第3話 もしかしてドキドキしてますか?

 俺と月島は同棲しているんじゃないかと疑われるほど同じ時間を過ごしている。


「だらぁ~」


 月島は、椅子に座って机に突っ伏していた。


(だらけながらだらぁ~って言う人初めて見た)


「休日、月島はどこかに行かないのか?」


「どこか……」


 お互いインドア派なため外に出ることはほとんどない。行くとしても友達と遊びに行く時と買い物がある時ぐらいだ。


「あっ、デートしませんか? 嘘のお付き合いですけどいつかデートしたのかと聞かれた時に答えられるように」


「聞かれても嘘つけばいいんじゃないか?」


「嘘はダメです。デートについて詳しく聞かれた場合、困ります」


 嘘はダメってこの前、堂々と勉強したとクラスメイトに嘘をついていたのはどこのどちらさんでしたっけ?


「デートって具体的に何をするんだ?」


「買い物デートはどうですか? ショッピングモールで買い物がしたいです。新作パフェが食べたいです!」


 ショッピングモールで買い物がしたいからというより付け足した方が本当の目的なんだろうな。


 彼女が食べることが好きなのは知っている。好き嫌いがなく何でも食べることも。甘いものが特に好きでスイーツを作ると喜んでくれる。


「いいな。家に引きこもるのは体に悪いし外に出よう」


「はいっ!」


 さっきまで机に突っ伏していたはずなのに彼女はバッと立ち上がり出かける準備をするため自分の部屋に戻っていった。


 嘘のお付き合いを初めて3ヶ月経った。あれからあの告白がしつこい男が月島に接触してくることはなくなった。


 だが、たまに宛先不明のラブレターが届くそう。手紙の内容は『好きです。付き合ってください』だ。


 これを書いてきた人は俺と月島が付き合っていることを知らないのだろうか。それか嘘で付き合っていることを知っていて告白してきているのだろうか。


 ラブレターは宛先不明なので月島は届く度に忘れ物ボックスに入れていった。ラブレターの数は今日まで10枚以上で一時期この学校にはラブレターを何度も落とす奴がいると噂になっていた。


 変な噂が広まったので月島はラブレターを回収。今は自分で家に置いているそう。捨てたらいいのに彼女は捨てにくいと言って捨てなかった。



 出かける準備ができ、家のドアを開けると同じタイミングで月島も家から出てきた。

 

「千紘! 同じタイミングなんて運命感じますね!」


「えっ、あぁ、うん……準備が早いな」


 女子だから準備にもっと時間がかかると思っていたが、意外とかからなかった。


「千紘、この服はこの前クラスメイトとショッピングに行った時に買ったものです。どう……ですか?」


 彼女の今日の服装は白の長袖のワンピースに上には茶色のカーディガンを羽織っていた。


 さっきまでの服装と違い、外出用に着替えたのだろうと思った。


「可愛いよ」


「……ほ、他には? 可愛い意外にも何か1つ感想がほしいです」


 可愛いでは、ダメだったか。可愛いのは嘘偽りないのにもっと他のことを言わなければならないのか。


「その服、月島に似合ってる」


「あ、ありがとうございます!」


 ふふっと小さく笑い嬉しそうだったので言葉は選び間違ってなかったようだ。


「じゃあ、行くか」


「そうですね」



 


***





 ショッピングモールへは電車で移動することになった。休日のせいか電車は満員で横を見ると月島が急カーブで他の人に当たらないようプルプルしながら立っていた。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですよ……これぐらい耐えてみせます!」


 誰かと競ってるわけでもないから素直に言えばいいのに……。そう思った瞬間、ガタンと電車が揺れて月島は俺の方へ倒れてきた。


「大丈夫じゃないよな。俺の方にもたれ掛かってきてもいいぞ」


「で、ではお言葉に甘えて……」


 月島はそう言って俺にもたれ掛かってきた。


(……自分で提案したことだが、これはマズイ状況だな)


「デートにはトラブルが付き物だそうですよ。今日は用心して行きましょうね」


「用心……ね」


(フラグが立ちそうな発言……)


 トラブルを起こしそうな人がそう言うと後で実際に起きそうなのであまり言わない方がいい気がする。


 今日は月島に何も起こらないよう目が届く範囲で見守っておこう。


 こんなことを考えていると俺はだんだんと自分が過保護だなと思ってしまう。


「千紘」


「ん? どうした?」


 名前だけ呼んで黙っていたのでどうしたのかと尋ねた。


「もしかしてドキドキしてますか?」


「えっ……?」


「いや、あの……何というか近いので伝わってきます」


「なっ……こ、こんな近くにいてドキドキしないわけないがない……」


 いつもと違う態度でいると余計意識しそうで何も思わないようにしていたが、月島にそう言われてさらに鼓動が早くなった気がした。


「ふふっ、実は私もドキドキしてます。千紘も一緒で嬉しいです」


「っ……」


 眩しい笑顔を向けられて俺は目をそらした。そうしていないと自分を抑えられる気がしない。


「千紘は、ショッピングモールに着いたらまず、何をしたいですか?」


「俺は特に。食料品は買いたいけど」


「食料品なら後でですね」


「そうだな。次、降りるからな?」


「わかってます。はぐれないよう手を繋ぎませんか?」


 降りる駅はかなり多くの人が利用する駅だ。はぐれる可能性はある。


「そうだな。手を繋いでおこう」


 優しくぎゅっと手を繋ぎ、駅に着くと電車から降りた。


「千紘、人が多くて出れないかと思いましたよ」


 あまり人が多いところに行かない月島は改札を出るなり俺の胸に寄りかかってきた。そしてそこから動かない。


「そうだな……えっと、いつまでやるんだ?」


「はっ! す、すみません! 何だか落ち着いてしまって」


 このままじゃ、前に進むことが出来ないと気付き彼女は俺からバッと離れた。


「さぁ、行きましょう千紘。パフェが待ってます」


 彼女はそう言って俺の手を取った。






 


 

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