第42話 彼女が甘々になった件について
花火大会当日。なぜこうなったのかわからないが、朝から俺と有沙は同じベッドへ寝転がっていた。
「千紘、今日は楽しみですね」
横向きに寝転び、有沙は俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。
「そ、そうだな……」
起こしに来ただけなんだけど、なぜかベッドに連れ込まれて今この状況だ。
完全に密着しているこの状態。嬉しくないわけではないが、俺の心が持たない。
「千紘の頬ってぷにぷにですよね。えいえい」
えいえいって何だ……可愛すぎるだろ。
俺も我慢できず寝返りを打ち、横の方を向いて彼女をぎゅっと抱きしめた。
「有沙、可愛い」
「ちっ、千紘? う、嬉しいのですが、急だと驚くと言いますか、ドキドキします……。千紘だけズルいので私もやり返します。えいっ!」
力を込めてさらに彼女は、俺に抱きついてきた。小さな体でぎゅっと抱きしめたら折れそうな気がして俺は気を付けながら彼女を受けとめる。
「有沙といるだけで十分にドキドキしてるんだけど……」
「ふふっ、もっとドキドキしてもらいます」
結局、1時間以上は有沙と布団の中にいて起きたのは8時だった。
俺の家へ移動し、朝食を作り、2人で作った和食を食べる。
花火大会までは時間があるので家でテレビを見ながらソファでまったりしていた。
「だらぁ~」
有沙がアイスが溶けたみたいになっている。膝枕してもらい幸せそうだ。
外が暑く、部屋の中はさらに暑い。一度冷房を付けてしまうと外に出るのがめんどくさくなり、俺も有沙もソファから動けないでいた。
「暑いなら髪くくった方がいいんじゃないか?」
さらさらした髪の毛を優しく触り、彼女にそう言うと首を横に振った。
「千紘が髪おろしている方が好きと言っていたのでこれでいいんです」
確かに前にそんなことを言ったが、それで暑さを我慢するのは良くない。
「髪結ってあげるから座って」
「千紘が結ってくれるのならくくることにします。お願いしますね、千紘」
彼女は起き上がり、チラッと後ろに回った俺のことを見た。
「うん。どの髪型にすればいい?」
「三つ編みお願いできます?」
「わかった」
何度か有沙の髪を結う機会が増えたのでできる髪型のバリエーションも増えてきた。
綺麗に三つ編みにしていき、最後に髪ゴムでくくった。
「よしっ、できた」
「ありがとうございます!」
彼女は、ソファから立ち上がり嬉しそうに鏡で見に行った。
(喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなるな……)
***
花火大会が始まる1時間前。有沙は浴衣を着るため、家へ一旦帰っていった。
俺も有沙と一緒で浴衣を着てみたかったが、残念ながらない。
彼女の浴衣姿は絶対に可愛いだろうなと思いながら待つこと20分。ガチャンと鍵が開く音がした。
「千紘、お待たせしました……浴衣って着るの大変ですね」
「!!」
浴衣の色は薄紫で帯は白。白い花柄があり、とても彼女に似合っていた。
「千紘、おかしなところはありますか?」
どこかおかしなところがないか彼女はくるっとゆっくりと回った。
「いや、ないよ。というか可愛い」
「かわっ! あっ……ありがとうございます。着て良かったです」
自分に似合うかと先程まで迷っていたが、彼女は着て良かったと嬉しそうに笑った。
「じゃ、そろそろ行くか」
「そうですね」
もう少し早めに家を出ても良かったが、長時間浴衣でいるのは辛いだろうと思い、この時間から行くことにした。
花火大会の会場は、電車に乗って少し歩いたところだ。
下駄を履いていく有沙のことを考えながら手を繋ぎ、ゆっくりと歩く。
「屋台もありますね。せっかくですし何か食べませんか?」
「そうだな」
屋台のものを食べながら花火を見る。うん、凄くいい。夏を満喫してる感じがして。
たこ焼き、かき氷、ポテトと取り敢えずこの3つを買い、空いている場所を探して食べることにした。
「早めに食べないと美味しくなくなるものばかりです。千紘、ここはかき氷からいきましょう!」
「だな、かき氷が溶ける。けど、かき氷冷たいし、頭キーンってするからゆっくり食べような」
「そ、そうですね」
有沙がかき氷を食べている間、俺は出来立てのたこ焼きを食べていた。
「んっ、美味しい。有沙、あ~んしてあげようか?」
冷たいものを食べているので温かいものも食べたいんじゃないかと思い、そう尋ねると彼女はかき氷を食べるのをやめた。
「ほしいです」
「熱いから気を付けてな」
「はい」
ふーふーと息を吹きかけてから彼女は食べられると思ったのか半分食べた。
「美味しいですね。次は私の番です。どうぞ」
かき氷を渡され、俺は彼女に食べさせてもらった。
「うん、かき氷だな……」
「はい、かき氷です。ふふっ、何ですかその感想。誰でも言えそうです」
「氷なんだからしょうがないだろ」
顔を見合わせて笑った後、買ったものは全て食べきった。
「美味しかったですね」
「だな。こういうときだから屋台の食べ物がいつもより美味しいな」
食べて満足して帰りそうになったが、今日は花火がメインだ。
そろそろ始まるんじゃないかと思っていると大きい後が鳴った。
「あっ、花火です」
隣にいる有沙は向こうの空を見てポツリと呟いた。
彼女と同じ方を向くと空に大きな花火が上がっていた。
「綺麗……」
花火を見ていると嫌なことは全て忘れることが出来そうだった。
隣を見るとうっとりした表情で花火を見る有沙がいた。
何を見に来たんだと突っ込まれそうだが、花火を見る有沙はとても美しくて見ていると触れたくなった。
「有沙」
花火が空に上がり続ける中、俺が彼女の名前を呼ぶと有沙は聞こえたのかこちらを向いて、小さく笑いかけてきた。
そして、背伸びをした彼女は俺の耳元で囁いた。
「千紘大好きですよ」
花火の音でうるさかったが、俺にはちゃんと聞こえた。だから今度は俺が彼女の耳元で囁いた。
「有沙、大好きだよ」
そう言うと彼女は嬉しそうに笑い、俺の手を優しく強く握ってきた。
俺もこの手を離さないよう優しく花火が終わり、帰るまで手を繋いだ。
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