第29話 レオス・ヴィダールと対抗戦③
「レオス! どうだった?」
「ああ、完膚なきまでにぶっ倒してやったぞ」
「さすがレオス!」
レインが観客席に戻ってきた俺に声をかけ抱き着いてくる。
こういうところはいつくつになっても変わらない。
まあたまには嫌がらずに抱きとめてやるか。
「レインもよくやったよ」
腰に手を回して頭をポンポンと叩いてやる。
いつもならえへへと笑う彼女が見れるはずだ。
しかしいつまで経っても反応がない。
どうかしたのかと思って顔を下にやると、同じようにレインも顔を下にしている。
「レイン? どうした?」
俺の声掛けにびっくりしたのか、少し赤くなった顔で返答する。
「だ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ。私ちょっとトイレ行ってくるね」
「ああ、気をつけてな」
まだ頭に傷でもあったのだろうか、悪いことをしてしまったな。
俺は席に座り次の試合を待った。
「なかなかみせつけますわね~」
「エレオノーラか、いいのか? 次は俺とだが?」
「攻撃こそ最大の防御ですわ~、近寄らせなければいいだけのことですわ~」
こいつがいうと本当にそうだから笑えない。
今日の大会もその圧倒的な火力で敵を殲滅している。
「ほら愛しのアイン様の試合が始まるぞ」
「あらほんとう……ちょっと! いつ愛しのアイン様になってるのですか!?」
「見てりゃバレバレだろ」
「誰にもバレていませんでしたのに」
あれか? こいつの周りにはなんか保護でも掛かってんのか?
明らかにラブラブ光線出してただろ。
アインもアインで一切興味なさそうだし、こいつら主人公だよな?
こんな感じだったっけ?
記憶があいまいになってきたわ。
そんなことを考えているとアインと優勝候補のエリアル・クローゾンとの試合が始まった。
「ウィンドカッター」
初手、様子見に魔法を飛ばすエリアル。
それを分かり切ってましたと言わんばかりに斬り伏せるアイン。
今までの試合でもすべての魔法を斬って見せた。
その集中力は計り知れない。
まさに鬼才。
剣の申し子だ。
しかし相手も負けていない。
「ウィンドボール」
エリアルはいくつものウィンドボールを展開し、その速度や方向性を制御し、ランダムに攻撃してくる。
魔力制御に関してはかなりのものだろう。
さすがにすべては受けきれなかったのか、いくつかの魔法を回避しながらも直撃しそうな魔法は斬り捨てていくアイン。
「今!」
アインが駆け出す。
相手の詠唱の隙を狙ったのだろう。
しかしエリアルの顔は笑っていた。
「ウィンドトルネード!」
エリアルの前に風の竜巻が発生し、それが円状に出来た舞台の全ての端から中央に向かって進んでくる。
こちらから中の様子は見えない。
しかしアインなら、どうにかしてみせる。
そう祈った。
すると中央に集まる様に消えた竜巻のそばで剣で打ちあう音が聞こえた。
アインとエリアルだ。
エリアルは杖を基本的な武器としながらも剣を帯刀する二刀流だ。
しかし剣術はアインに遠く及ばない。
勝ったな、俺が安心していると、アインが吹き飛ばされる。
「何が起きた!?」
俺は身を乗り出し、戦況を見極める。
アインは先程の竜巻を無理矢理突破したのだろう、全身に裂傷が見受けられる。
ではなにが、それはエリアルの格好から察せられた。
「蹴りか……」
杖、剣ときて体術まで。
さすがは優勝候補と言ったところか。
しかもただの蹴りではない。
風魔法を付与した勢いのある蹴りだ。
さすがに面食らったのかアインが立ち上がるのが遅い。
俺は思わず声を上げた。
「なにやってんだアイン! 優勝するんだろうが!」
大音量で湧く歓声の中で俺の言葉が届いたのかは分からない。
それでも剣を杖代わりにして立ち上がる姿の戦意は十分だった。
アインが駆け出す。
「エアカッター」
ウィンドカッターよりもより大きな風刃がアインを襲う。
これも剣で斬って見せようとする。
しかしもう……。
剣は魔法に弾かれ、そのまま魔法のと直撃をアインは受けた。
立ち上がれないアインを前に審判が勝者を告げる。
決勝戦の相手はエリアルとなった。
「たはは、レオス君ごめん、決勝戦は頼んだよ」
「ああ、任せろ」
「ちょっと、わたくしもいるんですわよ」
「俺に勝てたらな」
正直、負ける要素がない。
確かにエレオノーラの魔法は強力だし、正面からぶつかればただでは済まないだろう。
だから馬鹿正直に正面から戦う必要なんてないだろう?
近寄って剣術に持ち込めば終わりだ。
むしろこれ以上手の内は晒したくない。
「なあ、エレオノーラ、棄権してくんない?」
「なに堂々と聞いてますの!? いやにきまってますわ~」
「なら決勝でエリアルに勝つ自信あるの?」
「それは……でも勝負はやってみないとわかりませんわ」
まあ確かに、勝負に絶対はない。
ここで俺がエレオノーラに負けるのならその程度だったということだろう。
俺はにこやかな笑顔で彼女に宣言する。
「すまん、じゃあ正々堂々戦おうな」
「その笑顔のうさん臭さ半端ないですわ~」
バレたか。
いくばくかの休憩時間があり、エレオノーラとの準決勝は始まった。
初手から魔法を連発してくる彼女の攻撃をダークボールを使い減速させながら躱す。
「舞え! ホーリーダンス!」
そして前回の魔法大会と同様にいくつもの光の刃を俺に向けてくる。
その間に彼女はジャッジメントの魔力を練っているだろう。
自動で追尾してくる光の刃を小さく展開したダークウォールで防ぎつつ、エレオノーラへと接近する。
俺との距離が縮まっていることを確認しながらも彼女の目から闘志は消えていない。
なるほど、前とは違うのは自分だけじゃないってね。
なら俺も全力で相手してやるよ!
前言撤回、出し惜しみはなしだ。
「いくぜ!」
「ジャッジメント!」
エレオノーラの頭上に展開された、巨大な光の剣が俺に迫ってくる。
それを俺は全身の魔力を循環させ、剣に集中させる。
ガキン。
それは剣と剣がぶつかり合う音、俺はジャッジメントと正面から打ちあっている。
さすがに一刀両断とはいかなかったが、それでもこの魔法に対抗して見せている。
「これは、さすがに斬れないな」
あまりの質量にそう判断した俺は剣先をずらしジャッジメントの剣の腹を滑るように移動し、弾き飛ばす。
ジャッジメントが着弾した先は地面が抉れていた。
「これでお終いか?」
「ええ、終わりですわ~」
ばたりと仰向けに倒れるエレオノーラは心底満足したような顔をしていた。
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