第16話 嘘から本当へ

 12月25日。ついに来てしまった。決めたからには今日、ちゃんと彼女に気持ちを伝えよう。


 有沙は朝から俺の家でいつも通りソファに座っていた


 どのタイミングで言おうか迷う。深がタイミングで結果は変わると言っていた。失敗しないようタイミングタイミング。


「千紘。集まりましたけど昨日クリスマスパーティーをしてしまったので何だかクリスマスっぽいことができませんね」


 ソファでお茶を飲みながら俺が用意したお菓子を食べていた有沙はふと何かを思ったのかそう言った。


 確かにケーキ食べたりしてクリスマスにしそうなことは昨日やってしまった。


「クリスマスっぽいことをしなくても俺は有沙と一緒に過ごせるだけでいいんだけど、有沙は何かしたいのか?」


「あわわわわ、千紘、大丈夫ですか? いつもそ、そんなこと言わないじゃないですか!?」


 彼女は顔を赤くしてなぜか俺の発言に対して心配してくれた。


 俺は何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。


「そんなことがどんなことかわからないが俺はいつも通りだぞ」

「で、ですが……。今日の千紘は一段とカッコいいです。眩しいです」


 有沙にそう言われて俺は服装を見てキラキラしていたものを着ていたかを確認した。


「あ、ありがとう……」

 

(何も変わらずいつもの服なんだけど……)


「何もしないのもいいが、一緒にケーキでも作ってみるか?」

「ケーキ! つ、作ってみます!」


 いつも食べる専門みたいな感じだが、今日は作ってみる気があるらしい。


「じゃ、作ってみるか」


 できてもすぐには食べられないだろう。なんせさっき有沙はお菓子食べてたしな。


「ふふっ、千紘と料理するのは久しぶりですね」

「そう言えばそうだな」


 これが初めてではない。前に一度オムライスを作ろうとしていて手伝ってもらったが、全て卵が丸焦げになった。


 そこで初めて知ったんだっけ。彼女が料理できないことを。


「今日は何を作るのですか?」

「ドームケーキでも作ってみるか」

「ドーム? どういう感じのケーキですか?」


 レシピをスマホで見ていると有沙が画面を覗き込んできた。


「これ……」

「お、美味しそうです。本当に作れるのでしょうか」

「それはやってみないとわからないな。取り敢えずスポンジから作ってみよう」

「はい、お手伝いします」


 スポンジは何回か作ったことがあるのでレシピがなくても何となくいつも通りのやり方で作った。


 途中、彼女がボウルから中に入っているものを全て落としそうになったりしたが無事オーブンで焼くところまで来た。


「少しいい匂いがします」


 オーブンで焼き上がるのを観察しながら彼女はそう呟いた。


 彼女が見ていてくれる間に俺はイチゴとチョコのムースを作っていた。


「そう言えば千紘は、イルミネーションは見に行きますか?」

「イルミネーションはあんまりいかないかな。1人で行くのも変だろ?」

「変ではないと思いますが……。では、私と行きませんか?」

「有沙と?」

「はい。付き合っていたらイルミネーションに行くことがオススメとひまりさんに教えてもらいました」


 ひまりに……一体、有沙とひまりはいつも何を話しているんだろうか。有沙に変なアドバイスをすることだけはやめてほしい。


「そうだな……今日はクリスマスで混んでいるだろうし、明日にでも近くでやっているイルミネーションを見に行こうか」

「はいっ! 明日が待ち遠しいです。クリスマスデートですね」

「そうだな。クリスマスデート……」


 この感じ、今がタイミングなんじゃないか? 今言わないと、また今度と先送りしてしまう。


「有沙、少し話が────」

「あわわわ、千紘、生地が爆発しそうです!」


 爆発すると思った有沙は生地が膨らむのを見て俺の服の袖を引っ張り見てくださいと言う。


「こ、これは大丈夫なやつだから」

「そ、そうなのですか……」


 ホッとした彼女は、俺の服から手を離し、また焼き上がるスポンジを見に行った。


(タイミング……難しいな)



***



「ふふっ、ケーキ美味しかったですね」


 ケーキを食べた後、彼女はソファに座り、幸せそうな表情をしていた。


「思ってたより美味しかったな。また作ろうか」


「はいっ! また来年作りましょう」


(また来年……か。それはまた来年も一緒にいるってことだよな……?)


「ふふっ、千紘とこうして過ごす時間はとても幸せです」


 隣へ座ると彼女はニコニコしながら俺の肩へもたれ掛かってきた。


「ところで千紘。さっき何か言いかけてましたよね? 何ですか?」


 あのパニックになっている時にまさか俺の声が届いているとは……。


「いや、えっと……」


 いざとなると言葉が出てこない。さっきまであんなに言う気満々だったはずなのに。


 言葉に迷っていると有沙が俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。


「昔、話しにくいことがあった時、お母様は私が話せる状態になるまでこうして抱きしめてくれました……ゆっくりでいいので話してほしいです」


 抱きしめられるってこんなに落ち着くものなんだな。


「俺は……今まで嘘の恋人お付き合いをやってきたが俺はやめたい」

「えっ……?」


 誤解させるような言い方になってしまい、俺は慌てて次の言葉を言う。


「俺は、有沙と本当のお付き合いがしたい」

「……そ、それって」


 彼女の目を見て言いたかったので俺は有沙の肩を持ち、真っ直ぐと目を見て言った。


「あぁ……俺は、有沙のことが好きだ」


 やっと気付いたこの気持ち。返事がどうであっても俺は後悔しない。気持ちを伝えない方が後悔するから。


 返事を暫く待っていると彼女の目から涙が流れていた。


「有沙……?」


(も、もしかして泣くほど告白されることが嫌だったのか?)


「す、すみません……嬉し泣きなので気にしないでください」

「嬉し泣き……?」

「はい、嬉しかったです。本当は私からお願いしようかと思っていたのですが、先に言われてしまいました」


 今度は彼女の方から俺へ真っ直ぐな瞳を向ける。俺は彼女から向けられたその瞳から目を離すことはできなかった。


「私も千紘のことが好きです」


 彼女はまた俺にぎゅっと抱きついてきたので俺は彼女を抱き寄せた。

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