第10話 会ってほしい人
深と別れた後、月島に今から帰るとメッセージを送った。家の前まで来ると彼女はドアの前で待っていた。
もしかしてメッセージを送ってからすぐここで待っていたのだろうか。
彼女の近くへ行くと俺のことに気付き、抱きついてきた。
「千紘、お帰りなさい!」
「お、おう……ただいま」
────『月島さん、千紘にベッタリだし、俺から見たらいい感じに見えるけどな』
(ベッタリ……か)
「千紘、どうかしましたか?」
「えっ、あぁ、いや、なんでもない。今日は何がいい?」
彼女に話しかけられて考えていた俺はハッとした。
「オムライスが食べたいです」
「わかった。取り敢えず、家に入るか」
彼女から離れて家のドアを開けて家の中に入った。
「そう言えばもうすぐ期末考査ですね。勉強会でもしますか?」
オムライスを作っていると彼女が話しかけてきた。
彼女に言われるまですっかり忘れていた。そう言えばテストが近づいているんだった。
そこまで成績は悪くないが苦手の英語はやっておかないと赤点になる可能性がある。
「勉強会なんだけど実は深とひまりで俺の家でやる約束をしてるんだけど……月島も参加するか?」
そう尋ねると彼女は即答した。
「是非参加したいです!」
「なら、2人には俺から伝えておく」
夕食後、ビデオ通話でひまりに勉強会に月島も参加すると伝えると耳が痛いほどの声量で返事が返ってきた。
『やった! あーちゃんと勉強会!』
「わからないところがあれば教えますよ」
『マジ!? あーちゃん、天使すぎるよ。ところでさ、2人って同居してるの?』
「「!?」」
ひまりの言葉に俺と月島は同じ反応をしてなぜそう思われたのかと疑問に思った。
「し、してませんよ!」
『あはは~、可愛い~。そう言えばさ何で千紘は、あーちゃんのこと名字で呼ぶの? あーちゃん、千紘に名前で呼んでほしいよねー?』
「そ、そうですね……呼んでほしいです」
そう言って月島は俺のことをじっと~見つめてきて手を握ってきた。
(これは呼んでほしいというお願いだろうか……)
「い、いつかはな……」
『えぇ~、いつかってそれ絶対呼ばないやつじゃん! けどまぁ、不意打ちに呼ばれるのもありだ』
ひまりは1人で何かに納得し、1人でこの状況を楽しんでいた。
「千紘、私はそろそろ帰ります」
「そうか。じゃあ、また明日な」
「はい、また明日です。ひまりさんも明日また学校で」
『うん、バイバーイ。そしてお休み~』
ひまりにペコリとお辞儀し、俺にお休みなさいと言った月島は家に帰っていった。
月島がいなくなってすぐひまりは大きなため息をついた。
『千紘のヘタレ』
「何だよ急に……」
『あーちゃんのこと好きなんでしょ? このままだと進展ないよ』
「……もしかして俺と月島のこと深から聞いたのか?」
好きなんでしょと確認してきたり、進展とか言うのでひまりが俺と月島が本当は付き合っていないことを知っていそうだった。
彼女には言っていないが、深から聞いた可能性はある。
『ううん、あーちゃんから聞いたの。で、どうなの? 嘘の恋人じゃなくて本当はちゃんと付き合いたいんじゃないの?』
「……俺は、今の関係でいいんだ。月島とは友達でいたい」
『ふ~ん、思ったことは伝えないと後悔するよ。じゃ、またね千紘』
「あ、あぁ……」
ひまりに思ったことを伝えないと後悔すると言われて俺は月島のことをどう思っているのかと考えた。
彼女とは偽りの恋人関係だ。本当ではないので家の中まで恋人同士のように付き合う必要はない。
だが、俺と月島の今の状況はさっきひまりが言っていたようにほぼ同居みたいなものだ。これは本当に相手が好きじゃないとしないだろう。
俺も彼女のことが嫌いじゃないからこうしてご飯を作ってあげたり、一緒にいるのだろう。
(俺は月島のことを……)
スマホから通知音が鳴り、スマホの画面を見ると母さんからメッセージが来ていた。
『今週の土曜日、遊びに行くわね』
遊びに来るってなんだよ。てか、母さん来るなら月島にも伝えておかないと。
「千紘のお母様が?」
翌朝、登校時に月島に土曜日、お母さんが来ることを伝えた。
「うん、お昼頃に来るんだけど月島はどうする?」
「是非千紘のお母様に会ってみたいです。ダメですか?」
「いや、構わないよ。月島のこと母さんに紹介したいし」
「しょ、紹介!?」
紹介したいと言うと彼女は、顔を真っ赤にさせていた。
「それはそのお友達として紹介ですよね……?」
「えっ、あぁ、うん……そのつもりだ」
「そ、そうですよね」
仮のお付き合いをしていることは母さんには言えない。彼女のことは友達として紹介しよう。
「土曜の午前は少し予定があるので行けませんが用が終わり次第連絡しますね」
***
「お父様、今日はどういった話で?」
土曜日、有沙は実家に戻っていた。彼女にとってこの家は用がなければ帰りたくない場所。
だが、今日は父に呼ばれて仕方なく来た有沙だった。
「有沙、付き合っている人がいるのか?」
「えっ……? いませんよ」
千紘とは嘘の恋人関係であって本当に付き合っていないのでここはいないと言っていいだろう。
「そうか……ならこの隣にいる人は誰だ?」
「っ……また南さんに頼んだんですね。その写真は消してください」
「わかった。話を戻すが、質問の答えは?」
お父様から見せられたのは千紘とマンションから出てきているところの写真だった。
「彼はお友達です。この時は、偶然会って少し話しただけです」
「そうかそれなら良かった。今日は、有沙には会ってほしい人がいるんだ」
(会ってほしい人?)
有沙は、嫌な予感がした。話の流れからしてもしかして……。
「どうぞ、入って」
お父様がそう言って部屋に入ってきたのは自分より少し年上で知らない男の人だった。
「有沙の2つ年上である花園朔くんだ。花園くんは私の会社の────」
お父様が何か言っているが私は聞きたくなかった。できることなら今すぐ帰りたい。
「初めまして、花園朔です。月島さん……いえ、有沙さんのことは両親から────」
自分が嫌いになりそうだ。この場から逃げたいのに逃げられない自分を。
一人暮らしできて自由になれたと思っていたがこれじゃあ、私は何も変わっていない。
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