第15話 気持ちを伝える

「深、真面目な話をしてもいいか?」


 クリスマスイブ当日。有沙は後から来て、ひまりも遅れてくるそうだ。


 有沙は決めたらしい。ちゃんと自分の気持ちを伝えると。深だけ早めに来て俺と2人で話して待っていた。


「ん? もしかして恋愛系か? ついに千紘も好きな人ができたのか」


 まだどんな話をするのか言っていないはずだが、深にはバレていた。


 一緒にいる時間が多いほど言わなくてもわかってしまうのだろうか。


「えっと……まぁ、そういう系の話だ」

「へぇ~、聞かせてもらおうじゃないか、千紘くんや」


 ニヤニヤしながら深は俺が話すのを待っていたので俺は話すことにした。


「この前、有沙が佐藤という男子と話していたんだ。それを見てたらさ何かモヤッとしたんだよ」

「嫉妬ってことか。ということはまさか」

「……まぁ、そうだな」


 有沙といることが当たり前になってずっとこれからも一緒にいられると思っていた。


 けど、俺と有沙は偽りの恋人関係。いつかは終わりが来る。


 ずっと側にいると言った約束を破りたくはない。彼女の隣にいられなくなるのは嫌だ。


「良かったよ、気付いて。で、千紘はこれからどうするんだ?」

「クリスマス。明日、気持ちを伝えようと思う」

 

 何を伝えるかはもう決まってる。後は、彼女に自分の気持ちを伝えるだけだ。



***



 同時刻。有沙は花園朔さんとあるカフェで会っていた。


「ごめんなさい。私には好きな人がいます」


 この前、会った時に花園さんから交際を申し込まれていたが有沙は断り自分の気持ちを伝えた。


「そうですか……それは残念です」

「……あの、私のことが気になると前に言っていましたが、私のどこに惹かれたんですか?」


 私のどこがいいと思ったのか気になった有沙は花園さんに尋ねた。


 自分が周りからどう見られているのか、それが知りたかった。


「ふふっ、振った相手に聞くとは面白いね。そうだね、真面目な人だと思ったけど笑顔が素敵なところに惹かれたよ」


 そう言われて有沙は不思議に思った。花園さんの前で笑ったことは一度もない。この前も今日も。気付かないうちに笑っていたのでしょうか?


「そうですか……ありがとうございます。お気持ちに答えられなくてすみません」


 有沙は頭を下げて謝ると花園さんはすぐに頭を上げてと言う。


「今日、また話せて良かったよ。初華と仲良くしてあげてね」


 そう言って花園さんはお支払してからカフェを出ていってしまった。


「初華……(お、お兄さんだったんですか!?)」



***



 10分後。ひまりが来てその1時間後にインターフォンが鳴った。


「あっ、来たんじゃない!? 千紘、お出迎えだよ!」


 さっきまで深とイチャイチャしていたのにひまりは有沙が来たんじゃないかと思い、俺に玄関へ行ってこいと言ってくる。


 言われなくてもこの家は俺が住んでいるのだからでるのは当たり前だ。


 玄関へ向かい、ドアを開けるとそこには予想通り有沙がいた。


 彼女の私服姿やいつもと違う髪型に俺は意識してしまう。自分の気持ちを知ってしまったから余計にドキドキする。


 彼女を家の中に入らせると有沙は何かを思い出したのかハッとしていた。


「1日早いですが、メリークリスマス千紘。有沙サンタからのプレゼントですよ。中身はケーキです、みんなで食べましょう」


 そう言って彼女はケーキが入った箱を俺に渡した。


「お、おう……ありがと。ちゃんと自分の気持ち伝えられたか?」

「はい、千紘のおかげです」

「頑張ったな」


 そう言って俺は彼女の頭を優しく撫でた。ふにゃりとした表情をする彼女を見ていると彼女の笑顔は好きだなと思ってしまう。


「あーちゃん! 待ってたよ!」


 中々、リビングにこないので心配したのかひまりが玄関へ来て有沙に抱きついた。


「ひまりさん、ケーキがありますよ」

「わっ、食べたい!」


 ひまりは有沙と手を繋ぎ、リビングへ向かっていった。


 俺はリビングへは行かずキッチンへ行って取り分け皿を棚から取り出し、ケーキを用意する。すると、深が手伝いに来たのかキッチンへ来た。


「千紘って一人暮らしなのに皿とか多いよな。月島さんと食べることが多くなって買い足したのか?」

「あぁ、有沙と買いに行ったんだ」


 コップにお茶を淹れて、深にはテーブルへ持っていくのを手伝ってもらった。すると入れ違いで今度は有沙がキッチンへ来た。


「千紘、私も手伝います!」

「いや、大丈夫。俺が持っていくから」

「いえ、運びます」


 そう言ってこちらへ来ようとすると床にあった袋に足が引っ掛かりこけそうになった。


「だ、大丈夫か?」


 俺が何とか支えて転ばすに済んだが、怪我はしていないだろうか。


「だ、大丈夫です!」


 そう言って慌てて俺から離れる有沙の顔は真っ赤だった。


「これは俺が運ぶから有沙は待ってて」

「あ、ありがとうございます……」


 彼女は、ひまりと深がいるところへ戻り、遅れて俺は2人分のケーキが乗った皿を運ぶ。


 心臓がずっとうるさいほどドキドキしているけど俺も今、顔赤くなったりしてないよな? 


「千紘は、あーちゃんの隣ね」

「あぁ、わかった」

「千紘、こっちです」


 彼女はそう言って手招きした。


 ケーキを運び終えると座る配置がいつの間にか決まったようで俺は言われた通り、有沙の隣に座る。


「じゃ、みんな揃ったところでメリークリスマス!」


「「「メリークリスマス」」」

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