第27話 レオス・ヴィダールと対抗戦

 大きな花火が打ち上げられ、対抗戦の開始が宣告される。

 会場は何に使うように作られたのか分からない、円形に切り出された台座に、周りに段々の観客席がある場所だ。

 昔はランキング戦や決闘に使うこともあったそうだが、物騒だということで廃止になったりしたらしい。

 決闘自体は今でも行われてるらしいので機会があれば使ってみよう。……誰とだ?


 全校生徒が観客席に座りながら学園長の開会式の挨拶を聞いている。


「この度も対抗戦を行えることを嬉しく思う。上級生は普段の成果を発揮し、下級生は胸を借りるつもりで戦ってほしい」


 ふふふ、胸を貸すのは相手なんだよなあ。

 俺はアインと目配せをしてやってやろうぜって顔をした。


 この対抗戦は全員参加なので、マリアも参加しなくてはならない。

 魔法も剣術も出来ない平民の子を戦闘の場に出すのはどうかと思うが、毎年の行事だと思って諦めるしかあるまい。

 幸い審判がいるし、救護班もいる。

 

 あぶなくなったら止めればいい。


 学園長のあいさつが終わり、司会の先生が壇上へとあがる。

 対抗戦の始まりだ。


 俺の初戦の相手は3年生の誰かだ。

 基本的に1年生は3年生あたり、その強さを肌で感じ取ってもらうという親切設計だ。

 だが、倒してしまったも構わないだろう?


 余裕そうに構えている相手の3年生を俺は少しおどおどしながら構える。

 俺は一切の油断をしない。

 初戦から全力を出す必要はない。

 そして実力も出す必要もない。


 試合を開始する合図がなる。

 相手の3年生が真っすぐ俺に向かってくる。

 剣士寄りか、ありがたい。

 魔法の打ちあいになれば自ずと俺はそれに対応しなければならない。


 俺は相手の緩慢な動きを捉えて上段から繰り出される攻撃を軽く避けて、足を引っかけて相手をその場にこけさせる。

 そして無防備になった相手の首におどおどと剣を突き立てる。


 これって僕の勝ちですよね? っていう感じだ。

 審判の人が俺の勝利を宣言する。


「3年生でも負けるんだね」

「でも自滅っぽかったよね」

「あいつがマヌケだっただけだろ」


 俺と相手の力量差が分からない人たちにはそう映っただろう。

 一部の強者は気付くかもしれないが、今はいい。

 それよりももっと目を引く存在がいるからだ。



 俺の試合のあと、しばらくしてからアインの試合が始まった。

 相手は杖を構えた生粋の魔法士だ。

 アインの苦手とする相手とどう戦うか。


 実はアインとの練習は1週間前からしていない。


「秘密だから」


 そういう彼から無理矢理聞き出すのはやめておいた。


 アインの試合が始まる。


 アインは走らない。

 ゆっくりと相手に向かって歩を進めていく。

 相手の3年生はその様子に少し驚いたようだが、すぐさま魔法の詠唱を始める。


「ファイランス」


 空中に現れた火の槍がアインに向かって飛んでいく。

 魔法で迎撃するようすはない。

 まさか!?


 アインは両手に力を込めて飛来する相手の魔法を

 文字通り切断した。


 本来魔法は魔法によって迎撃する。

 それが当たり前で常識である。

 だが稀にその常識を覆すものがいる。


「あのやろう、俺が長年かけた技術をたった1週間で習得しやがった」


 剣に魔力を纏い、その魔力を持って相手の魔法を斬る。

 簡単に言うが、これが実際にはすごく難しい。

 剣に魔法を纏わせるのは簡単ではある。

 特段訓練しなくても出来る。


 しかし魔法を斬るとなると別だ。

 あくまで魔力循環で得られる魔力は第2の筋力。

 魔法とは違う。

 それを行うには魔力の硬質化、斬る瞬間にタイミングを合わせるシビアさ。

 そう簡単に出来る事ではない。


 これが才能というやつか。

 魔法の才はなくとも、こと剣術というものに関しては右に出るものはいない。

 アイン・ツヴァインの真骨頂はここまでなのか。


「ファイアストーム!」


 相手は自分の魔法が剣で防がれたことに動揺せず、広範囲を殲滅させる魔法を行使する。

 しかしその発生には魔力の流れがあり、発生も若干遅い。

 その隙をアインは見逃さず、相手の魔法を躱し相手へと走り抜けていく。


「ファイア」


 3年生が全身から炎を放出する。

 本物の炎ではなくちょっと熱い程度の魔法だし、そもそも本物だと自分が酸素吸えなくて死ぬからな。


 相手の決死の目くらましもアインには通用せず、敢え無く斬り倒される。


 さすがに会場がどよめく。

 1年生が勝利したからではない。

 魔法を斬ったことにだ。


 熟練の剣士ですらそう簡単に出来る事ではないことをたかだが15歳の少年が成しえたのだ。

 この年の対抗戦は荒れるぞ。

 誰かがそう呟いた。

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