第11話 レオス・ヴィダールは善戦する

「両者構えて、始め!」


 審判のおじさんがそういうと俺は一気に左に駆け出した。

 どうやら集中していない相手のリボーン・ドルッセンはようやく俺の動きを捉える。

 そして右手に持った剣を左手に持ち替え袈裟斬りを行うのと同時に右手の拳を相手の顔面に叩きつける。


 相手は完全に油断していたであろう。

 俺から距離を取ったリボーンの顔は鳩が豆鉄砲を食らったように唖然としていた。


 何も剣が右手だけで使えなんてルールはないし、顔面を殴っても問題ない。

 禁止されているのは魔法の行使だけだ。


 俺もレインほどではないが魔力循環には自信がある。

 これもこつこつと努力した証だ。


「ふふふ、あははははははは」


 突然相手のリボーンが笑い声をあげる。

 俺は気が狂ったのかと思い、臨戦態勢を取る。


「いや、すまない。少し君を侮っていただけだ、お詫びしよう」


「そのまま一生侮ったままでいてくれていいですよ」


 これは本心だ。

 これ以上俺より強いやつを作るんじゃねえ!

 ただえさえレインにもアインにも勝てそうにないのに、その上お前までも俺の前に立ちふさがるというのか。


 そんなの認められるか!

 俺は2年前転生してから決めたのだ。

 最強になって平和に暮らすことを。


 ……最強になって平和に暮らすって無理じゃね?

 まあまあそういうのは強くなってからでいいか。


 リボーンはそれでも隙は見せない。

 状況を把握をしているときが唯一の隙ではあったが距離がある。


 俺の速度ではその距離を埋める間に対処されてしまう。


 考えろ、俺にあるのは相手が体術に対して無知な事のアドバンテージ、無知か?

 少なくとも剣術との合わせ技には対処できていない。


 そこを突く。


 俺は剣を地面と平行にして、刺突の構えでリボーンとの距離を詰めていく。

 相手は迷うだろ、フェイントか、右に左に振るか、それともそのまま突っ込んでくるか。

 その一瞬の迷いを使う。

 俺はそのまま突きを繰り出す。

 それを当然のように剣の腹で受け止められる。


 ここまでは想定内、そこから左手に持ち替え、半回転して横薙ぎに剣を振るう。

 防がれる。


 同時に足払いを仕掛ける。

 これにはやや遅れて反応して避けられる。

 しかし相手は宙に浮いている。


 そこに空いている右足で下から蹴り上げるように攻撃する。


 その足は相手の左のふくらはぎに直撃した。

 剣術の試合ということで靴は結構いい素材で出来ている。

 威力が足に充分伝わったのを感じる。


 それでも相手はすぐに体勢を立て直す。

 俺の攻撃など効いていないような素振りだ。


 いや、確実にダメージは入っている。

 諦めるな、いける! いけるんだ!


 こちらが起き上がろうとしていると、今度は相手から距離を詰めてくる。

 繰り出される攻撃はどれも綺麗で見惚れるほどだった。

 そりゃアインと熱戦を繰り広げるんだからこれくらいは当たり前か。


 それを必死に避け、剣で弾き、防御し、なんとか反撃の機会を窺う。


 その苛烈な攻撃はやむことを知らない。

 薄ら笑いを浮かべる相手の顔が怖い。

 これが本当に向けられる殺意というものだろうか。


 いやそれとは違う何か粘っこいものだ。

 執着? 憧憬? 分からない。

 ただ今まで向けられたことのない感情に恐怖を覚える。


 剣圧に押されて少し後ずさる。

 このまま続けていてもダメだ。

 

 俺は腕に魔力を集中させ、思いっきり相手の剣を弾く。

 すぐに手元に帰ってきてしまうであろう、その剣から遠ざかるように距離を取る。


「楽しいねえ、楽しい。そう思わないか? レオス君」


「全然、楽しく、ないですよ! こっちは、必死なんでね」


 未だに涼しい顔をしているリボーン、肩で息をしている俺とはすでに差が出てきている。


「まだまだ、楽しませてくれるんだろう」


 にやりと笑う相手に俺は苦笑するしかなかった。


 こいつってこんな戦闘狂みたいなキャラだったのか。

 覚えてないけどこんだけ変な奴なら記憶の片隅にでもあると思うんだが。


「ご期待に、沿えるよう、頑張らせてもらいますよ」


 そう言って今度は剣を交互に右手、左手にと持ち替える。

 どっちでいくのか、最後まで悟らせないためだ。


 そのままゆっくりと相手との距離を縮めていく。

 それを待つかのようにリボーンは動かない。


 じりじりと、縮まっていく距離、そして相手の間合いに入る直前、俺は左手に剣を持ち駆け出した。


 そして剣を振りかぶり思いっきり相手に向かって投げつける。


「なっ!」


 剣術を争う大会で剣を放棄する。

 そのあり得ない行動に、相手も完全に思考を停止させる。


 俺の飛んでいった剣はリボーンに軽く弾き飛ばされるが、そんなことは関係ない。


 俺は身を低くかがめて、相手の太ももと腰あたりを掴みそのまま押し倒す。


「このっ!」


「させるか!」


 残った右手で俺の脇腹を刺そうとする剣、それを左足の膝を使って腕を止めて、持っていた右手の剣を払うように拳を殴り放り出させる。


「これで、詰みですね」


 相手の腹の上に座り、相手の両手を自分の両足で止めて完全なマウントポジションを取る。


「降参するならまだ間に合いますよ」


「この程度でか? 馬鹿にするなよ」


 そうですか! と俺は顔面に拳を打ち込む。

 相手の戦意が喪失するまで、気絶するまで、何度も何度も打ち込む。


 しかし相手は倒れない、その口元は笑ってさえ見える。

 一方的な攻撃は疲れを生む。


 攻撃の連打で疲れた俺は少し休みを取ろうと攻撃をやめた。

 その瞬間、空中へと放り出された。


(何が起きた!?)


 視界の隅で捉えたのは、リボーンの足が地面にめり込む程の強さで腰が浮いていた。

 腰に集中した魔力循環によってで浮かされたのだ。

 まさしくブリッチをするようにだ。


「まじかよ! 化け物か」


 殴っていたはずの顔面もあまり怪我は見えない。

 顔面を魔力循環で守り、俺が攻撃を緩めた一瞬を見逃さずに腰へと全魔力を集中させる。

 並大抵のセンスではない。


「どうして俺の周りにはこんなのばかりなんだよ」


 放り出された空中から受け身を取って前を見ると、剣を俺の顔面に突きつけるリボーンの姿があった。

 無手の俺に反撃の術はなかった。


「勝者、リボーン・ドルッセン!」


 俺の剣術大会は2回戦で終わった。

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