第33話 悪いこと
「あっ……」
翌日。有沙と学校に着いてから少し職員室へ用があったので行き、教室へ戻ろうとすると階段のところで城市さんと遭遇した。
「あっ……とは何ですか? そこは城市さんじゃないですか、昨日ぶりですわねというところでしょう?」
「……そうなんですか?」
もしそうだとしても俺が昨日振りですわねとか言ったら少し引かれそうだと思うが……。
「もういいです。ところでこの前はポスター貼りを手伝っていただきありがとうございます」
城市さんが礼儀正しくお礼を言ってきたので俺はどう言葉を返したらいいか少し戸惑った。
ここはありがとうですわとか言うところなのだろうか。(そうであっても言いたくないが……)
「ど、どういたしまして……」
「……あなた、私と話す時、緊張しすぎではありませんの? 月島さんと話す時はため口ですのに」
「いや、城市さんが敬語で話すのでため口だと怒られそうな気がして……」
そう言うと彼女は、小さく笑った。
「別に怒りませんわよ。私は、こういうキャラでやっていますので。話しやすい口調で構いませんわ」
今、さらっとこういうキャラをやっているとか言ったけど、もしかしてお嬢様キャラを演じているのだろうか。
「わかりま……わかったよ」
「それでいいですわ。そう言えば────」
「千紘と桐子さんは、仲がよろしいのですね」
声がして後ろを見ると有沙がいて、俺の腕にぎゅっとくっついてきた。
「あ、有沙さん! ごっ、ごきげんよっ」
城市さんは、有沙が来て緊張していた。そのせいか、ごきげようと言うつもりが言えていなかった。
「おはようございます、桐子さん。前から思っていましたが、私と話す時、緊張していませんか?」
先ほど、俺が城市さんに聞かれた疑問を今度は、有沙が城市さんに尋ねていた。
俺も城市さんが有沙と話す時にやけに緊張しているのは気になっていた。俺と話す時は普通に話せているのに。
「つ、月島さんは憧れの人だからですわ」
「憧れですか?」
有沙がそう聞くと城市さんは、顔を赤くしてコクコクと頷いた。
「わ、私はもう行きますわね」
城市さんは、そう言って階段を上がっていった。
彼女が立ち去った後、有沙は疑問に思ったことを呟いた。
「千紘、私に憧れるところなんてあるのでしょうか?」
「勉強、スポーツができるところじゃないかな。俺も凄いと思ってるし」
そう言って彼女の頭をポンポンと優しく撫でると彼女は、嬉しそうに小さく笑った。
「そう言えば、明日、千紘の誕生日ですね。帰ったら掃除でもしましょう」
「掃除しなくても大丈夫じゃないのか? まあまあ綺麗だし」
1週間前に有沙と掃除して綺麗と思っていたが、彼女はじとっーとした目で俺のことを見てきた。
「何を言っているのですか? また気付かないうちに酷くなってること気付いていないのですか?」
「やっぱりやります」
有沙から謎の圧をかけられ、俺はやると言わざる終えなかった。
***
学校が終わってからすぐに掃除することにした。有沙は掃除機をかけ、俺は散らかっているものを整理整頓する。
「掃除できるようになってくださいね。足の踏み場もない家では、だらぁ~ってできません」
「す、すみません……習慣になるようたまにやってるんだけどな……」
「たまにがどれくらいの頻度か知りませんが、毎日やってください」
彼女に説教され、これからは掃除を毎日することに決めた。
掃除を終えた後は、疲れたのか有沙はソファに寝転がっていた。俺はというとキッチンで夕食の準備をしていた。
「だらぁ~このまま寝てしまいそうです……」
「寝てもいいぞ。夕食になったら起こすし」
「……あの、千紘」
「ん? どうかしたか?」
「こ、今夜……私の家に来ませんか?」
「い、家に……?」
今まで有沙が俺の家に来ることはあったが、俺が彼女の家に行ったことはなかった。
行ってみたい気持ちもあったが、勇気がないでいた。
(今夜、家に来ないかって……)
今ではなく今夜ということに俺は変なことを考えてしまった。
(いやいやいや、家にお呼ばれってだけで変なことを考えるな)
「行ってもいいのか?」
「私は構いませんよ。明日は休みですし、寝る時間まで千紘と一緒にいたいです」
「……有沙がいいなら行きたい」
「では、決まりですね」
***
夕食を食べ、お風呂にも入り、後は寝るだけの状態になり、俺は彼女の家を訪れていた。
家は俺のいえと変わらず同じ広さだ。だが、やはり女子って感じで綺麗だ。
「千紘の家みたいにソファはないのでそこに座ってください」
「お、おう……」
緊張してリビングの真ん中で突っ立っていた俺は、言われた通り向かい合わせに1つずつあるイスの1つに座った。
「有沙、お菓子持ってきたけど食べるか?」
「お菓子ですか? いいですね、お夜食。私、こんな時間にお菓子食べたことないので経験してみたいです」
午後8時を過ぎ、俺もいつもならこんな時間に食べることはないが、彼女がこの前食べたいと言っていたのを先ほどスーパーで買ったので一緒食べようと思った。
「ポテトチップス、私、初めて食べるんですよ」
「そうなんだ。スナック菓子とかあまり食べないのか?」
彼女に作ってあげるものはスイーツばかりでスナック菓子を渡すことはなかった。
「あまり食べませんね。あ、開けてもいいですか?」
彼女は足をバタバタさせながら早く食べたい様子でいた。
「どうぞ。先に食べていいよ」
「で、では……食べます」
彼女はポテトチップスが入った袋を丁寧にハサミで開けて食べ始めた。
(ハサミで開ける人初めて見たかも……)
「お、美味しいです。千紘も食べましょう」
「うん、俺も食べようかな」
彼女の向かい側に座り、ポテトチップスに手を伸ばすと有沙は袋を俺から離した。
「あ~んしてあげます」
「あ、ありがとう……」
口を開けて待っていると彼女にがポテトチップスを口に入れてくれた。
うん、やっぱりスナック菓子はいつ食べても美味しいな。夜に食べるといつもより美味しく感じる。
「なんか、こんな時間に食べてると悪いことしてるみたいだな」
「ふふっ、では、もっと悪いことをしましょう」
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