第35話 千紘の誕生日

 悪いことって言うから何かと思ったけど、こういうことか……。


 隣を見るとすやすやと寝ている有沙。ベッドに一緒に寝ることになったのだが、俺は寝れそうになかった。


 いつも彼女が寝ているこのベッドに普通に寝れるわけがない。


 寝れないときって確か、羊を数えたら寝れるんだよな。よし、数えよう。羊が─────


(……うん、やっぱり寝れないな)


 結局、寝れない寝れないと思い続けていると眠気に負けて俺は深い眠りについた。







***






 あれ、俺……寝てた?


 ぼんやりしながらも目を開けるとそこにはこちらを見ている有沙の姿があった。


 昨夜は、可愛らしいパジャマを着ていたが、黒のティーシャツ、白のロングスカートに着替えいた。


 ベッドに腰かけてこちらを見ている有沙。もしかして寝顔をずっと観察されていたのだろうか。


「おはようございます、千紘。昨日はよく眠れましたか?」


 起きたことに気付いた彼女は、俺の頭を優しく撫でてきた。


 頭を撫でられるのが心地よくてまた寝そうになってしまう。


「まぁ、寝れたかな……」


「本当ですか? まだ少し眠そうです。二度寝しましょう」

 

 彼女は俺の隣に寝転び、ぎゅっと抱きついてきた。


「なっ……あ、有沙……?」


 彼女はコアラのようにしがみつき離れようとしない。


 柔らかいものが腕に当たって、俺の理性は限界に達しそうになっていた。


「たまには千紘とこうしてだらける休日もいいですね」


 一緒にだらけようと悪魔のような誘いをされ、俺は彼女の言う通りこのままこうしているのも悪くないと思ったが、この後、抱き枕にされる展開な気がして俺はバッと起き上がった。


「朝食を食べよう。何が食べたい?」


「むぅ~、たまにはいいじゃないですか」


 彼女も起き上がり、頬を膨らませながら俺の服の袖を引っ張ってきた。


「ダメだ。このまま寝たら有沙、昼まで寝そうだし。不健康な生活はさせん」

 

「むむむ~。サンドイッチが食べたいです」


 不満な表情をしながらも彼女は、朝食に食べたいものを口にした。


「わかった。何挟む?」


「ベーコン、卵は絶対に入れてください」


 ベッドから降りて俺と有沙は食材は、俺の家にあるので家移動をしなくてはならないので隣(俺の家)へ移動する。


 その時、彼女は何か手に持っていたのが気になったが、今は聞かないでおくことにした。


「はい、できたよ」


 作ったサンドイッチを彼女に出すと有沙はキラキラした目で喜んでいた。

 

「わぁ~、ベーコンと卵です! いただきます」


 彼女は朝食はパンらしく、特にベーコンと卵を挟んだサンドイッチが好きらしい。


「美味しいか?」


「はいっ、美味しいです」


 彼女はそう言って家から持ってきたものを俺に渡した。


「千紘、誕生日おめでとうございます。早く渡したかったので今渡すことにしました」


「ありがとう」


 嬉しすぎる。中はまだ見ていないが、彼女からもらったものならどんなものでも嬉しいものだ。


 彼女に開けてもいいかと尋ねたところ頷いたので袋の中に入っているものを出すことにした。


「文房具と……これは、シュークリームか?」


 袋の中には勉強で使いそうなものがいくつかあり、後はよく知っている駅前のシュークリーム屋さんの名前が書かれた箱が入っていた。


「は、はい……ここのシュークリーム、美味しいので千紘にも食べて欲しかったんです」


「じゃあ、冷やしておやつにでも食べようかな」


 朝からシュークリームとはいかないのでキッチンへ持っていった。


「俺からも有沙にプレゼントがあるんだった」


「プレゼントですか? 私は、誕生日ではありませんけど……」


「前から渡すつもりだったんだけど……はい、どうぞ」


 そう言って俺が渡したのは鍵だ。


「鍵……も、もしかして千紘の家の鍵ですか?」


 自分の家の鍵と似ていたので彼女は俺の家の鍵だとすぐに気付いた。


「うん。有沙、俺の家に出入りすること多いし持っていてもいいんじゃないかって」


「こ、こんなに大事なものを?」


 鍵を渡すことは簡単にできることじゃない。相手が有沙であるから信頼して渡した。


「有沙が彼女って言うのもあるけど、有沙のこと大切で信用してるから」


「……ありがとうございます。気付いたら1つクッションが無くなっていても知りませんからね」


 彼女はそう言っていたずらっぽく笑った。


「その時は、1日口聞かないでおこうかな」


「そ、そんな! さ、さっきのは冗談ですから」


 彼女は自分の言ったことを撤回し、俺にぎゅっと抱きついてきた。


「わかってる、わかってる」


 不安に思った彼女の頭を俺は優しく撫でてあげた。






***







「おっ、邪魔しまーす! 千紘、誕生日おめでとう!」


 大きな声で部屋に上がるなり、祝ってくれたのはひまりだった。


「千紘、誕生日おめでと」


 隣にいる深はそう言って俺に誕生日プレゼントを渡した。


「これは?」


「前に言ってたやつ」


「おぉ、ありがと」


「私からもあるよ~。千紘に似合う帽子とだて眼鏡~」


 帽子は普通に嬉しいがなぜだて眼鏡を俺にあげようと思ったのかわからないがありがたく受け取っておこう。


「千紘、被ってみてください」

「うんうん、だて眼鏡もねっ!」


 有沙とひまりに言われて俺は帽子を被り、だて眼鏡をかけた。


「帽子も眼鏡、ちょ~似合うよ。あーちゃんもそう思─────って、え?」


 ひまりは隣にいる有沙を見ると彼女は下にしゃがみこみ、ぷるぷると震えていた。


「あ、有沙、大丈夫か?」


 俺はお腹でも痛くなったのか心配になり、声をかけると彼女は首を縦に振った。


「だ、だ、大丈夫です! あまりにもカッコよくて驚いただけですので」


「あらら……千紘のせいだよ」


 ひまりはニヤニヤしながら俺の肩に手を置いてきた。


「えっ、俺のせい?」








 

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