第4話 嘘の彼女と友人

「ヘアピンがほしいので店から出た後はいつもよく私が行く店に行ってもいいですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます」


 次の目的地が決まり少し休んだ後、カフェを出て月島がよく行くという店へ向かうことになった。雑貨屋へ着くと彼女はヘアピンのあるコーナーへ。


「さて、どれにしましょう。千紘、私に似合うのはどれだと思います?」


 付いていく時点でそういうことを聞かれる展開にはなると予想していたがまさかの的中。ヘアピンの種類は多くいろんな色があった。


「俺が選ぶより自分の好きな色を選んだ方がいいんじゃないか?」

「そ、それはそうですけど……千紘に選んでほしいんです……」


 下を向いて最後になるにつれてどんどん声が小さくなっていくが、俺はしっかりと聞き取れていた。


「そうだな……これとかはどうだ?」


 黄色のヘアピンを手に取りそれを彼女の髪の毛に当てた。すると彼女は目の前にある鏡を見て確認する。


「いいですね、黄色。可愛いのでこれにします」

「決めるの早いな。他の色じゃなくていいのか?」


 そう尋ねると彼女は首を横に振った。


「いえ、これがいいです」

「そうか……じゃあ、買ってくるよ」


 背を向け、黄色のヘアピンを持ってレジへ向かおうとすると彼女が俺の服の袖をぎゅっと掴んできた。


「えっと、買うとは?」

「この前、掃除してくれたお礼」

「お礼……」


 俺がレジへ行く間も彼女は服の袖をぎゅっと掴んだままで店を出てからも側にいた。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……。あの、千紘、付けてもらえませんか?」


 買ったヘアピンを袋から取り出し、それを俺に渡した。


「……わかった」


 ヘアピンを上手くつけられるかわからないがやってみることにした。


「……よし、できだぞ。一応確認してみてくれ」


 俺がそう言うと彼女はポケットに入っている手鏡を取り出し、ヘアピンが付いているかを確認する。


「大丈夫です……。似合ってますか?」

「うん、似合ってるよ」

「ふふっ、千紘にそう言われると嬉しいです」


 笑顔で笑う彼女を見て、顔が赤くなっていくのを感じた。


 初めは彼女に関心がなかった。人気者だなとしか思ってなかったし、関わることもないだろう人だと思っていた。


 けど、こうして関わりができて彼女といるうちに知りたいと思うようになっていた。


「千紘、少しお手洗いに行ってもいいですか?」

「どうぞ」

「千紘はここで待っていてくださいね」


 そう言って月島は俺から離れていく。こけないかと心配になり、見えないところまで念のため後ろ姿を見ていた。


(大丈夫そうだな……って、俺、やっぱり過保護すぎるよな?)


 これじゃあ、また月島に子供じゃないですから心配しなくてもいいですと言われそうだ。


 彼女が戻ってくるまで俺は動かず待つことにした。そして20分後。


(あれ、遅くないか?)


 まぁ、お手洗いだから遅くても特に何も思わないが少し心配だ。


 メッセージを送ろうと思ったが、そう言えば月島の連絡先を俺は知らない。


(知っておけばよかった……)


 てっきりしたと思っていたがそう言えば連絡先を交換していなかった。


 さて、どうしよう。探している人がいるとインフォメーションに行くのはあれだよな……。月島が恥ずかしい思いをしてしまう。


 探し回るのも逆に入れ違いという事態が起こってしまうかもしれない。ここは戻ってくるのを待つのが正解か?


 月島は方向音痴でもないし、このショッピングモールに来たことがないわけではないので迷子ではないだろう。


 どうしようかと考えているとスマホから通知音がして確認すると学校でよく一緒にいる友達からメッセージが来ていた。


(深からだ……)


『月島さんからの伝言。ヘアピン落としたから探している。千紘、今すぐ来てくれないか?』



***



 友人の奥村深おくむらしんから月島がいるから来てとメッセージが来たので俺はすぐに場所を教えてもらい月島がいる場所へと向かった。


「月島、心配したぞ」


「千紘! 心配させてすみません、ヘアピンを無くしてしまって探していました。でも見つかったので良かっ────!?」


 俺は会うなりぎゅっと彼女を抱きしめた。待つんじゃなくて近くまで一緒に行けば良かったと後悔しながら。


「連絡先交換してないから離れるんじゃなかった……」

「千紘……あ、あの……嬉しいのですが、お友達が見ています」


 月島にそう言われて俺はハッとして慌てて離れるがもう手遅れだった。


「千紘、私達のことは気にせず続きをどうぞ~。ねっ、深」

「あぁ、俺達のことは気にしないでどうぞ」


 友人で髪をハーフアップにしている女子、望月もちづきひまりと深は、ニコニコしながら俺達を見守っていた。


「や、やるわけないだろ」

「えぇ~、気にせずやってもいいのにぃ~。それより噂は本当だったんだね。最近、昼休みはいなくなるし、放課後はどっか行くし怪しいなとは思ってたけど付き合ってるんだね」


 ひまりはうんうんと頷き、納得していた。


 自分自身、怪しい行動をしていたつもりはなかったが不思議に思われていたのか。


「初めまして、月島さん。千紘の友達の望月ひまりだよ」

「は、初めして、ひまりさん。先程は一緒に探していただきありがとうございます」


 どうやら深とひまりはヘアピン探しを手伝っていたようだ。どういう流れでそうなったかは知らないが……。


「そちらの方も……」

「千紘の友達の奥村深です。千紘がいつもお世話になってます」


 深がそんなことを言うので俺は「おい」と言ってそれはどういう意味だと目で尋ねた。


「奥村さんですか。お世話になってるのは私の方です。千紘くんには────」

「ストップだ。言ったらひまりが鬱陶しいほど聞いてくるからそれは俺とだけの秘密な」


 彼女だけに聞こえるようそう言うと月島の顔は真っ赤になった。


「は、はい……秘密です」


 月島と2人で小声で話しているとひまりがひょこっと顔を出した。


「1人だけあーちゃんと仲良くなってズルいぞ、千紘」

「あーちゃん……私のことですか?」


 いつの間にかあだ名をつけられており、彼女は私のことかとひまりに聞いていた。


「そだよ。私のこともひまりでいいよ。名字だと堅苦しいからね」


 そう言ってなぜか俺のことを見てくるひまり。呼び方なんて自由なんだから別にいいだろ。


「ひまり、2人はデート中なんだからこれぐらいに。じゃあ、また学校でな千紘」

「もっと喋りたかったけど仕方ないかぁ~。あーちゃん、千紘またね」


 ひまりは、手を振り、深と共に立ち去っていく。手を振り返す月島は2人が見えなくなるまで振っていた。


「ふふっ、優しい方達ですね。あーちゃんというあだ名を付けてもらいました」


 どうやらひまりが付けたあだ名が気に入ったようで彼女は嬉しそうな表情をしていた。


「良かったな」


 俺は優しく彼女の頭を撫でた。すると彼女の表情がふにゃりと緩むのだった。

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