第27話 サボってはダメですかね?
基本、学校では、有沙とひまり、深の4人で行動することが多い。
ひまりは有沙と同じクラスになってからいつもベッタリだ。仲が良いようで俺としては嬉しいことだ。
「あーちゃん! 一緒に食べよっ。もちろん、千紘もねっ」
ひまりに昼食に誘われ、彼女の席の周りに弁当を持っていき、近くにあったイスを借りて座った。
「あっ、いいな~千紘のお弁当」
ひまりは、俺から受け取ったお弁当を食べようとする有沙にそう言うと彼女はお弁当をひまりから遠ざけた。
「あ、あげませんから」
「取らないって~」
「ひまりさんは、奥村くんに作ってもらったりしないのですか?」
ひまりにそう尋ねると彼女は答えることなく深の方を見ていた。
深はひまりに見られていることに気付き、ヘラっとして笑った。
「いや~千紘が珍しい方だよ。男子で料理できるって奴は少ないしな」
「深も基本的なものは作れるだろ」
長年の付き合いがあるので深が料理ができる人であることは知っている。
それなのになぜ隠すような発言をするのだろうか。
「いやいや、千紘と比べれば全然。料理と言えばうちのクラスに千紘と同じくらい料理が上手い奴がいるぞ」
「誰なんだ?」
少し気になり聞いてみると深は後ろで男子で固まって食べているグループを見た。
「あの真ん中で話してるサッカー部の間宮。女子に人気らしいよ」
「そうみたいですね。間宮くんとは、去年同じクラスでしたので知っています」
有沙は深の言葉に頷き、作ったお弁当に入った卵焼きを食べ幸せそうな顔をする。
間宮とはまだ話したことがないな。まぁ、俺はあまり大勢で群れるのが好きではないのでほとんどの人とまだ話したことがないが。
「あーちゃんは、間宮くんと話したことあるの?」
「……ないですね」
不思議な沈黙からのニコッと笑う笑顔。何の間だったんだろうか。
「千紘のお弁当には唐揚げがあるのですね」
もう間宮のことは話したくないのか有沙は俺のお弁当を覗き込んだ。
「いるか?」
「では、食べさせてください」
「わかった」
口を開けて待っている彼女の口へ食べやすいサイズの唐揚げが持っていく。
「ん~美味しいです」
有沙が幸せそうな表情をしているのを見て、ひまりと深は顔を見合わせた。
「こりゃ夫婦だね、ひまり」
「そうだね。もう恋人通り越してるよ。堂々とあ~んとは中々やるねぇ」
ひまりと深が何やら話していたが俺も有沙も誰のことを話しているのだろうかという反応をしていた。
***
家に帰ると今日は珍しく彼女は、ソファで寝るのではなく勉強をしていた。
彼女が勉強をしているなら俺も同じタイミングでやろう。
2人分のお茶をテーブルへ持っていき、彼女の目の前に座り、俺も苦手な英語をやることにした。
問題集を開き、何問か解いていたが、手が止まってしまった。
(これどうやって訳するんだ……?)
一旦、休憩にしてからまた考えようと思い、ペンを置くと前から視線を感じた。
「どうした?」
有沙は、向かい側に座る俺のことをじっと見ていたので問いかけた。
「わからないところがあれば聞いてくださいね。私、英語は得意ですから」
「おぉ、それは助かる。後で訳を教えてほしい。今からアップルパイでも作ろうかと思うんだけど有沙─────」
「いいですね、アップルパイ。私は紅茶の用意をします!」
俺が彼女の言うことを先読みされてしまい有沙はイスから立ち上がり、キッチンへと向かう。
(俺が頼もうとしていたことを言う前にわかっていたとは……)
驚きながらも俺もキッチンへ向かいさっそくアップルパイを作ることにした。
「紅茶は後で淹れるとして、私もアップルパイ作り、手伝います」
「じゃあ、お願いしようかな。俺もあんまり作りなれてないからレシピを見ながらやろうかな」
「では、作りましょうか!」
今から戦うのかな?と思うほど彼女は気合いが入っており、髪が邪魔にならないようまとめていた。
──────数分後
「いい匂いです。ところで千紘は、体育祭、どの種目に出ますか?」
アップルパイを焼いている合間に俺と有沙は、今日のホームルームの時間で決めていた体育祭の種目について話していた。
「リレーと綱引きと……後は借り人競争かな」
「借り人競争、面白そうですよね。私も参加しますよ。千紘の走る姿、楽しみにしています」
楽しみにしていますと言われましても足にはそこまで自信ないんだよなぁ。
リレーは出るつもりはなかったのだが、初華に速いし出たら?とか何とか言われて、そしたら深とひまりからも出た方が言いと言われて結局出ることになってしまった。
「有沙は? 借り人競争だけじゃないだろ?」
彼女はスポーツ万能なので種目決めの時にこれに出てほしいと体育委員から頼まれていたのを見た。
「本当は何も出たくないのですが、リレーと玉入れに出ることになりました」
(有沙さん、本音が駄々漏れになってますけど)
「千紘。体育祭、サボってはダメですかね?」
「ダメだ。ひまりが心配する」
そう彼女に言うと有沙はさぼるというのは冗談ですと呟いた。
「千紘が応援してくれるのなら頑張れる気がします」
「応援するよ。体育祭当日のお弁当は有沙が好きなものを入れるから楽しみにしてて」
「はい、楽しみにしてます」
***
「アップルパイ、美味しかったですね。食べたら眠くなってきました……」
食べ終えて勉強を再開しようとしたが彼女はソファに座ってうとうとし始めた。
「家に帰ってちゃんとしたところで寝た方がいいんじゃないか?」
ソファで寝るよりも帰って寝られる場所で寝た方がいいと言うが、彼女は動かない。
「……千紘、今なら添い寝してあげますよ。一緒に寝ましょうよ」
そう言いながら彼女は、俺の肩にもたれ掛かってきた。
(何だか悪い誘惑をされている気がする……)
「そ、添い寝って……ソファでは無理だろ」
ソファじゃなくても添い寝なんてされたら一睡もできない自信がある。
有沙のことだから添い寝と言って俺を抱き枕にして寝るに違いない。
そう思っていると隣からすうすうと寝息が聞こえ始めた。
(ね、寝てしまった……)
彼女の可愛らしい表情を見て俺はそっと顔にかかった髪を避けて優しく頭を撫でた。
一緒にいる時間が増えていくにつれて、有沙のことを大切にしたい、守りたいと思う気持ちが強くなる。
「有沙、好きだよ」
小声でそう言うと彼女は一瞬目を開けたが俺はそれに気付かないのだった。
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