第49話 レオス・ヴィダールと闘技大会

 闘技大会の初戦の相手は斧使いだった。王国では剣が主流で他の武器はあまり見かけないので新鮮だ。相手はいかにも筋肉隆々とした体躯をしていて、俺と比べると二回りも大きい。

 子供と大人くらいの差がある。それでも相手を見る。絶対的に魔力量が足りない。少しは期待した、今の俺を凌ぐ、又は匹敵する魔力持ちがいるのではないかと。まあまだ初戦だ、悲観することもない。俺は審判の試合の開始を告げる言葉を聞き、相手が飛び込んでくるのを待った。


「うおおおおおお」


 大きな両手斧を持った男が俺の頭上目掛けて斧を振り下ろしてくる。普通に剣で受けたら剣が耐えきれずに折れるだろう。それに衝撃もすごいことになる。だがそんなことは俺には関係ない。


 すっと片手で剣を持ち上げると、相手の斧を剣で迎え撃つ。相手の全体重が乗った一撃を俺は片手で防いで見せる。周りも一瞬静かになった。まあこの程度の相手ならこれくらいしないとね、力の差? ってのを分からせてあげないと。


 俺の行動に面食らったのか、相手はその後距離を取り攻め込んでこない。これじゃあ埒があかないなと思った俺は一歩で相手との距離を詰め、守りに入った相手の四肢に攻撃を仕掛ける。

 右手、右足、左足、左手、剣先で刺すように、嬲る様に攻め立てる。刃の潰れた武器とはいえ、相手の体にはあざが出来ている。そうして更に腕や足に攻撃を繰り返していると、相手が武器を捨て「参った」と降参した。

 まばらな拍手が会場を包む。

 力の差ってのを見せただけなのに、嫌な奴らだ。


 その後の大会はつまらないものだった。俺の対戦相手は棄権していくばかりで戦いにすらならなかった。まあ弱者には興味はないので別にいいと言えばいいんだけど。

 そして決勝まで進んでしまった。相手はまだ来ない。


「決勝でも棄権とか勘弁してくれよ」


 何のためにここまで馬車に揺られてきたのかわかりゃしない。せめて最後くらい戦わせてくれよ。

 俺がそう願っていると、奥の方から対戦相手が近づいてくるのが見えた。

 よかった。さすがに興ざめするところだった。

 俺が安堵していたが、相手の姿が鮮明になってくると少しの驚きを覚えた。


(あの時の少年か)


 先日受付前で優しい大人たちに諭されていた少年、確かに魔力量は見張るものがあったが未熟な体でどこまでいけるかななんて思っていた。それが決勝の相手、それに俺を前にしても臆さず出てくる心の強さ。いいじゃない。お兄ちゃん応援するよ。


「我は他の腑抜けとは違う! 貴様を倒して我が力をここに示して見せよう」


「良いよ思うよ」


 元気な挨拶から始まった決勝戦。開始の合図から相手の魔法が飛んでくる。


「ウォーターランス」


 空中に展開された水の槍、水なんだから当たっても痛くないだろ? なんて思ってた時期もあったけど、しっかり矢のように硬くて痛い。アイスランスに改名したほうが良いんじゃないかと思う。まあどっちでもいいけど。


 俺はその飛来してきた魔法を剣で迎え撃つ。魔力循環を用いて剣に魔力を這わせ魔力剣となったそれで、ウォーターランスを真っ二つに両断する。


「剣で魔法を……」

「そんなことできるのかよ」

「あのガキの魔法も相当なもんだぜ」


 会場がざわつく。あれ? そういえば魔法を斬るってあんまり一般的じゃなかったんだっけ。しまったな。まあもう後の祭りだ。思いっきりやってしまおう。


「くっ タイダルウェイブ」


 今度は水が津波のようになり俺に襲い掛かってくる。威力を絞ったせいか、余り幅がないので避けれないこともないがそれじゃあつまらない。俺は剣に魔力を込め、横に一閃し、津波を上下に分ける。

 そして縦に一閃、津波はモーセの海割りのようにパッカーンと割れて四つになった津波は霧散していった。


 その光景に、男の子は目を開き俺の方を凝視する。そしてぽつりと呟く。


「お前、レオス・ヴィダールだな」


 げぇ、何でバレた! 平民ムーブは完璧だったはず。

 そもそも俺の名前が帝国に知れ渡ってるのがおかしいだろ。


「お前が何物でも関係ない、我が力はまだまだこの程度ではないぞ!」


 そう言って男の子は俺に向かって駆け出してくる。その動きは、俺から見れば遅い。ダメだ、こんな少年に負ける程度の大人しかいないのか。強者ってなんだ、俺が強者なのか? 俺は自問自答する。


 色々考えながら相手の剣をいなし続けている。相手の攻撃は片手間に出来るほど差があった。


 闘技大会なら、大陸の強者が集まってくると思っていた。なのに蓋を開けてみれば棄権するやつらばかり、残ったのは魔力量こそ多い俺より少し小さな少年、名を隠している強者もいるだろう。ただもう俺に比肩するものは今後出てこないのだろう。

 これが強者故の孤独か……まあいい。これで何も脅かされることはなくなったのだ。俺の命も皆の命も、俺の手が届く範囲なら全て守り切れる。それでいいじゃないか。


「はあはあ」


 相手の攻撃の手が止まる。ああ、そういえば戦いの最中だったな。


「クソっ! 涼しい顔をしやがって、本気を出せ!」


「いいの? どうなっても知らないよ」


 俺は「忠告はしたからな」と言い訳をして、相手の剣を剣で思いっきりへし折る。そして流れるように蹴りを腹部にぶちこみ悶絶させる。

 これでも手加減してる。本気でやったらひどいことになりそうだからな。

 最後に首の後ろに手刀をトンとして、気絶させる。この時点で俺の勝利が確定し闘技大会の優勝が決定した。


 俺はつまらなかった。


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