第2話 今なら添い寝してあげます

「疲れましたぁ~」


 翌日の放課後。彼女はまた俺の膝に寝転び、だらけていた。


「他の人が来たらどうするんだよ」


 膝に頭を置いた彼女にそう尋ねると幸せそうに目を閉じた。


「その時はその時です……」


 嘘ではあるが月島とは付き合っている。だからこの状況を見られてもイチャイチャしていただけと言ったら何とかなるだろう。


 だが、俺が気にしているところはそこじゃない。クラスメイトにこの姿を見られていいのだろうか。


 いつもはシャキッとしていてるのに今のこの状態はダラダラした人にしか見えない。これじゃあ、イメージというものが壊されるのではないかと心配だ。


 そう思っていると足音が聞こえてきた。その音はだんだんと近づいてきた。


(だ、誰か来る……)


 思っていた通り足音の持ち主は今いる教室へ入ってきた。


「あっ、月島ちゃん。天野くんと何してるの?」


「勉強会です」


 そう答えたのは俺ではなく月島だ。先ほどまで俺の膝の上で寝転がっていたのに一瞬で起き上がり背筋をピンと伸ばしてイスに座っていた。


 そしてさっきまで机には教科書やノートはなかったのにいつの間にか置いてあった。


「へぇ~、仲いいね。やっぱり噂通り付き合ってるの?」


 クラスメイトにそう聞かれて彼女は俺のことを見てニコニコと笑っていた。


「付き合ってますよ」


「やっぱり。勉強会お邪魔してごめんね~」


 クラスメイトのその子は忘れ物を取りに来たみたいですぐに教室から出ていってしまった。


「切り替えが凄かっ────えっ?」


 トサッとまた月島は俺の膝の上に寝転ぶ。人がいなくなったらまた元に戻ってしまった。


「勉強なんてしていないのに嘘ついたな」


「してます! 寝転びながらしてますよ!」


 バッと教科書を机の上から取り、彼女は寝ながら単語帳を見始めたので取り上げた。


「寝ながらだと目が悪くなる。やるなら座ってな」


 彼女を起き上がらせようとすると彼女は体に力を入れて起き上がらせないようにしてきた。


 勉強をしてると本人は言っていたが俺は知っているからな。さっきまで何もせずただ俺の膝で寝ていたことは。


「単語帳より膝枕が優先です」


「単語帳はどうでもいいと……てか、そろそろ帰らないと夕飯の準備が遅くなる」


「今日は何を作ってくれるのですか?」


 夕飯というと彼女はムクッと起き上がり、キラキラした目で尋ねてきた。


「オムライス」


「わぁ~、千紘の作るオムライス好きです!」


 彼女は話しながら帰る準備をささっとしていく。さっきの眠たそうなのはなんだったのだろうかと思うほどの行動の早さだな。


 彼女にご飯を作ってあげるのは今日が始めてではない。彼女が料理ができずいつも同じ食事を取っておりこのままだと不健康になりつつあったので作ってあげることになった。


 食費は半分出してもらい学校のある日は昼食も作っている。


「カバン持とうか?」


 重そうにしていたので彼女にそう問いかけると彼女はムッと頬を膨らませた。


「これぐらい持てますよ。本当に千紘は過保護ですね」


「過保護なのは月島が危なっかしいからだ」


 嘘の彼氏だからとかそういうのではない。単純に見ていて彼女はほっとけない。


「あ、危なっかしくないです。1人で掃除できますし!」


 俺が不得意だからって……。掃除ができたら相手が安心とはならんだろ。


「そうだな、1人で掃除できてえらいえらい」


 荷物を持ち彼女の頭を撫でるとグーでポカポカと俺を叩いてきた。


「ば、バカにしてます。それは褒めてません!」







***





 マンションへ着くと月島は自分の家に帰らず俺の家に入った。


「お邪魔し……あれ? 前、片付けたばかりなのに汚くなってますけど」


 月島は俺の家に入るなり、絶望的な表情をしていた。彼女の言葉に俺はただ笑うことしかできない。


 玄関はまだ足の踏み場があるがリビングは最悪だ。空き巣が入ったのかと疑われるほどにものは散乱していた。


「わかりました。千紘がオムライスを作っている間に私は掃除をします」


 彼女はカバンをソファの上に置き、ティーシャツの袖をめくった。髪を高いところで1つにまとめて彼女は片付け始める。


「あ、ありがとう……」


 俺と月島は全く得意なことが逆だ。俺が得意な料理は月島にはできず、俺が不得意な掃除は彼女にとっては得意だ。


 急遽、家に来たときは焦った。彼女にこの部屋が終わってると言われた時のことは忘れない。


 オムライスを2人分作り、テーブルへ運び終えたので月島にできたと言うおうとしたが、彼女はソファに寝ていた。


 掃除は既に終えており、リビングは綺麗になっていた。


 しゃがみこみ寝ている月島の頭を優しく撫でてあげた。すると月島は、俺の手を握ってきた。


「千紘、寝ませんか? 今なら添い寝してあげます」


 目を閉じたまま彼女に誘われたが、俺は彼女をゆっくりと起こした。


 前に一度無理やり寝転ばされ添い寝したらぎゅっと抱きついてきて抱き枕にされた。なのでお断りだ。


「遠慮しておく。それよりオムライスできたぞ」


「食べます!」


 さっきまで眠そうな顔をしていたのにオムライスができたと言った途端、彼女はソファから立ち上がった。


 食べ物に関することになるといつもこうなんだよなぁ……。


 イスに座り、月島は先に食べ始めた。向かい側に俺が座り遅れて食べ始める。


 目の前で彼女は美味しそうに食べているのを見て俺は嬉しくなった。


(自分で作ったものを喜んで食べてくれるってこんなにも幸せなんだな……)


「月島、口元にケチャップついてるぞ」


「ほ、本当ですか?」


「あぁ、うん。取るよ」


 ティッシュで取ってあげると月島はなぜか顔を赤くしていた。熱があるのだろうかと心配になり、額を触ると耳まで赤くなった。


「何か赤くないか?」


「き、気のせいです! ち、千紘、今日はデザートはあるのですか?」


「えっ、あぁ、うん……この前食べたいって言ってたゼリーがあるよ」


 食べた食器を洗い物のところへ持っていくついでに彼女が食べる用のゼリーを取りにいった。


「ゼリー食べたいです!」


 彼女は待っている間、なぜか横に揺れて待っているのだった。



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