第42話 これからもずっと一緒にいたい

「急に訪ねてすみません」


 休日。俺は、有沙と一緒に月島家の家に来ていた。理由は、和樹さんと話すためだ。


 前日に話し合ったところ彼女は、和樹さんが本当は認めていないことを知っていた。和樹さんと会った時に様子がおかしかったのはおそらくこのことを知っていたから。


 ここに来るまでは、南さんに連れてきてもらった。この前、会った時に南さんと連絡先を交換していたのでここに来ることは前日に伝えてある。


「いや、今日は、仕事がないから構わないよ。それで二人揃ってどうしたんだ?」


 今、自分が和樹さんにどう見られているかを考えてしまうと自分に自信が持てず言葉が出てこなくなる。


 だからどう見られていてもいい。そう思って俺は、背筋をピンっと伸ばして和樹さんのことを見た。


「和樹さん、正直に答えてほしいです。南さんから聞きました。本当は、俺と有沙さんの交際を認めていないと」


「南さん……そうか。君が正直に答えてほしいと言うから嘘偽りなく答えるが、学生だけの間なら認めてるよ。けど、その後は、認めてない」


 学生だけということは大学を出たら別れろということだろう。


 俺は、有沙とこれからもずっと一緒にいたい。側にいると、一番近くで見ていると有沙と約束したのだから。


「理由は、俺が有沙と不釣り合いだからですか?」


「不釣り合い? いや、私は寧ろ、お似合いだと思うよ。けど、月島家の娘の相手としてはふさわしくないかもしれないね」


 この人は、全く彼女のことをわかっていない。話を聞いたとしても真剣に考えずさらっと流してきたような気がする。


 何かある度に月島家だからと言言われて有沙は、何もかも我慢してきたのだろう。家のことを持ち出されたら断りにくいから。


「和樹さん、月島家は魔法の言葉ではありません。家のことを言ったら娘さんが思い通りに動くとは思わない方がいいと思います」


 怒られる覚悟で言ったせいか手に汗をかいた。空気も冷たくなり、体が早くここから帰りたいと言っているようだ。


「俺は、有沙さんと将来一緒にいたいと考えています」


 俺がそう言うと来てからずっと下を向いていた有沙が顔を上げて口を開いた。

 

「私も千紘とずっと一緒にいたいです。お父様に認められなくても私は千紘と別れるつもりはありません」


 彼女がそう言った後、長い沈黙が続き、俺と有沙はドキドキしながら和樹さんの様子を伺った。


 怒られるだろう、嫌われるだろうと色んな思いでいたが、有沙は嫌われてもいい覚悟で今日はここに来た。お父様にどう思われても俺といることの方が大切だと。


 暫くして、和樹さんは、下を有沙の方を真っ直ぐと見て口を開いた。


「そうか……私は、有沙のためを思って今までやってきたが、迷惑だったということか」


 有沙は和樹さんの言葉を聞いてすぐに首を横に振り、否定した。


「それは違います。お父様から言われてきたことをやってきて一度も後悔したことはありません。お父様が私のためにやってきたことは決して無駄ではありません」


 和樹さんは、まだ気づいていない。娘のためと言っているが、次第に自分のため、月島家のためになってきていることを。


「和樹さん。これは許されたいからというわけではありませんが、娘さんのことを思うなら自由にしてあげるの方がいいと俺は思います。もう誰かの言葉がなくても彼女はやっていけます」


 子供のように、あれしなさい、これしなさいと高校生にもなって言われていたら人は成長しない。


 今は、大人になるために自立する準備が必要だと俺は思う。


「……すまなかった有沙。自由を奪ったようなことをして。天野くん、これからも娘を頼むよ」


「は、はいっ!」


 一先ずこれは、これからも有沙といていいと認められたってことでいいのかな。


「あの、千紘……少しだけお父様と二人っきりにしてくれませんか?」


 彼女は俺の方に体を向けてお願いしてきた。


「わ、わかった。じゃあ、外で待ってるな」


 彼女と和樹さんの2人にするため俺は、部屋を出て南さんに案内された別の部屋へ移動した。


 2人になると私は、口を開いた。


「お父様……1つわがままを言ってもいいですか?」


「わがまま?」


「はい……お父様にぎゅーと抱きしめられたいです。ダメですか?」


「ダメではないが、急だな」


「急ですみません。私は、まだ子供っぽいところがありますので」


 今まで尊敬する父親として見ていたのでこうして甘えの言葉を口にしたことはなかった。


 私は立ち上がり、父親の前に座りぎゅっと抱きしめた。


「お父様……いえ、お父さん。私を育ててくださりありがとうございます」


「…………」


 私の言葉に上手く返せなかったが、お父さんは、私の体をぎゅっと抱きしめてくれた。


「たまには帰ってきなさい。私も紗奈も有沙に会いたいからね」


「はい……その時は、千紘と来てもいいですか?」


「もちろん」






***






 月島家から駅までは、南さんに車で送ってもらった。そこからは電車に乗り、家までは徒歩で歩く。


「明日ですね。花火大会」


 スーパーの横を通りすぎたその時、貼ってあったポスターを見て彼女は呟いた。


「そうだな。有沙は、浴衣あるのか?」


「ありますが、自分に似合うかどうかわからないので着ないかと。千紘が着てほしいというなら着ますけど……」


 そう言って有沙は、俺のことをじっと見てきた。


「着てほしいけど……」

「じゃあ、着ます!」


「お、おお……無理してないか?」


「してませんよ。明日が楽しみですね」


 彼女は、そう言って俺の手を握った。


「そうだな」


 握られた彼女の手を優しく握り返し、俺達は家に帰った。

 








  

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