも原作で戦っていた記憶もない、一体どこで恨みを買ったんだろうかアインは。
そして俺の初戦の相手はクーゾ・コザック。
聞いたこともない貴族だ。
まあそもそも貴族の情報なんてほとんど知らないわけだが。
それよりも2回戦の相手が終わっている。
あのリボーン・ドルッセン、ヒロインの双子の弟だ。
1回戦勝ってもこれかあ……優勝候補はちょっと荷が重いですよ。
「3回戦までいったらレオスと当たるね、それまで頑張ろう!」
レインが無邪気にはしゃいでいる。
そうだな、戦う前から負ける気でどうする。
戦いは何が起こるか分からない、そう簡単に負けてやるものか。
俺は気合を入れなおし、開会式の終わりを待っていた。
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