第32話 初華との出会い

 有沙と城市さんはどうやら知り合いらしく、有沙は俺の腕にしがみついたまま挨拶した。


「こ、こんにちは、月島さん……。その様子から本当にお付き合いされているのですね」


 気のせいかもしれないが、城市さんは有沙と話す時、緊張しているように見えた。


「えぇ、付き合っています」

「そ、そうですか……。で、では私はここで」


 城市さんは有沙に向かってペコリとお辞儀し、走り去っていった。


(何だったんだろう……)


 明らかに有沙が来てから様子がおかしくなったように思う。


「有沙は城市さんと知り合い?」

「えぇ、家関係で昔からパーティーなどでお会いします」

「ぱ、パーティー……」


 有沙がお嬢様であることは知っていたが、何だか急に彼女のことが遠い存在に見えてきた。


「つまらないパーティーですよ。周りの人にニコニコと笑って振る舞う、とても面倒なものです」


 彼女はそう言ってニコッと笑った。


「それより早く来てください。千紘の誕生会の話をひまりさんと奥村くんでしているのですが、場所がないんです」


 彼女は俺の手を取り、教室の方へと歩いていく。


 場所がないってこれはもしや俺の家でやる流れではないのか……?


 取り敢えず何も聞かず教室へ戻るとひまりが手招きしていたので彼女の元へ有沙と向かう。


「ねぇ、千紘。誕生会なんだけど千紘の家でやってもいいかな?」


 やはり予想していた通り俺の家でやろうとしていた。


「別に誕生会なんてしなくても……」

「いやいや、やろうよ! 毎年やってるんだからさ。あーちゃんも千紘の誕生日祝いたいよね?」

「はい、祝いたいです! 私の誕生会も開いてくださりましたし、千紘も開催すべきです」


 ひまりだけなら毎年してるし今年はいいよと言うことができたが、有沙に言われると断りにくくなる。


「……そうだな。俺の家は構わないよ」

「やった! ちゃんと部屋片付けておいてね」


 ひまりは俺が掃除が下手であることを知っており、俺は小さく頷いた。


 有沙からできるんですか?と疑いの目を向けられていたが、目線をそらした。



***



 放課後、有沙と初華で俺のバイト先である喫茶『MINAZUKI』へ来ていた。


 ケーキセットをそれぞれ頼み、学校でのことや休日の話をしていた。


「ひーちゃんから同棲してるって聞いたけど本当なの?」


 初華の言うひーちゃんはおそらくひまりのことだろう。中学からの仲で2人は、あだ名で呼びあっている。ちなみにひまりは初華のことを初と呼ぶらしい。


「ど、同棲してませんよ。そう思われるぐらい一緒にいる時間は長いですが、夕食を食べた後は家に帰っていますし」

「へぇ~、一緒に夕食いいね。羨ましい」

「初華さんは好きな人はいないのですか?」

「いないよ。今は恋愛するより見ている方が好きかな」


 そう言って初華は、俺と有沙をニヤニヤしながら見る。


「そうなんですね。ところで千紘と初華さんはどういう知り合いなんですか? 中学から一緒と聞きましたが」


 そう言えば有沙には初華とのことは話したことがなかったな。


 初華と出会ったのは中学2年生。同じクラスになり、席が隣になったのがきっかけで話すようになった。



─────4年前


(えっと、席は……)


 くじで決まった席へ移動し、座りそのまま休み時間へとなった。


 すると、隣の席に人が集まった。よく見ると隣の席の人を中心にして話しているようだった。


 初華はクラスで1番明るくてコミュニケーションが高く、男女関係なく仲がいい人が多かった。


 そんな彼女に少し憧れもあり、話してみたいなと思うようになった。


 そんなある日、先生から彼女にノートを渡して欲しいと頼まれた。


「花園さん、これ、渡しておいてほしいって先生から」

「あっ、ありがと、天野くん」


 彼女は、俺からノートを受け取り、また仲のいい人達の輪に戻っていくと思いきや、イスをこちらに持ってきて座った。


「天野くん、ひーちゃんと仲いいよね。ひーちゃんからよく天野くんの話聞くからどんな子なのか気になってたんだ」

「ひーちゃんってひまりのことか?」


 ひがつく、親しい友達はひまりしか思い付かなかった。


「そうそう。去年、同じクラスで仲良かったの」

「そうなんだ」


 ひまりからよく俺の話を聞くと言っていたが、一体彼女に何を話したのだろうか。おかしかなことを話していないといいのだが……。


「ちなみにひまりは、俺の何を話したんだ?」

「天野くんは、すっごい鈍いって聞いたよ」

「へ、へぇ~」


(ひまり、花園さんに何話してるんだよ……)


「後は、家事とかできて優しいとか? もしかして料理とかできちゃう?」

「まぁ、一通りは……母さんが料理はできた方が後々役に立つって言われて手伝いとかしてたら料理することが好きになってさ」

「凄いじゃん! 料理できる男子ってカッコいいと思う」

 

 彼女とはとても話しやすく、その日をきっかけに話しかけてくれることが多くなった。



***



「まっ、中学で偶然、席が近くなって仲良くなったって感じだよね?」


 初華は、俺に確認してきたでコクりと頷いた。


「そうなんですね。あっ、そろそろ帰りましょうか」


 いろいろ話しているとあっという間に1時間経っていた。夕方の6時だし、夕食の用意もしなければならない。


「今日は楽しかったし次はひーちゃん、深くんも誘ってお茶会しよ」

「賛成です。人数が多いほど楽しいものですから」


 初華の意見に有沙は賛成した。


 深がいてくれた方が少し落ち着く気がする。今日は2対1という男子1人だったからな。


「では、初華さん、また明日」

「うん、バイバイ。有沙、千紘」


 初華と別れ、俺と有沙は、スーパーに寄ってから家に帰るのだった。

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