第30話 エリアル・クローゾンの尊厳

 自慢じゃないが、僕は優秀だ。

 全てにおいてだ。

 剣術も、魔法も、体術も、勉学も、地位も、美貌も、全て兼ね備えている。


 幼いころから英才教育を受けてきたし、努力も怠っていないつもりだ。

 だから僕がうまくいかないなんてことはあってはならないのだ。


 王立学園の対抗戦で1年生ながらに優勝したのは久しぶりだったようだ。

 2年にあがっても僕はまた優勝した。3連覇を成し遂げた生徒は未だにいないらしい。

 きっと慢心や油断があって負けたのだろう。

 僕にはない、そのような弱い心などないのだ。


 しかし今年の1年生は活きがいいな。

 随分と残っている。結局準決勝まで残った4人のうち3人が1年生だ。

 全く不甲斐ない同級生ばかりで嫌になるね。


 準決勝の相手はアイン・ツヴァイン。

 辺境伯の子息だったか。

 あの剣術は見事なものだ。

 魔法を斬る。理論的には可能だが、それを実戦レベルに引き上げるとなると余程の才能と努力が必要だろう。


 しかし私の前では無力だということを教えてやろう。


「ウィンドカッター」


 僕は手始めに軽く魔法をぶつけてみる。

 案の定綺麗に切り裂いてくれる。

 ふむ、切り裂いた魔法は霧散するのか、面白いな。


 では次だ。


「ウィンドボール」


 僕はいくつものウィンドボールを展開させる。

 僕くらいになると手足のように扱うのはもちろん簡単だ。

 さすがに全方位からの攻撃となると対応もしずらいだろう。

 ほら、全てを斬ることは出来ない。

 ようはタイミングなんだよタイミング。


「今!」


 僕の詠唱の隙をつこうとは、中々いい判断ですね。

 しかし隙とは見せるもので、本当の隙は作るものなんですよ。


「ウィンドトルネード」


 彼の全方位から迫る風の竜巻。

 逃れる術はない。

 まああるとしたら……そう! 正解です!


 一番弱そうな竜巻に自ら飛び込み最低限の威力で耐える。

 魔力循環で表皮を守っているのもいいですね。

 しかしその手傷で僕の相手をしようと?


 確かに君の剣の腕は脅威だ。

 僕でも負けるかもしれない。

 いやだね、負けるという言葉は。


 いいだろう、剣については君に譲ろう。

 ただ勝利だけは渡さないよ、このように、ね!


 私は風魔法で威力を付けた蹴りを彼の腹にお見舞いする。

 意識外からの攻撃だったのでしょう。

 面白いように飛んでいきました。


 しかしまだ立ち上がりますか。

 その雄姿は素晴らしですが、そろそろいいですかね。


「エアカッター」


 僕の放つ魔法を斬ろうとする彼。

 しかしその剣は僕の魔法を両断すること敵わず、その直撃を受けて倒れてしまいました。


 審判が勝利の名を、僕の名を呼びます。

 ああなんて甘美か、勝利とは本当にいいものです。

 この美酒に酔うためならどんな手に染めてもいいかもしれません。



 次の試合は僕の決勝の相手を決めます。


 一人はエレオノーラ・ドルッセン。聖魔法の使い手で魔法偏重です。

 相手にするならこちらの方が簡単そうですね。


 もう一人はレオス・ヴィダールですか……。闇魔法は知らないことが多く、あまり相手をしたいとは思いませんね。願わくば負けてくれるといいのですが。

 彼も剣術を納めているとのこと、先程の僕の戦いを見ているなら体術も織り込み済みでしょう、手を考えなくてはなりませんね



 なかなか見ごたえのある試合でしたね。

 あのジャッジメントを弾くことには驚きましたが、別に剣で行う必要はないですから。

 僕は僕の魔法で対抗すればいい、そもそも彼女はもう負けた。

 次に上がってくるのはあの闇魔法のレオス。

 クソ、情報が少ないな。


 この僕が慢心していただと?

 いいえ、決してそんなことはありません!

 この試合勝ってそれを証明して見せましょう。





「これより対抗戦決勝戦、エリアル・クローゾン対レオス・ヴィダールの試合を開始する。両者準備はいいな」


 僕が答えると彼も答える。


「大丈夫です」


「問題ないです」


「それでは構えて、始め!」


 僕達はそれぞれ剣と杖を構える。

 意外にも先に攻撃してきたの彼の方だった。


「ダークアロー」


「ウィンドアロー」


 この場で威力の劣る闇魔法での攻撃?

 決勝でそのような愚を冒すようには見えなかったが?


 その心配は的中する。

 僕の放ったウィンドアローは相手の魔法を潰して攻撃するはずが、相殺すらできずにこちらに向かってくる。


「ウィ、ウィンドボール!」


 咄嗟に放った魔法で直撃は免れましたが、何故このようなことが起こった?

 魔力量は同じなはず、装備か?

 僕は相手の装備を見定める。


 ブレスレットに、剣に魔石……?

 よく分からないがあれらが関係しているに違いない。

 これはただの魔法と考えるのは辞めましょう。


「ダークミスト」


 相手の詠唱が終わると辺りが闇に包まれます。

 消える直前に見えたあれは霧。

 恐らく闇の霧で視界を塞いでいるのでしょう。

 ならば。


「ウィンド」


 ぶわりと周りの空気が霧散します。

 それに伴って視界が鮮明になってきます。


 相手は、近い!

 咄嗟に杖でガードし難を脱します。


 このまま受け身に回るのはよくないですね。


「舞え! エアダンサー」


 僕は無数共思える空気の刃を周囲に展開し、攻防一体の構えを取ります。

 これで相手はおいそれと近づけないし、こちらは魔力を練ることが出来ます。

 次の魔法は何にしようかと考えているとそれは起こりました。


「ブラックホール」


 彼の前に小さな闇が存在したのを確認しました。

 するとそこに吸い寄せられるように風の刃が飲み込まれていきます。

 理解が出来ません。

 魔法を潰すならわかります。

 吸収する? 一体どうやって?


 あれは異常だ。

 私の中の警鐘がカンカンと鳴り響きます。


 魔法はだめだ。

 相手の得意分野で戦うのは得策ではありません。

 未知の技より既知です。


 剣術なら心得があります。


 私は腰に差した剣を抜き、レオスへと向かっていきます。

 そこにはちょうど私の魔法をすべて吸い終わった闇の球が佇んでいます。


 一瞬躊躇しましたが、ここまで来てしまえばもう変わりません。

 私は彼に斬りかかります。


「ダークバイント」

「グラビティ」


 彼が詠唱すると私の足元から絡めとるような触手と、上から圧力のようなものがかかりました。

 触手は剣で切り落としましたが、圧力はどうにもできずに、相手の攻撃を食らってしまいます。


 吹き飛ばされたことで圧力の範囲外に出たのか体が軽くなります。

 まだ充分戦える。


 僕に敗北は美しくない。


 全身の魔力を循環させ身体能力を底上げします。

 そして私は剣で斬りかかる振りをして、体を半回転させ回し蹴りを食らわせようとします。


「それ前世でも見たことあるわ」


 訳の分からないことを言う相手がその私の蹴りを受け止めて僕の体を回転させ、床に叩きつけます。

 何故今のを見切れる!? 誰にも見せていないはずなのに。


 私は驚愕と共に相手を見据えます。


「アインとは相性が悪かっただけでこんなもんか、ちょっとがっかりだな」


 明らかに僕を見下した態度!

 許せない許せない許せない!


 僕はなりふり構わず相手に斬りかかります。

 袈裟斬り、刺突、下段からの切り上げ、フェイント、横薙ぎ、すべてを防がれ僕の攻撃は止んでしまった。


「……まだやる? 魔法ならいい線いくと思うよ」


 僕を見下すな!僕を見下すな!僕を見下すな!


「ウィンドト「それはもういい」


「ダークニードル」


 彼の詠唱が終わると、彼の影から無数のとげが私に射出されます。

 薄れいく意識の中で彼の心底つまらなそうな目が頭から離れませんでした。

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