第22話 シュークリームでご機嫌を取れると思っているのですか? 私はそんなことで────

「ゆっくり……私はあなたと話すことなんて何もありません」


 ラブレターの返事が来ない時点で察してほしいものだ。


 手紙の内容を有沙はちゃんと毎回読んでいる。毎回、同じ文なので薄々誰が送り主かは気付いていた。


「月島さんが無くても俺はあります。それとももう付き合っている人がいるんですか?」

 

「いますよ。だからあなたとお付き合いすることはできません」


 この前もしたような会話のやり取り。何度もできないと言っても彼はわかってくれない。


「誰と付き合っているんですか? 言葉だけなら何とでも言えます」


 どうやら和田は、有沙には彼氏がいないのにいると嘘をついていると思っているようだ。


 この前までは確かに嘘だった。けど、もう有沙は千紘と本当に付き合っている。


「本当です。この前いた方と私は付き合っています」


 千紘と付き合っていることは前々からかなり多くの人が知っているので隠すことはない。


 有沙にはひたすら断る流れを作っていく方法しか思い付かない。


 この場に千紘がいてくれたら私よりもっと和田という男に納得がいくいい方法が思い付くのだろう。


「じゃあ、別れてよ。あいつより俺の方がみためいいし、釣り合ってると思うんだよね」


 それはどこからの自信かわからないが、有沙は彼の言葉を直ぐに訂正したくなった。


(千紘の方がカッコいいですよ)


「私は見た目で人を判断してません。あなたが私を好きでいるかはあなたの自由ですが私はあなたのこと好きにはなりませんよ」


 こんなにもしつこくしてくることで有沙は和田という男が嫌いになっていた。


「……自分は可愛いからって頑張らなくても周りが寄ってきていいよな」


 また前みたいに和田は態度を急変し、有沙を壁まで追い詰めて片手を壁につけて彼女を逃がさないようにした。


「……何が言いたいのですか?」


 和田という生徒は有沙は知らない。そんなことを私に言われてもどうすることもできないし、だから何?としか思わない。


「俺と月島さんは────」

「何やってるんだ?」


「千紘!」


 有沙は和田が壁から少し離れた瞬間にその場から離れて千紘に抱きついた。


「ごめん、来るの遅くなって」


「いえ、来てくれただけで嬉しいです」


 教室に迎えに行ったらまたいなかったので心配して探したが、またこの男か。諦め悪すぎるだろ。


 しかも何しようとしていたのか詳しくは知らないが手を出そうとしていた。


「見つかって良かったよ」


 俺の隣にいて有沙を探す手伝いをしてくれた初華はそう言って彼女に微笑みかける。


「初華にも探すの手伝ってもらったんだ」


 俺がそう言うと彼女は俺から離れて初華に礼を言う。


「初華さん……ありがとうございます」


「いいよいいよ。で、和田くんだっけ? 女の子を壁ドンして何をしようとしてたのかな?」


 初華の説教タイムが始まり、凄い厚に和田は怖くなったのか一歩後ろに下がっていた。


 俺は怒るのは苦手だ。俺が何か言ってもまた嘗められて舌打ちされて終わり。ここは初華に任せよう。


「お、俺は月島さんに思いを伝えようとしていただけだ」


「それであれ……。有沙、怖がってるよ。やるにもやり方があるんじゃないの?」


「そ、それは……」


「今度また有沙を怖がらせたらどうなるか……わかってる?」


「ひっ!」


 和田はそう言って有沙に何の謝罪もなしにこの場から走り去っていった。


「ちょ、まだ言うことあるでしょ!!」


 初華は大きな声で言うが和田は行ってしまったので聞こえていない。


「はぁ~もう。有沙、大丈夫? あいつに変なことされなかった?」


 初華は大きなため息をつき、優しく有沙に声をかけた。


「大丈夫です」


「それなら良かった。千紘、有沙が1人だと危なっかしいからこれからは迎えに来るまで私が一緒にいることにするよ」


 いい?と初華は俺に問いかけてきた。


 俺は、クラスが違う分、有沙の側にずっといられるわけじゃない。


「あぁ、お願いするよ」


 そう言うと話を聞いていた有沙は俺の服をぎゅっと掴んできた。


「ま、待ってください。私、そんなに危なっかしくないです! 悪い奴に狙われているとかそんなのないですし!」


「「いや、危なっかしいから」」


「むぅ~2人とも心配性過ぎです……」





***





(よし、できた……)


 シュークリームを作り終え、お茶を淹れていると作っている姿を見ていた有沙の視線に気付いた。


「ずっと見ていたのか?」


 作ることに集中しずきていつから見られていたのか全くわからなかった。


「生地を作り始めた辺りからじっーと見てました。千紘が全く気付かないので私は今怒ってます」


 彼女はムスッとした表情でそう言うので俺は慌てて謝った。


「ご、ごめん……集中して気付かなかった。た、食べるか?」


「シュークリームでご機嫌を取れると思っているのですか? 私はそんなことで────」



────数分後



「ん~美味しいです」


 さっきまで不機嫌だった有沙だがシュークリームを一口食べると幸せそうな表情になった。


 シュークリームでご機嫌が取れると思っていると何とか言っていたのは何だったんだろう。


「有沙って美味しそうに食べるから作りがいがあるよ」


「そうなのですか? けど、美味しいのは本当なのでそれが千紘に伝わっているのならそれはいいことです」


 仮だが、付き合い始めた時も彼女は俺が作った料理を美味しそうに食べてくれた。


 最初に食べてくれたって確かおやつにシュークリームで夕食がオムライスだったっけ……。







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