第7話 レオス・ヴィダールと婚約者
俺が転生してから一年くらい経った。
そして最近思うことがある。
俺弱くないか?
体は大分引き締まってきた。
この体になってから初めて会った婚約者レイン・オブリールはそれから毎週欠かさずこちらの領地に来ては、開拓の手伝いや俺とカモールの剣術と魔法の訓練に参加するようになった。
いきなり人が増えて最初はどうしようかと思ったけど、練習相手が増えると思えばよかったし、なにより同世代の人というのはこの閉鎖的な環境ではとてもありがたかった。
初めはよかった。
カモールから剣術を学んでいるというアドバンテージ、彼女もやんちゃしてるようだったが、俺の今世と同じく勉強となると逃げて遊んでいたらしい。
女だからという理由で剣も教えてもらえず、我流でなんか学んでいたらしい。
そして俺の剣を見てからすぐに模擬戦をしようと懇願された。
まあ無下にするのもなんだし、俺もカモールの相手ばかりしていては変な癖が出来てしまうかもしれない。
そう思って彼女との模擬戦に同意した。
練習用の木剣をお互いに手に取り、魔法は禁止、ただし体内で使う分には問題ないというルールのもと試合は始まった。
まずはレインが勢いよく俺に飛び掛かってくる。
野生児のようなその格好はとても貴族の令嬢には見えなかった。
本人も気にしていなさそうだが、非常に野性味がある。
彼女が右手に持った剣を空中から振りかぶってから、俺の頭上目掛けて振り下ろしてくる。
少しあっけに取られていた俺はそれをそのまま左手で剣の腹を抑え、レインの繰り出した攻撃の衝撃をそのまま受けてしまう。
ゴツっ!
鈍い音が響く。
あれ? まだ子供だよな?
そこに加わった圧力はイノシシを相手にしていた時よりも重い。
これで剣術は我流だって? やれやれ才能の差を感じるよ。
俺に防御されたのが嬉しいのか、レインは一旦距離を取って次の攻撃を窺っている。
俺は一呼吸おいて冷静さを取り戻す。
馬鹿正直に力で対抗するな、俺にはこの半年カモールから教わった基礎がある。
両手で剣を構え、剣道のように体の中心に剣を置いて相手の出方を窺う。
じりじりと距離を詰めていくと、先に動いたのはレインだった。
先程と同じように空中に飛び上がり、同じような攻撃を繰り出そうとしている。
さすがに甘いんじゃないか?
俺はそう思ったが、それは間違いだった。
そこからレインは体を捻り、ドロップキックのように両足で蹴りを繰り出してくる。
器用だなあ!
しかしその程度の動きなら見切れる。
横にすっと躱して相手が着地するのと同時に彼女の首元に剣を置いた。
「俺の勝ちだな」
「むー、もう一回!」
「何度でも」
その日は時間が許す限り模擬戦をした。
結果は全勝、でもどんどんレインが強くなる感じがした。
気のせいでなければこれはそのうち抜かされるんじゃないのか?
そう不安になった。
魔法の訓練では火力はあっという間に抜かれた。
元々火力の高い火属性ということもあり、ボール系の魔法では相殺するのも大変になってきた。
そこは訓練で鍛え上げた魔力の量とコントロールで差を埋めていったが、これも時間の問題だろう。
そして半年くらいたったころ、彼女と俺の立場は逆転した。
単純な剣術では負け越すことが増え、魔法の勝負では火力負けをする。
まあ元々闇属性だったのでそこまで悲観的には考えていなかった。
剣術は少し意外だった。
思った以上にレインには才能があったようで、カモールの教えによってメキメキとその頭角を表していった。
「レイン様は本当に筋がいいですね、これなら騎士団でも充分通用しますよ」
「そう? でも興味ないしな~」
「カモール、僕については何かないの?」
「レオス様は、その、中々いい筋をしているかと」
「才能がないならないって言えよ!」
俺は悔しくてその日は剣を地面に投げつけて一人自室へと帰った。
そして一晩たって冷静になり、なに子供みたいな駄々をこねてるんだと恥ずかしくなった。
その日は休みだったので、自主練でもしようかと部屋着から練習着へと着替える。
部屋から出るとすぐにカモールと目が合う。
「レオス様、昨日は申し訳ありません。執事としてあるまじき発言でした」
「いいよ、別に気にしてないから」
俺は本心からそう言った。
目の前に才能の塊がいるのだ。
自分の非才さくらい身に染みている。
そんなことより剣がダメなら魔法があるじゃないか。
剣を磨くのも忘れない。
別に一番になれなくたって強くはなりたい。
そのための努力なら何の苦にもならない。
「本当に、気にしていないのですか」
カモールが本気で俺の様子を心配している。
あー、まあ俺が転生してから初めて起こした癇癪だしな。
今まで見たいな俺に戻るのが怖いんだろう。
「レイン様を優遇しているつもりはなかったのですが、そう見えてもおかしくなかったかもしれません」
「あーもー。だから大丈夫だって。昨日はちょっと悔しかっただけ! これからも剣は続けていくからビシバシ頼むよ」
「――っはい! 精一杯務めさせていただきます」
本当に困るんだよ、この程度でやる気を削がれてちゃ。
俺は最強になるという野望を持ったんだ。
最後まで諦めてたまるものか。
才能は努力で埋める、否埋めて見せる。
いつも通りの執事の姿を見て、今日の訓練を開始する。
基礎の型の反復練習、実戦を意識した剣と体術の組み合わせ、フェイントや卑怯な技までカモールの教えられるすべてを伝えてもらった。
これがまあ実際に使えるとは別としてね。
そんな日々を送っていたころ、レインが嬉しそうな顔でこちらに向かってきた。
なんだろうと思っていると、一枚の紙を持って俺に言い放った。
「これ! 10歳の子たちが集まって行う剣術大会だって! レオスも一緒に出よう」
それは毎年行われている国の行事で、10歳になった子供たちが剣術で競い合う参加が任意の大会だった。
ルールは以前模擬戦でやったものと同じ、魔法の行使は禁止、体内の魔力循環は問題ないという簡素なものだ。
剣は刃を潰してあるとはいえ真剣を使うという。
面白いな、今の実力を見るいい機会だ。
俺は大会への参加を決め、その日に向かって訓練を続けた。
優勝は出来なくてもいいところまではいってやろう。
俺はやや消極的な目標を立てて剣を振るった。
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