第4話 あ~んしてください

 ショッピングモールに着き、まずは昼食ということでカフェに入った。


 俺はハンバーグ定食を頼み、彼女はパフェを頼んでいた。


 昼食がパフェというのはどうなのかと思ったが、彼女は今日だけは特別と言って食べることにした。


「ん~、美味しいです!!」


 パフェを一口食べる度、月島は幸せそうな表情をしている。


「良かったな」


 そう言うと彼女はこちらをじっーと見てきていることに俺は気付いた。


 俺と言うより食べているハンバーグ定食の方に目線がいっている気がする。もしかしてほしいのだろうか。


「ハンバーグ、いるか?」


「そ、そんな……ほしいなんて顔してませんよ?」


 顔を手で隠しながら言われても説得力ゼロなんだが……。


「少しだけ残しておくからパフェ食べた後にでも食べたらどうだ?」


 彼女がハンバーグが好きなのを知っている俺はそう言って一口分先にカットしておいた。


「……千紘がそう言うなら食べます」


「じゃあ、残しておくな」


「……はい」


 月島と付き合い初めてから3ヶ月経ったが、彼女のことはよくわかり始めていた。特に食べ物に関しては何が好きとか嫌いとかを。


 懐かれた理由はよくわからないが俺はこの関係を好きでいる。


 いつかは終わる関係だけど彼氏でいるうちは彼女のことをちゃんと見ていてあげようと俺は決めていた。


「千紘、あ~んしてください」


 パフェを食べ終えた月島はそう言って食べさせてくれるのを待っていた。


「自分で食べたらどうだ?」


 食べさせてくれないとわかった月島は今度はうるっとした目をしてお願いしてくる。


「……わかった。はい、どうぞ」


 未使用のフォークを手に取り、ハンバーグに突き刺し、それを彼女の口元へ持っていく。


 すると、彼女は口を開けてパクっと食べた。ハンバーグが美味しいのか、食べさせてもらえたことが嬉しいのかどちらかわからないがどうやら嬉しいらしい。

 

「どうだ?」


「美味しいです。ですが、やはり千紘には勝てませんね。千紘の料理が私は1番好きです」


「そ、そうか……ありがと」


 好きというのは俺のことではなく料理のことであるはずなのにドキドキしている。


 美味しいとか、好きとか言われたら作ってる側としたらとても嬉しい言葉だ。作りがいがあるし、また作ってやりたいなと思う。


「ヘアピンがほしいので店から出た後はいつも私が行く店に行ってもいいですか?」


「いいよ」


「ありがとうございます」


 次の目的地が決まり少し休んだ後、カフェを出て月島がよく行くという店へ向かう。


「さて、どれにしましょう。千紘、私に似合うのはどれだと思います?」


 付いていく時点でそういうことを聞かれる展開にはなると予想していたがまさかの的中。ヘアピンの種類は多くいろんな色があった。


「俺が選ぶより自分の好きな色を選んだ方がいいんじゃないか?」


「そ、それはそうですけど……千紘に選んでほしいんです……」


 下を向いて最後になるにつれてどんどん声が小さくなっていくが、俺はしっかりと聞き取れていた。


「そうだな……これとかはどうだ?」


 黄色のヘアピンを手に取りそれを彼女の髪の毛に当てた。


 彼女は目の前にある鏡を見て確認していた。


「いいですね、黄色。可愛いのでこれにします」


「決めるの早いな。他の色じゃなくていいのか?」


 そう尋ねると彼女は首を横に振った。


「いえ、これがいいです」


「そうか……じゃあ、買ってくるよ」


 背を向け、黄色のヘアピンを持ってレジへ向かおうとすると彼女が俺の服の袖をぎゅっと掴んできた。


「えっと、買うとは?」


「この前の掃除してくれたお礼にプレゼントするよ」


「プレゼント……」


 俺がレジへ行く間も彼女は服の袖をぎゅっと掴んだままで店を出てからも側にいた。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます……。あの、千紘、付けてもらえませんか?」


 買ったヘアピンを袋から取り出し、それを俺に渡した。


「……わかった」


 ヘアピンを上手くつけられるかわからないがやってみることにした。


「……よし、できだぞ。一応確認してみてくれ」


 俺がそう言うと彼女はポケットに入っている手鏡を取り出し、ヘアピンが付いているかを確認する。


「大丈夫です……。似合ってますか?」


「うん、似合ってるよ」


「ふふっ、千紘にそう言われると嬉しいです」


 笑顔で笑う彼女を見て、顔が赤くなっていくのを感じた。


 初めは彼女に関心がなかった。人気者だなとしか思ってなかったし、関わることもないだろう人だと思っていた。


 けど、こうして関わりができて彼女といるうちに知りたいと思うようになっていた。


「千紘、少しお手洗いに行ってもいいですか?」


「どうぞ」


「では千紘はここで待っていてください」


 そう言って月島は向かっていった。こけないかと心配になり、見えないところまで念のため見届けた。


(大丈夫そうだな……って、俺、やっぱり過保護すぎるよな?)


 これじゃあ、また月島に子供じゃないですから心配しなくてもいいですと言われそうだ。


 彼女が戻ってくるまで俺は動かず待つことにした。



────20分後




(あれ、遅くないか?)


 まぁ、お手洗いだから遅くても特に何も思わないが少し心配だ。


 メッセージを送ろうと思ったが、そう言えば月島の連絡先を俺は知らない。


(知っておけばよかった……)


 てっきりしたと思っていたがそう言えば連絡先を交換していなかった。


 さて、どうしよう。探している人がいるとインフォメーションに行くのはあれだよな……。月島が恥ずかしい思いをしてしまう。


 探し回るのも逆に入れ違いという事態が起こってしまうかもしれない。ここは戻ってくるのを待つのが正解か?


 月島は方向音痴でもないし、このショッピングモールに来たことがないわけではないので迷子ではないだろう。


 どうしようかと考えているとスマホから通知音がして確認すると学校でよく一緒にいる友達からメッセージが来ていた。


(深からだ……)


『月島さんから伝言。ヘアピン落としたから探しているとさ。千紘、今すぐ来てくれ』





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