第42話 レオス・ヴィダールとカモールのボス戦

「カモール!」


「レオス様、申し訳ありません」


 俺とカモールはお互いの安否を確認する。


「そんなことはいいから、怪我は?」


「今のところは何も、何かに吸い寄せられたようで魔物も見当たりません」


 カモールの後を追ってボス部屋へと入った俺は辺りを見渡した。部屋はドーム状になっており、周りの壁は洞窟と同じ岩壁で出来ている。

 魔物の姿は見えない。


「ん、あれはなんだ」


 俺は扉から反対側にある窪みの中にある台座に乗った光る球体が目に入った。ダンジョンならあれがコアじゃないか? あれを壊せばこの厄介なダンジョンも消え去るだろう。


「ボスがいないのは不思議だけど、サクッと攻略出来るならそれに越したことはない。カモールはそこで待機してて」


 カモールの返事も待たずに俺は駆け出す。壊してしまえばこちらの勝ちだ。俺は勝利を確信しコアとの距離を縮めていく。

 そして剣を振り上げ球体を、コアを破壊して終わり――のはずだった。


 ガキンと何か不可視の壁に弾かれたように剣はコアを破壊出来ずに手前に戻ってきた。防御機能付きかよ、ってことは――


 ドシンと部屋の中央に音が響き渡る。俺は振り返りたくなかったが、意を決して体を後ろへと回す。

 そこには魔物ではなく、全身を鎧で纏い大きなバスターソードを持ち、霊体のようなもやが周りにまとわりついた何かが出現していた。


「カモール!」


「レオス様!」


 お互いが正反対の場所にいて、このボスがどちらに攻撃を仕掛けてくるか分からない。お互いの安否を確認して臨戦態勢を取る。

 鎧を着たボスは、ゆっくりとこちらに振り返った。


「俺かよ……」


 無言のボスはそのまま俺の方にダッシュしてくる。こいつを倒せば終わりだ。出し惜しみはしてられないぜ。


「ダークバインド」

「グラビティ」


 俺の拘束闇魔法をお見舞いする。しかしダークバインドは不発に終わる。よく見るとボスには影がない。そんなのアリかよ。

 グラビティも効果が薄いのか、あまり気にせずこちらに向かってくる。


「くっ、ダークバレット!」


 俺は相手の体勢を崩そうとダークバレットを連打する。しかし相手は意に介した様子はない。


「魔法防御が高いって感じか? いいぜ、どうせ闇魔法の威力は低いんだ」


 俺は剣を構え相手の攻撃に備える。ブラックホールも使えない、最悪カモールが巻き込まれるし、俺も巻き込まれる。

 ボス鎧は真っすぐに両手に持った剣を振り上げて俺に攻撃してくる。まずは初撃を正面から受け止める。剣の腹を左手で支えて振り下ろされたバスターソードを横に受け流しつつ守る。


(重い!)


 想定以上に威力のある攻撃に俺は危機感を覚える。このまま守勢に回っていてはいずれ負ける。なにか打開策はないか。

 策を考えながらも体は動かし続ける。相手の攻撃を受け流し自身の左の地面に打ち下ろされた剣を持つ両腕に攻撃を仕掛ける。しかし相手の鎧は固くわずかに傷がついただけに終わった。


「ウィンドカッター」


 そこにカモールの風魔法が炸裂する。首辺りを狙った攻撃は相手の鎧を剥がし、頭部を守っていた兜が取れる。鎧の中が見える。


「うっ」


 ボス鎧の正体はアンデット。恐らくスケルトン系だろう。骨だけで表情の無いその顔はゆっくりと兜を地面から掬いあげ、再度頭に嵌め直す。

 しかし中身が分かったのは収穫だ。アンデットなら疲れもない。闇魔法も多分威力が軽減される。……有利な条件どこ? カモールの風魔法に期待するか。


「カモール、どれくらい魔力に余裕ある?」


「4~5割といったところでしょうか」


「充分だ、援護を頼む。俺は剣で応戦する」


 中身がスケルトンでもやることは変わらない。剣で戦いカモールの風魔法で攻撃する。その連携で倒し切る。倒せるはずだ。


 俺はムルムルを叩き起こす。


「おい、起きろムルムル。敵だぞ。融合は出来そうか?」


「ん~、おはようなのです。融合は……まだ足りないのです」


 一番確実なのがここで悪魔融合に頼ることだったんだが、出来ないものは仕方がない。


「ならサポートよろしく」


「わかったのです」むふー


 俺の頭にあるムルムルの目がカッと開くと、周りの動きが少しゆっくりに見えた。実際に周りが遅くなったのではない。俺の体感時間がゆっくりになっただけだ。これでボス鎧に対して先手が取れる。

 鎧を直接攻撃しても効果は薄い。ならどこを狙うか、関節だ。あと出来るなら兜も剥がしておきたい。


 俺は魔力循環で足に力を込めると、一瞬でボス鎧の間合いに入り込む。驚いたであろう相手が俺に攻撃を繰り出すのをゆっくりとした体感時間で見極める。防御に回るだけでは二流、一流は反撃をスムーズに行うために最小限の動きで相手の攻撃を見切り攻撃に繋げる。

 俺は横薙ぎに振られる相手の両手剣を少し後ろに下がることで躱し、避ける瞬間に相手の手首の隙間に攻撃を加える。


 関節が外れたのか、相手は剣を持っていた片手を落とす。魔力で動いていようが、関節ははまっていないと動かないらしい。俺は続けざまに相手の右ひじに攻撃を加え、同じく捻る様に関節を外す。

 完全に使い物にならなくなった右腕を必死に嵌めようとするボス鎧の兜を俺は下からかちあげるように剣を振り上げる。


 カンという小気味よい音を出し、相手の兜が転々とその場に転がる。


「ウィンドボール」


 俺が叫ぶ前にカモールの魔法がスケルトンの頭に直撃する。

 よろめいた相手に更に俺が脳天をかち割る勢いで剣を打ち込む。


「死ねやおらあああ!」


 もう死んでるからおかしいか? でもそれくらいの勢いが必要でしょ。

 そして相手の頭はぱっくりと割れて、顔面が壊れていく。

 スケルトンはその場にバターンと倒れる。しかし残った左腕は未だに動いてる。頭を割っても死なない?


「カモール、鎧剥ぐの手伝って」


 俺は中にコアみたいなものがあると思い、鎧を剥いでいく。反撃されると危険なのでバスターソードは相手の届かない位置に蹴り飛ばしておく。

 案の定鎧を剥いだスケルトンの胸の付近に赤く光る石があった。それを俺がさくっと壊すと、スケルトンは灰のように消えていった。残ったのは鎧と魔石だけだ。


「これで攻略完了かな?」


「恐らくは……。後はあの不思議な球体ですな」


 まあ多分コアだろう。あれを壊してダンジョンクリア! 最後はボスの鎧と魔石を回収してとんずらだ。

 俺は窪みのある台座に近づき、今度は見えない壁がないか確認する。俺が手を伸ばすと先程あった反発はなく、するりと窪みの中に手が入っていった。


「後はこれを壊すだけ、だ!」


 俺は球体を取り出し、地面に叩きつける。すると俺たちの耳にアナウンスが流れ込んできた。


『迷宮のコアの破壊を確認。すべての魔物の出現を停止。迷宮は消滅します。早めの退去を推奨します』


 ご丁寧に事後処理までしてくれるとは、これを作ったやつは親切だな。誰が作ってんだろうか。まあ深く考えてもしょうがない。だと割り切って置いた方が精神衛生上楽だ。


「じゃあカモール、鎧と魔石を回収して撤収だ」


「畏まりました」


 こうして俺の初めてのダンジョン攻略は終わった。案外あっけなかったなと思った。

 後日各地にダンジョンが出現すると聞くまでは。

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