第19話 千紘の鈍感なところ

「千紘、見てください! 綺麗ですよ」


 近くでやっているイルミネーションに来たクリスマス当日。


 彼女はキラキラと光っているイルミネーションを見て子供のようにテンションが高かった。


「人多いからはぐれるぞ」


 前を歩く彼女にそう言うと後ろを振り返り、ふふっと笑った。


「大丈夫です、千紘が見ていてくれますから」


「そうは言ってもはぐれる可能性がある。だから手、繋いでおくか?」


 はぐれないよう手を差し出すと彼女はパッと表情が明るくなり、俺の手を握った。


「千紘の手は、暖かいですね」


「そ、そうか……?」


「はい、暖かいです。それにしてもやはり外は寒いですね。もう少し千紘とのクリスマスデートを楽しみたかったのですが、もう……限界です」

 

 彼女が今にも凍えて倒れそうな表情をしていることに気付き、予定よりも早く家に帰宅した。


「温かいお茶入れるけどいるか?」


 いつものソファではなくこたつに潜り込んでいた彼女にそう聞くと手を振っていた。


(あれは……いると言うことでいいのだろうか)


 自分の分と有沙の分のお茶を用意し、こたつへ持って行き、テーブルへ置いた。


「どうぞ」


「わぁ~あっかいです」


 モゾモゾと起き上がった有沙は持ってきたコップを両手で持ち、手を温めていた。


「熱いからゆっくりな」


「わかってますよ。千紘は、本当に心配性ですね。私はそんなに小さな子供じゃないんですからほどほどでいいのです」

 

 本人がこう言うが心配だ。日頃、危なっかしいことをすることが多いので心配するなと言われても心配してしまう。


「じゃあ、心配されないような行動をして欲しい」


「わかりました! というか私は、心配されるほどの行動はしたことがありませんよ」

「してます」

「うぅ……し、してないです」


 彼女はそう言ってそっーとお茶が入ったコップを口につけて飲んだ。


「あ、温かいです……そう言えばひまりさんから初詣に誘われました。千紘も行きますよね?」


「うん、行くよ。毎年、ひまりと深で行っていたからな」


「仲が良いのですね」


「幼なじみみたいな仲だからな」


 深とひまりとは小学校からの付き合いで、何かのイベントがあるごとに一緒に集まっていた。


 深とひまりは幼稚園からの付き合いらしく2人が付き合い始めた時は、良かったなとお祝いしたっけ。


「羨ましいです……」


 彼女はそう言って再び、こたつの中へと潜り込んでしまった。


「寒いなら暖房付けるけど」


「お、お願いします……」


 

 


***




「明けましておめでとう、あーちゃん、千紘!」


 1月1日、近所の神社へ行くと先にひまりと深が到着していた。


「明けましておめでとうございます、ひまりさん、奥村くん」


「明けましておめでと、月島さん。千紘もおめでとう」


 深は、有沙に挨拶した後、隣にいる俺に挨拶をする。


「おめでと、今年もよろしくな」


 挨拶を終えるとお参りし、おみくじをやっていくことにした。


「わっ、あーちゃん大吉だ。私もだよ~」


「本当ですね。千紘は、どうでしたか?」


「吉だ。結んでくるよ」


 俺と深は、木に結びに行くことにし、有沙とひまりはこの場で待つそうだ。


「で、告白の話だけどどうだったんだ?」


 2人になると深が告白の結果はどうだったのかと尋ねてきた。


「付き合うことになった……偽りの関係じゃなくて本当の」


「良かったな、千紘の鈍感なところには苦労してたから本当におめでたいよ」


(俺の鈍感なところ……? 俺って何に対して鈍感なんだ?)


 何のことかわからない表情をしていると深は苦笑いで俺の肩に手を置いてきた。


「月島さん、結構千紘に対して感情駄々もれだったけど気付いてなかったのか?」


 感情が駄々もれ? 益々意味がわからなくなってきた。


 俺は有沙の何かの気持ちに気付いていなかってことなのだろうか。


「まぁ、いいや。月島さんの気持ちに気付いて鈍感なところがなくなったと思ってたけど千紘は千紘のままだったわ」


「どういう意味だ?」


「もっと月島さんのことを考えなってことだ。さっ、2人のところに戻ろうぜ」


 背中をバシッと優しく叩かれ、俺は深にアドバイスをもらった気がしてありがとうと小声で呟いた。


 有沙とひまりがいるところへ戻ると2人は、楽しそうに話していた。


「ただいま、お二人さん」


「深、待ってたよ~」


 ひまりは深に抱きつき、人がいるというのにイチャつき始めた。


 何となく2人の近くにいづらいので有沙に話しかけることにする。


「有沙は───どうした?」


 彼女の方を見ると有沙は顔を赤くして首を横に振っていた。


「な、何でもないです! 羨ましいなんて思ってませんから」


 何が?と思ったが、俺は深の言葉を思い出した。もっと有沙のことを考えるべき……ここで考えるのをやめるんじゃなくて有沙が何を羨ましいと思ったのか考えてみよう。


「ほ、本当に何も────ち、千紘!?」


 考えた結果、寂しそうで1人にさせたくないという気持ちになり、俺は有沙を抱きしめた。


「ごめん……俺、有沙の気持ちわかってあげられなくて。かなり前から俺のこと好きでいてくれたんだよな?」


「……謝らないでください。中々気付いてもらえませんでしたが、私はもっと千紘のことが好きになることができましたから」


 いつから有沙は俺に好意を持っていてくれたんだろうか。もっと早くに気付いてあげたかった。


 暫く彼女を抱きしめているとひまりと深から視線を感じた。


「あらあら、神社の近くで何をしているのかな、千紘くんや」

「俺達はいない程で続けていいぞ」


 2人からそう言われて俺はそっーと彼女から離れた。







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