第24話 レオス・ヴィダールは忠告する
入学してしばらくして、特になんということもない日々を送っていた。
「レオス! 学食いこう!」
レインがAクラスからやって来て俺を昼ごはんへと誘う。
「ああ、いいよ」
アインとかも誘おうかと思ったが、エレオノーラがぐいぐいと誘っているのを見てやめておいた。
当然リボーンもご一緒だ。
ご愁傷様。
「今日の日替わりランチはなにかな~」
レインが腹を撫でながら学食のご飯を想像している。
食い意地を張っているわけではないが、大食漢なため二人前頼むのが当たり前になっている。
それでよく太らないのかと思う。
「ふさけんじゃねえ!」
二人で学食に向かって歩いていると何やら言い争う声が聞こえてきた。
レインと顔を合わせると、その声のする方に向かう。
そこには貴族と思われる男と、それを囲む男たちがいた。
「お前みたいなやつがAクラスとか品位が下がるんだよ」
「不正でもしたか? お前はBクラスだろ?」
「Bクラスを馬鹿にするような発言はやめろ。確かに成績順だが同じ生徒だろうが!」
「ああそうだったな、お前のところの平民がいるんだっけな」
「どうりで……くくく」
「あいつは関係ないだろ! 何をする気だ!」
「いや別に、すこーしお灸を据えてやろうかなって」
「てめえ!」
「おっと、危ない。これは正当防衛だからな」
囲まれていた男が周りの男たちにタコ殴りにされる。
さすがに見ていられなかったので助太刀に行こうと走り出したときにはレインがドロップキックを決めた後だった。
「集団で寄ってたかって! それでも貴族?!」
「そうだぞー、先生呼んじゃうぞー」
「ちっ、おい、いくぞ」
俺の言葉が効いたのか、捨て台詞にを吐いて男たちは去っていった。
「ぺっ……余計なことを」
「おいおい、助けてもらっておいてその態度は、……お前はクーゾか?」
「あ? ちっレオスかよ」
「悪いか?レインもいるぞ」
「そいつは知らねえな、まあ助かったと言っておくよ」
そういってクーゾはヨロヨロとその場を去っていった。
「なんだったんだろうね?」
「さあ? 良くないことが起きたのだけは確かだ」
俺たちはそのまま学食に行き昼ごはんを食べた。
レインは日替わりランチの両方を頼んでご満悦だった。
俺は一人前で充分だよ?
午後の授業は全クラス合同で行われた。
剣術と魔法の実技だ。
これは充分な教育を受けられなかったが、才能のある平民を重用するために組まれたカリキュラムだ。
基本的に平民は魔法を使えない。
ただたまに魔法を使えるものが生まれ、国はその存在を見つけ次第確保している。
他国への流出や裏稼業に使われては問題になるからだ。
周りを見てみると、やはり貴族と平民では大きな隔たりを感じる。
一応建前では生徒はみな平等なのだが、選民意識の高い貴族などはそれをよしとしないし、平民も恐れ多くて近づきずらい。
国の小さな縮図を見せられているようで嫌になる。
先程クーゾを囲っていた貴族がニヤニヤとある方向を見ている。
恐らくあれがさっきの会話で出てきた平民の子だろう。
可愛らしい栗色の髪をした女の子だ。
クーゾと同じ領地らしいけどどんな面識があるのだろうか。
それは置いておいて、授業が始まった。
まず剣術から。
これは成績順でやるんだけど、一位のアインについていける先生がまずいない。
なので必然的に俺かリボーンが相手をすることになる。
今日はリボーンに譲るとして、俺は魔術の授業へと足を向けた。
こちらはまだ魔法に慣れていない平民の子たちが的に向かって魔法を発動させるとことから。
魔力を感じることは出来ているらしいので、あとは放出させることが出来るかということらしい。
それぞれの属性を確認して、各々が思ったように詠唱する。
「――ファイアーボール!」
その手の平の前に火がともったかと思うと、よろよろと火が前に飛んでいき、そのまま消えていった。
儚い花火のようだった。
俺は簡単に出来たけど、意外と魔法を飛ばすのは難しいことらしい。
イメージの問題か、魔力量の問題か、分からないけど中々上手くいっていないらしい。
そこに先程のニヤニヤしていた貴族の一人がなにやら良からぬことをしようとしているのが目についた。
大方クーゾの知り合いの子にちょっかいをかけるのだろう。
俺はそれを未然に防ぐ為に最小威力で魔法を放つ。
「ダークバレット」
俺の指先から放たれた闇の魔法は相手の頭に当たり、相手はその場に倒れる。
水属性だったのか、彼が展開しようとしていた魔法はそのまま制御を失い雨が降ったかのように全身に水がかかっていた。
「大丈夫ですか?」
俺は心配したように装って声をかける。
「あまりそういうことはしないほうがいいですよ、貴方のことは詳しく知りませんけど」
俺は忠告と共に殺気を放つ。
貴族の位としては俺は下の方だが、ここではあくまで平等な生徒同士だ。
多少のやんちゃは許されるだろう。
そう納得させて踵を返し剣術の模擬戦に戻っていった。
アインとリボーンの試合はまだ続いており、俺は頑張れーと横から応援していた。
「レオス! 空いてるなら試合しよ」
レインが俺に声をかけてくる。
そうだな、ちょうど空いてるしここ数日相手してなかったしいいな。
俺は木剣を手に取り、レインと距離を取って試合を始める。
レインはいきなり飛び掛かってこない。
さすがに毎回芸のないことだと学んでいる。
その代わり一直線に俺に向かってくるように見せて左右にフェイントを入れてくる。
俺は鍛えた動体視力を使い、それを迎え撃つ準備をする。
まあだいたいレインは脳筋だから。
「まあ左だよね」
相手の利き手側からの攻めを問題なく受け止める。
「まだまだああああ」
両の手で捕まれた木剣にさらに力を込めて防御する俺を追い込んでいく。
真正面から受け止めるのに、俺の力は充分になっていた。
5年前ならいざ知らず、俺はもう15歳だ。
体も大きくなったし、魔力も随分増えた。
レインも強いが、俺はもう簡単にレインには負けないようになっていた。
「甘い!」
レインが全力で放ってきた攻撃を俺は弾き返す。
そのまま返すのではなく、剣の鍔まで剣先を滑らし手の根元から打ち返す。
その差はそのまま俺とレインの差だ。
それでも諦めない。
彼女の目はいつだって煌めいている。
それは初めて剣を交えた時から変わっていない。
楽しむ、それが根底にあるからこそ彼女は強いのだ。
まあ負けてはあげないけど。
俺は数回打ちあい、何度か攻撃を当て試合に勝利した。
「また負けたー、レオスどんどん強くなるねー」
「伊達に最強目指してないからな」
寝ころぶレインの手を掴み、起こす。
そこに大きな爆発音が木霊する。
「エレオノーラさん! 加減をしてもらわないと困ります!」
「ごめんなさいですわ~」
平民用の簡素な的に彼女のホーリ―アローがぶっ刺さっていた。
これだから脳筋聖女(仮)は。
「相変わらずすごいね」
「ああ、ほんとすごいよ」
俺は彼女の聖女計画が頓挫するかもなあなんて思った。
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