第21話 一緒にカップケーキ作り

 2月14日。学校に帰って来てからキッチンにいると有沙は駆け寄ってきた。


「千紘、私にカップケーキの作り方を教えてください!」


 おやつにシュークリームでも作ろうとしていていたのだが、急にカップケーキが作りたいとは一体どうしたのだろうか。


「カップケーキを作ればいいのか?」


「えっと、そうわけではなく私が作りたいです」


 彼女の言葉を聞いてこの前、料理を教えてほしいと言っていたのを思い出した。


「わかった。教えるから一緒にやっていこう」


「はいっ!」


 危なっかしいので本当は料理をさせたくない気持ちもあったが、作りたいという彼女の気持ちの方が大切だ。


 何かあれば俺が何とかすればいい。というか何もないまま無事作れるように教えよう。 


「最初はボウルに卵白と砂糖を入れよく泡立てる。できるか?」


「はい、やってみます」


 必要なものは家にあったので用意することができた。


 ボウルを彼女に渡すと言われた通りのものを入れていき、泡立て器でかき混ぜていく。


 その後、牛乳を入れ、型に注ぎ入れる。そしてオーブンで焼けば完成だ。


「そう言えば今日は男子の方達がそわそわしているように見えました。バレンタインだからですかね」


「そうかもな。深はひまりにもらえるのが楽しみと言っていた」


 結果、放課後にひまりは深にチョコを渡し、そして俺には友チョコをくれた。


 彼女から友チョコをもらうのはもう何度目だろうか。長い付き合いであるので今年が始めてではない。


「千紘は、私からもらえるとは全く期待していないのですか?」


 期待していないとは嘘になる。もらえないのだろうかと今日は何度か思ったが欲しいとアピールするのもうざがられる気がして顔にでないようにしていた。


「そんなわけないだろ……。も、もらえるかなって期待してた……」


「ふぇ」


(ふぇ?)


 彼女は顔を真っ赤にして焼き上がるのを待っていたが下にしゃがみこんでしまった。


「だっ、大丈夫か?」

 

「だ、だいじょふです……」


 そう言いながら彼女は頬を両手で触っていた。


(本当に大丈夫なのか、これ……)


「千紘、絶対に顔見ないでください」


「お、おう……」


 焼き上がるまでまだ時間があったので俺は彼女から少し離れて洗い物をすることにした。


 使ったものをスポンジを使い洗っていると後ろからぎゅっと抱きしめられた。


「千紘の匂い、落ち着きます」


(んんっ!?)


 急に変な匂いじゃないかと心配になってきた。確認しようにも動けない。


「生地の匂いじゃないかな……」


「いえ、これは千紘の匂いです!」


 なぜ断言できるのだろうかと気になったが、聞けるようなことでもないなと思いやめた。


「もう大丈夫なのか?」


「大丈夫です……。カップケーキ焼き上がったみたいですよ」


「ほんとか? なら、取り出して……い、いつまでくっついているんだ?」


 彼女は俺の背中から離れずピタッと引っ付いている。


「もう少しだけ……」


「せっかくできたカップケーキが美味しくなくなるぞ」


 そう言うと彼女はバッと離れてカップケーキから取り出した。


「そう言えば2個あるけど1人で食べるのか?」


 彼女は作り始める時に2人分作りたいと言っていた。


 おそらく全部自分で食べるだろうなと思っていたが彼女は首を振った。


「い、いえ……これは千紘へのバレンタインの贈り物です」


「えっ……カップケーキを?」


「は、はい……それは全て千紘のために作ったカップケーキです」


 赤面しながら言う彼女を見て俺は可愛いと思い、彼女を抱きしめそうになった。


「あ、ありがとう……。けど、これ1つが大きいしもう1つは有沙が食べないか?」


 2つも食べられない気がして彼女にそう言うと「では食べますと」言いかけていたが首を横に振った。


「だ、ダメです。これは千紘のカップケーキですから」


「そうは言っても食べきれないし。俺は有沙に食べて欲しいな。自分が作ったカップケーキ、食べてみたくないか?」


 彼女はできたカップケーキを見てよだれが出そうになるぐらい我慢していたが、俺の言葉に負けたのかコクりと頷いた。


「なら、紅茶用意して食べようか」


「紅茶とカップケーキなんて最高の組み合わせですね」


(ホワイトデーは何か用意しないとな……)






***




 

 翌日の放課後、有沙は千紘が教室に迎えに来るのを待つため残っていた。


「あっ、有沙。千紘待ち?」

 

 初華は、1人でいる有沙のところへ行き、話しかけた。


「はい、千紘待ちです」


「来るまで私も一緒に待っておこうか?」


 喋り相手が必要かと初華は尋ねたが彼女は首を横に振った。


「いえ、すぐに来ると思うので大丈夫です。バレンタインの話、また明日しますね」


「うん、聞かせてね」


 有沙は初華と話すうちに次第に話しやすい関係へとなり、今ではよく一緒にいるようになっていた。


 また1人になり、千紘を待っているとクラスメイトの方がこちらへ来た。


「月島さん、和田くんが呼んでるよ。上の階の突き当たりの空き教室前で待ってるって」


「和田くん……? ありがとうございます」


 和田くんが誰だかわからないが教えてくれたので有沙は礼を言って、待っているという場所に向かった。


「あなたは……」


「手紙、何回か書いたんだけど返事が来ないから会いに来たんです」


 そう言って待っていた和田という男子生徒は前に有沙に告白して断っても直、考えてくれないかとしつこく言ってきた人だった。


「返事……やはりあなただったんですね。ラブレターを何度も私の下駄箱に入れたのは」


「そうです。で、考えてくれましたか? 俺と付き合ってくれること」


 そう言って和田は少しずつ有沙に近づいく。


 有沙は前にあった出来事を思い出し、怖くなったので一歩後ろへ下がった。


 今からでも走って逃げられる。けど、体が上手く動かない。


「前は邪魔されましたが、今日はゆっくり話せますね」

 








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