第41話 認めていない

 イルカのぬいぐるみが大きいのでロッカーに預けてから俺と有沙は、昼食を食べにフードコートへ移動した。


 互いに好きなものを頼み、食べ始める。俺が頼んだのはケチャップオムライス、有沙はデミグラスソースのオムライスを頼んでいた。


「ん~、美味しいです!」


「デミグラスの方も美味しそうだな」


「美味しいですよ。少し食べますか?」


 彼女はスプーンで1口サイズのオムライスをすくった。


「じゃあ、少しもらおうかな」


「はい、では、あ~んしてくださいね」


 彼女に言われた通り、口を開けるとオムライスが口の中に入った。


 普通のケチャップオムライスも美味しいが、デミグラスソースもやっぱり美味しいな。


「どうでしたか?」


「うん、美味しかった。有沙もケチャップライス食べるか? 美味しいよ」


 彼女が食べられそうなサイズのオムライスをスプーンですくうと有沙は髪を耳にかけた。


「で、では……」


 有沙は、口を開けて待っていたのでオムライスを食べさせてあげた。


「ん~美味しいです!」


 彼女は、幸せそうな表情をしてふふっと小さく笑った。


 昼食後、いろんな店を回り、ショッピングモールを出て家へ帰る。


「俺、スーパー寄るから先に帰っていてくれないか? 有沙はイルカのぬいぐるみがあるし」


「ついていきたいところですが、これがありますし……わかりました、家で待っていますね」


 彼女はそう言って背を向けて家の方向へ帰っていった。


 さて、俺はスーパーで買い足さないといけないものを買おう。


 近くにスーパーがあったのでそこに寄ろうとすると見たことがある車を見かけた。


(あれってこの前、乗った……)


「お待ちしておりました、天野様」


 その車から降りてきたのは、月島家の家政婦である南さんだった。


「南さん? 有沙なら家に帰りましたよ」


「知ってます。今日は、天野様に話したいことがあります」


「話ですか?」


 南さんが、話したいことってなんだろうか。想像ができずドキドキする。


「時間は取りません。暑いので車の中で」


「は、はい……」


 車に乗り、南さんも後から遅れて乗った。今からどんな話をするのだろうかと思っていると南さんは、口を開いた。


「お伝えしようか迷ったのですが、有沙様のお父様は、あなた達の交際を認めてはいません」


「えっ……け、けど、家に行ったときは、有沙のお父さんは、認めると言って……」


「あの場ではそう言いましたが、それは学生の間だけ認めるということ……。学生でなくなれば別れることを勧められるでしょう」


 つまりあの場だけの言葉ってことだろうか。もし、そうなら、俺は和樹さんには有紗の彼氏として認められていない。


 認めていないということは俺のどこかにダメだと思うところがあるのだろう。やっぱり、有紗みたいなお嬢様と俺じゃ釣り合わないのか……。


「俺じゃあ、有紗の隣には並べないってことですか……?」


「和樹様がどう思われているかは私にはわかりませんが、私は不釣り合いとは思いません。天野様は、有沙様を変えてくれました。小さい頃の有沙様は、少々心配だったのです」





──────6年前





「お父様、今日のテスト満点でした」


 小学生の頃から勉強に関しては常に上位にいるのが当たり前だった。だから満点を取るのは当然でいい点を取っても誉められることはなかった。


「そうか。次も頑張れ」


 有沙様は、誉められることを知らないから父親からこう返されても特に何も思わなかった。


 だから私が誉めてあげようと思った。


「有沙様、テストで満点だったのですか?」


「南さん……はい、満点でした」


「そうですか。よく頑張りましたね」


 彼女の頭を優しく撫でると有沙様は、嬉しそうに笑ってくれた。


「ここ最近、勉強や習い事を頑張っているようですが、無理してないですか? お体は大事にしてくださいね」


 その時の有沙様は、両親の期待に応えるために、月島家の人間であるためにいろんなことを頑張っていた。


 頑張ることはいいこと、ですが、私は心配でした。頑張りすぎて無理しているんじゃないかと。


「心配ありがとうございます、南さん。私は、頑張らないとダメなんです……頑張らないと嫌われるから」


 有沙様は、ご両親から嫌われないために今日まで言われたことは何もかもやってきました。


 自分のことはいつも二の次で自分のことをもっと大切にしてほしいと私は思っていました。






***






「けど、私は思うだけでした。有沙様が辛い思いをすることを続けさせて……。天野様は、私とは違います。有沙様の側にいないといけない存在なんです」


 話終えた南さんはそう言って俺のことを真っ直ぐと見てきた。


「……和樹さんがどう思われていても俺は、有沙の側にいますよ。だって、彼女から側にいてほしいと頼まれましたから」


 彼女の側にいて一番に見ていてあげると約束したから。俺はその約束を必ず守る。


「南さんも俺と同じで有沙にとっては必要不可欠な人ですよ。変えられるきっかけを南さんも与えているはずです」


「私が……そうだといいですね」


 南さんは小さくそう呟き、うっすら笑った。


「南さん、和樹さんが思うことを教えてくださりありがとうございます。俺は、必ず認めてもらいます」


 どうやって認めてもらうかなんて考えていない。けど、認めてもらわない限り、有沙の側にずっといられない。そのためには何か行動を起こさないとダメなことはもうわかってる。


「私は、有沙様と天野様のこと、応援しています」


 南さんから応援の言葉をもらい少し話してから、俺は車から降りてスーパーへ向かった。


 南さんは、有沙がこの話を知っていることを教えてくれた。おそらく今朝、和樹さんと会ったとき、様子がおかしかったのはこの話を知っていたから。


(よしっ、まずは有沙と話そう)









  

  

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