第29話 もっと触れたい
ジェラートを食べた後は、イルカショーを見に行くことになった。
ショーが行われている最中、有沙はキラキラした目で技が成功する度拍手していた。
「千紘、千紘! 見ましたか!?」
彼女はイルカが輪の中へジャンプしたのを見て隣に座る俺の腕をぎゅっと掴んできた。
「うん、見たよ。凄かったな」
「はい、凄かったです」
楽しんでいるようで良かった。彼女は、あまり外出をする方ではないので外に出て疲れているんじゃないかと心配していたが、必要なかったようだ。
イルカショーの後は、色んなコーナーを周り、最後にお土産コーナーに寄った。
お土産コーナーにはぬいぐるみやお菓子などさまざまな海の生き物のグッズが置いていた。
せっかく来たことだからお菓子でも買っていこうと思い、クッキーを手に取り、有沙に会計をしてくると声をかけに行った。
「有沙は何か買うのか?」
ストラップが並んだコーナーに有沙は数分程いて全く動く様子がない。もしかしてたくさんありすぎて悩んでいるのだろうか。
「このイルカのストラップ、2つあるんですよ」
「そう、だな……」
そうだなとしか言えず彼女が次に言う言葉を待っていると有沙は俺のことをじっと見てきた。
「どうした?」
「2つあるのでお揃いで付けたいなと思いまして……。お、お揃いは嫌ですか?」
イルカのストラップを手に取り、彼女は聞いてきた。
「お揃い……いいよ。有沙とここに来たって思い出になるものがあったら嬉しいし」
「千紘……では、買います! プレゼントするので私が払ってきますね」
俺が払うよと言うのを想定していたのか彼女はすぐに会計へと言ってしまった。
(最近、俺の行動の先読みをされている気がする)
長い時間、一緒にいると相手の行動がわかってしまうものなんだろうか。
今からやっぱり払うよと言うのも何か違う気がしてお言葉に甘えて彼女からのプレゼントを受け取ることにした。
2人とも会計を済ませた後は、水族館を出て駅まで歩く。
帰りの電車では有沙は疲れたのか俺の肩にもたれ掛かり寝ていた。
今日は1日、子供のようにテンション高かったし疲れて当然だ。俺も楽しみすぎて眠たいが2人揃って寝てしまうと寝過ごしてしまう。
何となく好奇心で彼女の頬をふにふにしてみた。この前、南さんが言っていた通り、有沙の頬はふにふにと柔らかかった。
(ヤバい……触り始めたらやめれる気がしない)
やめようと手を彼女の頬から離すと有沙が小さく笑い、俺の手を取り、自分の頬へ持っていった。
(えっ、お、起きてないよな……?)
いい夢でも見ているのだろうか。凄く幸せそうな表情をしているが、この手はいつまでこうしていたらいいのだろうか。
彼女の頬を触った状態で暫くいると彼女は俺の手を離した。
(ど、ドキドキした……寝ている時の有沙は危険だな)
降りる駅に着くと起こした有沙の手を握り、電車から降りると俺に向かって彼女は頭を下げた。
「すみません、千紘。千紘の隣にいると心地よくてつい寝てしまいました」
「謝らなくても。今日は楽しくて疲れていたのは俺も同じだ」
そう言うと彼女の表情はふにゃと緩み、俺をポカポカと優しく叩いてきた。
(な、なんだこのよくわからないけど可愛い行動は……)
「私も楽しかったです。また行きましょうね」
「そうだな。また行こう」
***
家に帰ると有沙はクッションを抱きしめてお揃いで買ったイルカのストラップを見ていた。
イルカのストラップは、ピンクと水色の2つがあり、彼女に選ばせた結果、俺が水色で有沙がピンクとなった。
彼女の隣にゆっくりと座り、彼女の方へ体を向けた。
「有沙、顔がニヤけてるぞ」
「み、みないでください……恥ずかしいです」
有沙は、俺の言葉を聞いて慌てて顔をクッションで隠した。
「可愛い……」
「か、かわっ……千紘の言葉はたまに直球すぎます。嬉しいからいいですけど……」
彼女はそう言ってクッションをぎゅっと抱きしめる。
夕食の時間までテレビを見たり、お茶をしたりいつも通りの休日を過ごす。
どこかに出掛けるのもいいが、やはりこうして有沙といる時間も幸せだ。
「じゃあ、そろそろ夕食作ろうかな」
「あっ、私もつくっ───」
俺が立ち上がり彼女もソファから立ち上がろうとしたが、近くにあった箱に足が当たり転びそうになった。
「危なっ───」
咄嗟に彼女の体を支え、何とか転ばずにすんだ。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……」
彼女が上を向くと目があってしまい、自然と見つめあった。
近くで見るとより可愛らしく見え、このまま抱きしめたくなる。
「有沙、抱きしめてもいいか?」
「は、はい……するなら優しくぎゅっと抱きしめてくださいね」
ドキドキしながらも彼女をそっと優しく抱きしめる。
もしかしたらまた伝わっているかもしれない。けど、今はそんなことを気にしている余裕がないほど心臓の音がうるさかった。
「千紘、1ついいですか?」
「な、なんだ?」
「その……キスしてほしいです。こうして抱きしめられるのもとても嬉しいのですが、千紘にもっと触れたいです」
(ふ、触れたい……)
触れたいと言われて大切にしないとと思うと同時に何かが壊されていく感じがした。
「わ、わかった……」
彼女は目を閉じ、待っていた。ずっと待たせるわけにもいないので俺はそっと彼女の唇を重ねた。
柔らかい感触がし、唇を離した後はふわっとした不思議な気持ちになっていた。
目の前にいる彼女はほんのり顔を赤くして口元に手を当てていた。
彼女を見ていると目が合い、微笑みかけてきたので俺も微笑んだ。
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