第4話 レオス・ヴィダールの開拓作業

 カモールとの訓練と並行して俺は闇魔法に関する書物の情報を集めようとした。

 さすがに一人でやるには無理があるので、父親に相談することにした。


 俺は父親がいる部屋をノックする。


「父さん、レオスです」


「おお、そうか入りなさい」


 子供には少し重いであろう扉を魔力を込めた体で開ける。

 うん訓練にもなるし、毎日使っていこう。

 父親は机の書物と睨めっこをしている。

 そんな父親に俺は声を掛ける。


「実は相談があってきたのですが」


「なんだ? なんでも叶えてやるぞ」


「俺の魔法の属性が闇だったので、闇魔法に関する書物を集めてもらいたいのですが」


「なんと、闇魔法か……、情報を集めるのは構わないが、ちと予算が足りんな。お前に送る美術品もあるしな」


 俺に送る?

 もしかして屋敷中に飾ってある悪趣味なものって俺の要望で飾られてるのか?

 いやいらないし、貴重な金をそんなことに使うのはやめてくれ。


「父さん、俺もうあの手の美術品はいらないです。なんなら今家にあるものを売って資金にしてもいいです。とにかく闇魔法の書物が欲しいのです」


「そうか? しかしこれ以上領民から税を取るのにも限界があるしな」


 あれ? もしかしなくてもここの領地って腐ってる?

 息子可愛さに領民痛みつけて私腹を肥やしてる?

 ちょっとそれは見逃せないかも。

 俺の書物も欲しいのは事実だけど、それは今ある美術品を売った金で買おうとしよう。


「領民は宝ですよ、これ以上の税は民が逃げてしまいます。それよりも税を下げもっと多くの領民に来てもらいましょう。それだけ魅力的な領にすればよいのです」


 カモールから聞いた話では、この領は広さだけはある未開拓の地が多いらしい。

 最近になって下賜された膨大な土地がある。

 つまり大きさに対して人口が少ないのだ。

 それなら開拓村を多く作り、減税して人を集めたほうがより多くの金になる。


 そのようなことを子供ながらに説明し、納得してもらえるかどうかは賭けだった。

 父親は黙って俺の話を聞きながら、突然涙を流した。


「お前がそんなに熱心に領について考えていたとは、父さんは嬉しいぞ」


 俺よりお前がもっと考えろよ。

 どう考えても8才の子供に教えられるようなことじゃないだろ。

 俺の父親は俺を溺愛しているだけのアホか?

 これは率先して整備していかないといけないな。


「近日中にお触れを出しましょう。減税と開拓の両方、他の領地からの移民や他国の難民も受け入れましょう。とにかく数は正義です」


「そうだな、なるべく早く人を集めよう。それで書物の方はどうするのだ?」


「今ある美術品などは全部いらないので、それを売り払って資金にします。とりあえずそれだけで充分です。闇魔法の書物は多いとは思いませんので」


 それにこの全体的に悪趣味な服やその他の家具とかも最終的には買い換えたい。

 どうやったらこんな変な感性が育ったのだろうか。


 父親に直談判をしてからカモールとの訓練に戻った。

 基礎トレーニングと剣術、魔法と一通りの事が出来るようになるのに一ヶ月くらいかかった。


 その間に父親が出した領民への減税、開拓民の募集が始まった。

 感触はいいだろう。

 税なんて減って喜ぶ以外ない。

 開拓は正直未知数だ。

 そんなことしたことないし、実際に人が集まるのかやってみないと分からない。


 俺はそんな状況を自分の目で見ようと開拓の視察へといくことにした。


 執事のカモールを護衛につけて、一番近くの未開の地へと赴く。

 危険だからと父親には止められたが、大丈夫、カモールもいるしと無理矢理説得した。


「ほんとうに何にもないね」


「そうですね、元々他国から賠償として譲り受けた土地、この程度の土地しか受け取ることのできなかった外交の責任かと」


 おいおい国批判しちゃってるけどいいのか?

 まあこの国がどんな国かも分かってないからいいけど。

 子供相手だから不敬罪には問われないだろってとこか。


 しばらく馬車に揺られていると、開拓村と思わしき場所が見えてきた。


「あれかな?」


 窓から見える景色を指差す。

 簡素な家に畑、そして伐採抜根をしている。

 その作業は大変そうだ。


 俺たちの馬車に気づいたのか、村の取りまとめのような人がやってくる。


「これは貴族様の馬車でよろしいですか? 私はこの開拓村の代表をしているものですが」


「ああ、俺がレオス・ヴィダール、この領主の息子だ。今日は開拓の状況を見に来た」


 突然の貴族の訪問に慌てる代表の人。

 まあ完全に約束なしノーアポイントメントで来てるわけだからな。

 しかもちょっと偉そう、貴族が平民に対してはこれでいいというが、やはり慣れない。

 転生前のへこへことした生き方を変えるのには時間が掛かりそうだ。


 見たところ伐採は順調のようだ。

 森林と思わしき場所の木はあらかた片付いている。

 問題は抜根だ。

 地に根を張った木の根元を掘り返すのは、手作業では骨が折れるだろう。


「カモール、ちょっと手伝ってくる」


「畏まりました、私もお供しましょう」


 カモールが馬車から先に降り、俺に手を差し伸べる。

 それを掴んでゆっくりと馬車から降りる。


「うん、これならアレが使えそうだな」


 俺は伐採をしている人たちの近くに近寄り、抜根の作業をしている人をどかす。


「どいてくれ」


「ああ? なんだ坊主、手伝いか? そのやわな腕じゃとても手伝いにならないぜ」


「まあ、とりあえず見とけよ」


 俺はこの一ヶ月で知りえた知識を用いて作った魔法を発動する。

 俺は手の平を前に向けて集中する。


「ブラックホール」


 木の幹の上に黒い点が出来る。

 そこにさらに力を込めて、下から上に引っ張るように魔力を流す。

 すると埋まっていた木が吸い寄せられるように、持ちあがっていく。

 めきめきと地面を割っていく木に、周りは静かになった。


 そして黒い点に木が当たったかと思うと、吸い込まれるように木が入っていった。


「よし、成功だ」


 俺は自分の魔法の成功を見届けると、少し息を荒くして両手を膝に置いた。

 この魔法、燃費が悪い上に引力の指定も行わなければならず、戦闘には現状使うことが出来ない。

 相手が悠長に待っていてくれるなら別だが。


 そして引き込まれた木をブラックホールの中からぽいっと取り出す。

 ブラックホールと名付けたが、別に何もかも吸い取り破壊するような性能ではなく、闇魔法を用いた別空間に移動させるだけなのだ。


 使い方によっては相手の動きを制限出来るだろうけど、やっぱ補助的な使い方になるだろう。


「これなら、魔力を使ってやった方が楽かな」


 俺は残りの木の数を見て、自分の体の魔力を循環させる。

 一ヶ月だけだが、随分と上達したと勝手に思っている。


 俺は呆けている領民のスコップを拝借して、木の根元を一心不乱に掘る。

 掘る掘る掘る。


 途中で「これスコップにも魔力流したらどうなるんだろう」って思って流してみたら、体の一部のように扱え、掘る力も軽くなった。


「なるほど、これで剣術の応用が効くわけか」


 魔法という便利なものがあるのに何故剣術が同等に重要視されているか、それは魔力による強化に他ならない。

 少し考えれば分かることだし、カモールも教えてくれてもいいのに。


 そんなことを考えながら掘り進んでいくと、木の根が見えてきた。


「これくらいならいけるだろ」


 俺は木の幹を掴み、力任せに引っこ抜く。


「おらあああ」


 ベキベキという音と、地面が割れて土埃が舞う中で俺は確かに抜根に成功した。

 この方が魔力の消費量も少ないし、現実的かな。


 俺が一人で物々と考えていると、さきほど作業していた男が話しかけてきた。


「貴族様でいらっしゃいましたか、先程は無礼な発言、申し訳ありません」


 ブルブルと震える領民に俺は静かに答える。


「なに、子供を見たら誰でもそう思うだろう、今回のことは聞かなったことにする」


 物見遊山で来たガキが何しに来たって思うのは当然のことだ。

 そんな当たり前のことでいちいち目くじらを立ててたら領民が逃げてくし、何より俺は気にしていない。


 そんなことより、これはいいトレーニングにもなるな。

 最近はようやくカモールから剣術を教わるようにはなったけど、はっきり言ってカモールが強すぎてどれだけ成長できるのか不安になった。


 それならここで基礎トレーニングでもしていた方がいくらかマシだろう。


「なあ、カモール、他の開拓も回りたいんだけど、都合つくかな」


「少々お待ちください。基本的にレオス様は自由なので問題ありませんが、領館から離れたところもございます。全てお回りになられますか?」


「当然だろ? 全部手伝って少しでも早く安定した生活を送ってもらわないと」


 畏まりましたとカモールが答える。


 この世界の馬車は割りといいもののようで、揺れも少なく快適に過ごせる。

 これなら魔法の本を読みながらも出来るし、空いた時間で剣術の訓練も出来る。


 一石三鳥の素晴らしい作戦だと思わないか?


 その日は伐採の終わった残りの木の幹をすべて抜根してから帰った。

 魔力が底をつきそうなぎりぎりだった。

 これはいい訓練になりそうだと改めて思った。

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