第36話 レオス・ヴィダールは見世物になる

 寮が全壊して、生徒の1人が死亡、教員が4人死亡という大惨事が起きた学園は安全性が取れないということで、それぞれの実家へと生徒たちは帰っていった。


 俺はというと、未だにムルムルとの融合は解けていない。

 ムルムルはそのうち解けるって言ったけどっていつだよ!


 そんな俺は悪魔との融合しているということで、全身は黒い皮膚に覆われている。

 青く緑色だった髪と目はそのままに、体格も変わっていない。

 そして身体の大事な部分、主に股間や胸にはそれをを守る毛がついている。

 特に乳首や排泄機能の付いたものは存在しないが、悪魔も見た目は大事なのだろう。


 そして腕や足や首に濃い体毛が生えている。

 頭には目だけになったムルムルがくっ付いている。


 この体になってから、飲食はするが別段腹がすくこともないし、生理的欲求もない。

 根本的に体が作り替わっているようだ。

 本当にこれ元に戻るんだよな……?


 あと悪魔に生殖能力ないから人間で言う大事な部分は別に隠さなくても問題はないけど、気分的に全裸っていやだろ?

 だから制服はちゃんと着ている。

 真っ黒い皮膚をした学生って日焼けってレベルを超えている。




 そして今俺たちはアインの故郷である辺境伯領に向かっている。

 本当は自分の領地に帰りたかったが、今の状況を説明したりするのも大変だし、なにより俺の領地には悪魔教の手先が近くにいるかもしれない。

 今の俺はあの全能感を失った1人の人間でしかない。

 見た目は違うけど。

 それに悪魔教のやつらは悪魔に対する対抗手段を結構持ってそうだし。

 闇魔法も封じられたこともあったので、身辺警護は安全なところの方がいい。


 ベリトと戦っていた時のような万能感は消えている。

 あの戦いでムルムルの力を使い果たしたのか、普通の人間へと戻っている。


 だったら変身も解けろ!


 まあ文句を言っても仕方がない。

 これのおかげで皆が助かったんだから。


 そんな俺の周りはいま騒がしいことになっている。


「それにしても、すごい格好だよねレオス君」


「もはやレオスなのかわかんないや」


「ぷくく、記念に額縁に飾っておきたいですわ~」


「僕の迅速な対応忘れないでよね」


 なんでか知らんがあの時いた全員がアインと共に同じ馬車に乗っている。


 理由は面白そうだから。


 お前ら……あんな事件があったばっかりなのにいい度胸してるぜ。

 いや、あんな事件があったから、か。

 実際にあの場で体験したことは強烈だった。

 簡単に人は死ぬし、圧倒的な敵は現れるし、今まで会ったことの中で最大級の事件だろう。

 親は心配するだろうが、実際にいた人間にしか分からないこともある。

 そんな寂しさを紛らわせる旅路だ。

 文句は言うまい。


「でもレオスこのすべすべした体毛すごいね」


「触るな!」


「え~でもいずれなくなるんでしょ! 今のうちに触っておかないと」


「それもそうだな、なあレオス君」


「わたくしも~」


「僕も~」


「や、やめろ~!」


 皆に触られる馬車の中で、俺は純潔だけは守った。



「人間は馬鹿ばっかなのです」


 ほら! 悪魔に言われてるぞ!




 シクシク、俺は全身を撫でまわされたあと、ツヴァイン領についた。

 手紙で俺の容姿についての説明はあったけど、兵士の人にいきなり剣を向けられた時はびっくりした。

 まあ当然だよな、怪しいし俺。

 そこはまあアインの顔のおかげで何のこともなく通ることは出来たけど、城内に入ると皆の奇異の目が痛いのなんのって。


「みんなやっつけるのですか」


「なに物騒なこと言ってるんだムルムル、人間とは仲良くしないとだーめ」


「むー」


 ムルムルは結局悪魔なのか、いや悪魔なんだけど、全然悪魔っぽくない。

 もっとこう享楽的な部分がなくて、本当にペットみたいな感じだ。

 今は一体化してるし余計にそんな感じがする。


「それじゃあ僕は父上に挨拶してくるよ、皆はここでくつろいでいて」


 くつろいでいてと言われてもなあ。

 正直やることはない。

 辺境伯だが、やはり質素というか武骨な感じ。

 豪華な装飾品もないし、まあソファはいい感じなんだけど。


 そんな中でレインが話を切り出す。


「レオス、あの時は力になれなくてごめん。いきなり先生の首が飛んで訳がわからなくなっちゃって」


 深刻そうな顔で謝るレイン。

 そんな顔するなよ、お前はあんな場面に遭遇すること自体間違っているんだから。


 本当なら俺と大してかかわることもなく、勝手にこの世から消えた婚約者がいたなあってくらいですんでたはずなのに。

 俺が変わってしまったばかりにそんな心労をかけさせてしまった。


「あんなの見たらああなるのは普通だぞ、エレオノーラだって叫んでたし」


「それは叫びますわよ、ああいうとき、男の子は勇敢ですごいですわね……」


「それ僕も入ってる?」


 ああ、ちゃんとリボーンの事も入っているさ。

 大事な弟だろ? ……入ってるよな?


「あの場はそれでよかったんだよ、あの化け物に対抗するには俺とアインしかいなかったわけだし、それに結局俺たちの力だけではどうしようもなかった。ムルムルを召喚出来たからこそ助かったわけだし」


「感謝するといいのです」むふー


 実際ムルムル以外の悪魔が出てきてベリトに勝てたかどうかは分からない。

 そもそも俺の言うことを聞いたかどうかすら分からない。

 原作のレオスもグラシャラボラス? を召喚してたけどあっさり帰られてたし。


 そういう意味では悪魔召喚によって呼べる悪魔は召喚者に寄るんだなあって思った。

 強い意志と、守りたいもの、か。

 まるで守護契約のような悪魔召喚の条件も今なら納得できる。


 俺たちの中でどんよりとした空気の中が流れる中で、バーンと扉が開いた。


「おお、君達がアインの友達か! そこにいるのが噂のレオス君かな? 君のことは剣術大会の時から見ているよ」


 アインよりも更に大柄な、その背丈は2メートルはあるであろう巨躯な男性、アインの父親と思わしき人間が、重苦しい空気を吹き飛ばすように部屋に入ってきた。


「お初目にかかります、レオス・ヴィダールと申します。ドライン・ツヴァイン辺境伯様でよろしいでしょうか?」


「そうだが、固い、固いなぁ、我が息子もそうだがもっと砕けてくれていいんだぞ」


「は、はあ」


 ドラインは近所のおっさんのような感じで俺たちに接してくる。

 その態度に困惑しつつも、皆もそれぞれ挨拶を終える。


「ふむ、しかし生憎ここでは娯楽というものが少なくてな、そうだな! 皆で剣の稽古をしよう! 剣は好きだろう?」


 ドラインの突然の提案に少し固まる俺たち。

 しかし剣が好きかと言われれば俺たちの答えは決まっている。


『もちろん!』


 俺たちは同時に返答した。


「……わたくしも少し剣を習ってみますわ~」


 今回のことでエレオノーラも思うところがあったのだろう。

 その眼差しはしっかりとした強い意志が感じられるものだった。

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