【完結】お隣さんにフリでもいいから「彼氏になってほしい」と頼まれ付き合い始めたら彼女が甘々になった件について

第１章 お隣さんにフリでもいいから「彼氏になってほしい」と頼まれた

第1話 もっと触ってください

「月島さん、おはよう」　

「おはようございます」

「あ、挨拶返してもらったよ～」

「良かったね」

　この学校には何でもできる完璧清楚系美少女がいる。彼女は成績は常に1位でスポーツ万能。男女共に慕われており憧れの的だ。

　彼女の名前は、月島有沙（つきしまありさ）。さらさらした長い髪を持ち、スタイルの良さから男子からはモテていた。

　クラスが違うが噂ではいろいろと聞いている。家は豪邸だったり、いろんな習い事をしていたり、家では読書したりとプライベートに触れそうなぐらいに情報が回ってきていた。

　だが、その情報はほとんど嘘で彼女のことが好きでいる人達が勝手に作った話だ。

　家が人よりとても大きなところであるのは事実だが、実際は習い事は小さい頃はしていたが、今は何一つしていないし、読書するのは好きだが、毎日はしない。

　勝手に変な嘘を広められて本人も呆れているそうだ。否定しても否定は聞き流されるので彼女も諦めていた。そう思いたいならそう思っていろということだろう。

　なぜ俺がその嘘情報を見破れたのかと言うと本人から聞いたから。

　俺、天野千紘（あまのちひろ）は高校生から一人暮らしを始めることにした。そして引っ越し先のお隣さんはまさかあの月島有沙だった。

　最初は月島とは何の関係もなかった。クラスも違うし、友達でもない。ただの隣人だ。だが、ある日から関係が変わった。

　あれはちょうど3ヶ月前。放課後にあった出来事だ。

「好きです！　付き合ってください！」

　渡り廊下を歩いているとある男子生徒が月島に告白をしていた。

　俺は廊下に出ていたが校舎に入った。すると悲鳴が聞こえてきた。

「なんで……何で付き合ってくれないんですか？」

　そう言って告白した男子生徒は彼女の手を取る。

　男の声から少し納得がいかない様子が伝わってきた。告白して振られたことに納得できないのだろう。

　それにしてもやはり月島は男子にモテているな。頻繁に告白されているとは聞いていたけれど。

「付き合えないからです。あなたのことを私は何も知りませんし、付き合うのは……」

「だったらこれから俺のこと知ればいい。だから俺と付き合ってほしいです」

　しつこい男は嫌われるぞ。ここからまだアタックするつもりなのだろうか。

　盗み聞きを悪いとは思っているが嫌な予感がして俺はそこから動かずにいた。

「ごめんなさい……付き合えません」

「理由は？　理由がないと僕は諦めません」

「は、離してください！」

　男の方が掴んだ腕に力を入れたのか月島はそう言う。

「離したら逃げるから───」

「はいはい、月島、困ってるから離れて」

　今度は両手を握ろうとしていたので俺は廊下に出て月島からその男の手を離した。

「あ、天野くん……」

　彼女を俺の方に抱き寄せ、その男から距離を取る。

「な、何だよ急に出てきて……僕は今、告白中なんだぞ！」

　それは知ってる。告白中だからなんなんだよ。邪魔しに来たわけではないから怒られる筋合いはないはずだ。

「あぁ、それはごめん。ところで君は彼女が嫌がってるとわかってないのか？」

「嫌がってる？　告白がか？」

「告白は知らないが、腕をつかんでたりして彼女は怖い思いをしていた」

　彼女の手は震えており、怖がっていたのは間違いない。

　月島は俺の服袖をぎゅっと掴み、体を俺の胸に寄せていた。

「そ、そんなの知らねぇーよ。それよりお前なんだよ、急に出てきて」

　さっきまでの優しい口調はどこへいったのかと思うほどに男の態度は急変した。

「お前に月島との関係を話す必要はない。俺はただ困ってる月島を助けに来ただけだ」

「な、なんだよ……わ、わかったぞ、タイミングがいいところで助けに来て月島にカッコいいと思われたかったんだろ？」

「思ってない」

(この男は何を言っているんだろうか……)

「月島さん、僕と話をしよう。僕のことを知れば付き合いたくなるから」

　そう言って男は手を伸ばし彼女の手を取ろうとしたので俺はその手を掴んだ。

「いい加減にしろよ。怖がってるのがわからないのか？」

「僕は月島さんと話したいんだ。お前は───」

「ごめんなさい。あなたが何を言おうと私はあなたとお付き合いできません」

　言葉を遮るように月島は頭を軽く下げて男の告白をもう一度断った。

「ちっ！」

　聞こえるぐらいの舌打ちをし、その男は去っていった。

(舌打ちって……)

「月島、大丈夫か？」

「大丈夫です。助けていただきありがとうございます」

　彼女は俺から離れて、一礼した。月島とは家がお隣さん同士だが、話すことはこれまでほとんどなかった。引っ越してきたときに挨拶したぐらいだ。

「じゃあ、俺は行くよ」

　掃除から教室へ戻ろうとしていたところなのでカバンを取りに行こうとすると後ろから手を掴まれた。

「月島……？」

　ゆっくりと後ろを振り向くと彼女はうるっとした目で俺のことを見てきた。

「天野くん、私の彼氏になってほしいです」

「……え？」

　聞いたときは一瞬、聞き間違いか冗談でそう言ったのかと思っていた。

　だが、彼女は今日みたいなことがまたあったら怖いので俺に彼氏になってほしいと頼んできた。

　付き合うといってもフリでいいらしく、断れなかった俺は彼女の言葉に頷いた。これが3ヶ月前の出来事だ。

　あの日から登下校も一緒だったり、昼食の時間も一緒にいるようになったり、俺は名字で呼ぶが彼女は俺のことを下の名前で呼ぶようになった。

　月島は人気者だ。だから一緒にいるのを見て周りは付き合い始めたんじゃないかと思う人が増え始めた。

　嘘で付き合い始めてから3ヶ月後。

「月島、そろそろ帰らないか？」

　彼女の教室に立ち寄り帰ろうと誘ったが、急に膝枕して頭を撫でてほしいと頼まれ、椅子を2つ並べて彼女は俺の膝に寝転がっていた。

「やです。千紘、もっと触ってください……」

　そう言って月島は、すうすうと寝息をたてて寝てしまった。

(頭を撫でてほしい……ってことだよな？　体のどこかを触れと言う意味ではないよな？)

　小さな笑みを浮かべ俺は彼女の頭を優しく撫でた。

(これ、完全に懐かれてるよな……)